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セリナ編 第十二章 セリナという姉① セリナ姉からの助け

第十二章 セリナという姉

セリナ姉は、剣術が好きな活発な女の子だ。それは家族の誰もが知っていることで、近所の人間も、学校の先生も、そして同年代の子どもたちでさえ、はっきりと理解している事実だった。

朝、まだ空気が冷たさを残している時間帯から、庭に出て素振りをしている姿。木剣を振るたびに、空を切る音が澄んで響き、その音に混じってセリナ姉自身の呼吸が、一定のリズムを刻んでいた。

剣術が好き。

それだけなら、ただの趣味で終わったかもしれない。けれどセリナ姉は、ただ好きなだけではなかった。弟妹の面倒を見ることも、同じくらい自然にできる人だった。

正直に言ってしまえば、弟である俺は、幼い頃から何度も何度もセリナ姉を頼りにしてきた。

泣いたとき、転んだとき、理不尽なことに遭遇したとき。まず最初に頭に浮かぶのは、母さんでも父さんでもなく、セリナ姉だった。もちろん、今でも頼りにしている。

妹のエレナに対しても、セリナ姉は本当に優しかった。エレナが泣けば、どこにいようとすぐに駆け寄る。理由を聞く前に、まず抱き上げて、背中をさすり、ゆっくりと声をかける。

「どうしたの、エレナ。痛かった? 怖かった?」

その声は、剣術をしているときの張りつめたものとはまるで違い、驚くほど柔らかい。泣きじゃくるエレナの目線に合わせてしゃがみ、指で涙をぬぐい、少し大げさなくらいに「大丈夫だよ」と繰り返す。そうしているうちに、エレナは少しずつ落ち着き、最後には笑顔になる。それを見て、セリナ姉はようやく安心したように、ほっと息をつく。

そんな明るくて、弟妹思いで、強くて、そして優しい女の子。

それが、俺の姉――セリナだった。

セリナ姉とは、本当にたくさんの思い出がある。剣術の練習を見学したこと。エレナの世話を一緒にしたこと。家の手伝いをして、母さんに褒められて照れくさそうにしていた姿。

その中でも、「とても世話になった」とはっきり言える出来事がある。それは、学校だった。

はっきり言ってしまえば、セリナ姉がいなければ、俺は学校に通えなかったと思う。

入学した当初、気遣ってくれる子もいた。優しく声をかけてくれる先生もいた。

けれど、どんな場所にも必ず存在する。人を見下し、試し、支配しようとする輩が。

ある日のことだ。学校の庭で、歳の近い子どもたちと遊んでいたときだった。ただ鬼ごっこをしていただけで、特別なことは何もなかった。

そこに、数人の子どもが近づいてきた。声をかけてきた時点で、空気が変わったのを、俺ははっきりと感じた。

「お前、ランダルんとこの息子なんだってな」

父さんの名前を出された瞬間、胸の奥が冷たくなる。嫌な予感が、背筋を這い上がってきた。

「親が偉いからって、調子のってんじゃねぇの」

囲まれる。距離が詰められる。逃げ道が、少しずつ塞がれていく。

「俺らがさ、この学校のしきたりを手とり足とり教えてやるからよ」

声は軽い。けれど、その目は笑っていなかった。

「授業料として、お前ん家から金持ってこいよ」

冗談じゃない。そう思ったのに、喉が張り付いて声が出なかった。

「持ってこなかったら、わかってんだろうな」

誰にも言うな。逆らうな。ここで決まる。前世の記憶が、脳裏をよぎった。逃げ場のない空気。助けを求められなかった、あの感覚。体が、微動だにしなかった。足が、地面に縫い付けられたように動かない。また、同じなのか。そう思った、その瞬間。

「あんたら、うちのルーメンに何してくれてんの!」

鋭い声が、空気を切り裂いた。

「わかってんでしょうね! ただじゃ済まさないわよ!」

その声は、俺にとって救いそのものだった。輩たちは、一瞬で顔色を変えた。

「やべぇ、セリナだ」、「やられる、逃げろ」

まるで潮が引くように、彼らは散っていった。残されたのは、膝が震える俺と、怒りを含んだ目で背中を睨みつけるセリナ姉。

「ルーメン、大丈夫?」

すぐに駆け寄ってきて、俺の肩に手を置く。

「叩かれたり、殴られたりしてない?痛いとこ、ない?」

「……うん、大丈夫」声は震えていたと思う。それでも、セリナ姉は何も言わず、うなずいた。

「私から、あいつらにきつく言っとくからね」

低く、はっきりとした声だった。

「大丈夫だよ。もう二度と、ルーメンに関わらないように言っとく」

そして、少しだけ表情を緩める。

「ルーメンも、近づいちゃダメだよ。何かあったら、すぐに私に言ってね」

「……うん。わかった。ありがとう、セリナ姉」

その言葉を口にしたとき、胸の奥がじんわりと温かくなった。

あのときは、本当に震え上がった。怖くて、息をするのも苦しかった。前世のいじめを、はっきりと思い出してしまった。また学校で、同じ運命を辿るのかもしれない。そう考えただけで、視界が暗くなった。

けれど、その不安は、セリナ姉がすべて払拭してくれた。言葉だけじゃない。存在そのものが、俺を守ってくれた。心も、体も。あの瞬間、確かに救われた。

だからこそ、今でも。どれだけ成長しても。どれだけ魔術が使えるようになっても。セリナ姉には、頭が上がらない。


最後まで読んで頂きありがとうございます


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