ミリィ編 第二十二章 エアリスの友達② 二人の約束
握手を交わしたあとも、二人はしばらくその場に立ったままだった。
夕暮れの風が、水溜まりの表面をそっと揺らし、乾いた土の匂いが漂ってくる。
「……あの、エアリスさん」
ミリィが、少し遠慮がちに口を開いた。
「うん?」
「本当に……助けてくれて、ありがとうございます。私、こういう時、どうしていいか分からなくなってしまって……」
そう言って、視線を落とす。
人見知りなのだろう、言葉を選ぶ仕草がどこかぎこちない。
エアリスは首を横に振った。
「そんなふうに思わなくていいよ。誰だって、困ることはあるし。私も、同じ立場だったら、きっと動けなくなると思う」
その言葉に、ミリィは少しだけ肩の力を抜いた。
「……そう、言ってもらえると、安心します」
小さく微笑むその表情は、さっきまでの緊張が嘘のように柔らかかった。
エアリスはふと、ミリィの足元を見た。
「もう、ちゃんと歩けそう?」
「はい。さっきまでの痛みが、嘘みたいです」
ミリィは試すように、ゆっくりと一歩踏み出した。足首はしっかりと地面を捉え、ふらつく様子はない。
「……大丈夫そうだね」
エアリスがそう言うと、ミリィはほっとしたように頷いた。
二人は並んで、家路に向かって歩き始める。道の両脇には畑が広がり、雨に洗われた葉が夕陽を受けて淡く光っている。
「ミリィの家って、この辺り?」
エアリスが尋ねると、ミリィは少し誇らしげに頷いた。
「はい。この辺り一帯が、うちの畑なんです」
エアリスは思わず周囲を見渡した。畑はどこまでも続いているように見え、作物の列が規則正しく並んでいる。
「……すごいね。こんなに広いんだ」
「もう、ずいぶん前からみたいです。私が生まれる前から……」
ミリィはそう言ってから、少し寂しそうな声になった。
「親は、ほとんど畑仕事で忙しくて……人も雇って管理してるから、昼間は家に人がいないことが多いんです」
エアリスは、その言葉の裏にある気持ちを、なんとなく察した。
「……一人でいること、多いんだね」
「はい。退屈、というより……ちょっと、心細いです」
正直な気持ちが、ぽつりと零れた。
エアリスは少し考えてから、柔らかく言った。
「そっか。でも、学校があるし、これから友達も増えるよ」
ミリィは、驚いたようにエアリスを見る。
「……友達」
「うん。ほら、もう一人できたでしょ?」
そう言って、にこっと笑う。
ミリィは一瞬きょとんとした後、ゆっくりと笑顔になった。
「……そうですね」
二人は、自然と会話を続けながら歩いた。学校のこと、授業のこと、先生の話。話題は尽きないわけではないが、不思議と沈黙も気まずくない。
やがて、大きな家屋が見えてきた。しっかりとした造りの建物で、周囲には倉庫や納屋が並んでいる。
「ここが、私の家です」
ミリィがそう言って立ち止まる。
「……大きいね」
エアリスは率直に感想を口にした。
「そう言われること、よくあります」
ミリィは少し照れたように笑う。
「それより……エアリス」
「なに?」
「……さっき言ったこと、覚えてますか?」
「さっき?」
「家に来てほしい、って……」
エアリスは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
「うん。今度、お邪魔させてもらっていい?」
ミリィの顔が、ぱっと明るくなる。
「はい! ぜひ!」
その声は、最初に出会った時とは比べものにならないほど、弾んでいた。
夕暮れの空は、すっかり茜色に染まり始めていた。二人は、次に会う約束を胸に、それぞれの家へと別れていく。
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