【終章】暖かい日射し
その日は晴天だった。
目まぐるしい日々の最後として、ノームの葬儀が行われた。
鎮魂の鐘が街に響き、高台に作られた墓地には多くの人々が集まっていた。
そしてその葬儀は、もはや教会に属してない自分が仕切ったのだ。かなり異例のことだが、司祭は私以外にふさわしい人間がいないとはっきりと言ってくれたのだ。
着慣れた……でも久しぶりに袖を通した修道服に身を包み「神の言葉」を語る私。
そして同時に私の思いを私の言葉で伝えることも出来たと思う。
この街に来て、偶然私とよく似た一人の少女がいて、その娘の思いを手紙で、あるいは日記で知って……
ただ、そんな風に起こったことを飾らず語る。
でも埋葬が終わる頃には、私は…私の知らないあの娘を思って泣いていた。
少し不思議なことにグリフさんは泣いていなかった。ノームの棺桶に土の蓋がかけられている時間、彼はただじっと目を閉じその音に聴き入っているようだった。
「……」
とても長い時間……一人二人と人々が街に戻り、私たち四人だけがその場に残された頃、グリフさんは小さく「帰ろうか」と呟いた。
「そうだね…」
私は無意識に答えていた。
「あら」
不意にエリゼさんが私の手を指差す。
「あっ…」
この時私は、グリフさんがいつの間にか私の手を握っていたことに気が付いた。
「ご…ごめん」
私たち二人は弾けるように手を離す。
ずいぶん長い間グリフさんに触れていたのか手の平はじんわり汗ばんでいた。
「世継ぎは急がなくてもいいですよ」
「うっ…」
からかうようなエリゼさんの言葉に私の顔は真っ赤に染まっていた。
「そういう冗談は、僕の大切な人のお墓の前では止めてほしいな」
グリフさんは少し頬を緩めると、穏やかな声でそれに返す。
目を真っ赤に腫らしながらも、エリゼさんもウィヅさんも、つられたように明るい笑顔を見せていた。
「うう……みんなして……」
女性陣から向けられる好奇の目線に照れながら、私は改めて彼の顔を見る。
そこには、あの日私に見せた狂気の目はもちろん無かった。
やっと……みんなの時間が動き出したんだ――
「行こう」
そう言うと、グリフさんは館の方へ足を進める。
みんなはゆっくりと家路に向かって行く。
私は一瞬歩みを止め、空を仰いだ。
「これでいいだよね…ノーム?」
もちろん答えはなかった。
みんなの中の彼女が、きっと、それぞれに答えているのだろうと信じて……
私はみんなを追いかけることにした。
(終)――――
【あとがき】(ちょっとネタバレあり)
お読みいただき本当にありがとうございました。
もともと縦書きで書いていたものをこのサイトに即して横書きで読まれる前提で改行いじる必要があると思い試行錯誤しましたが、読まれる環境が自分でチェックできないので……そういった意味も含めすいません、読みづらい点が多々あったかと思います。
とりあえず本作品は「生きてるって何だろう」という、テーマに基づいてます。
まずキャラが出来てテーマを考えたときに、死に行く人がどう死と向き合うか…それを周りがどう関わるのかを考えたときからこの話の制作は始まります。ノームが死ぬ前にジゼルと会っていたとして…ノームがうり二つのジゼルに自分を託して壊れていく、そういう過程を書きたかったんですよね…本当は。
でもなんかしっくりいかないところに、視点を変えてみて「残された者はどうする」かについて考えていたら……
天から「剥製をお使いなさい」と声が降って、原案は吹き飛び一ヶ月で長編が書けてしまいました。テンションにかまけてネットに晒すということまでやってみました。
死を受け容れるまでの葛藤を描き、狂気に走り、狂気を正す過程の中で、自分なりに「生」を間接的に表現しようと思ったわけです。(初期構想は「日記」という形で残りましたが、個人的に固まっていたノームのキャラに不憫な思いをさせてしまったなぁという後悔も残ります…)個人的には何とかおもしろい作品に仕上がったと思いますが、いかがでしたでしょうか?
こんなよく分からない小説を書く私ですが、まだ御機会があればここに掲載していきたいと思います。
今後の参考にさせていただきますので何かしらのご意見等ございましたらお気軽に評価・感想等いただければ幸いです。
掲載後思いの外アクセスがあり、少しびびっていたりしますが…今後の糧とさせて頂きます。
最後に、重ね重ね作品をお読みいただきありがとうございました。
2011/01/11-12
アカウント制作と投稿。
2011/01/15-16
改行と節番号の表示方法を改訂。
2011/01/22
挿絵追加
2011/02/25
レイアウト一部変更
2011/04/04
レイアウト調整
2011/08/11
新作の構想がほぼまとまりましたので、8月後-9月頭をめどに今度は連載方式で作品をつづってみようと思っています。もしご興味がありましたら、そちらの作品もよろしくお願いします。
2011/09/04
連載始めました。こちらもよろしければご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n4104w/
この作品の「ウィヅの明るい版」がヒロインの現代ものですw
ntaku