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セリナ編 閑話

セリナ編

閑話

エアリスは、あの異変の日々が嘘だったかのように、少しずつ、しかし確かに、元の彼女へと戻っていった。朝の挨拶の声も、授業中にこちらをちらりと見る視線も、以前と同じ穏やかさを取り戻している。学校の空気そのものが、重く沈んでいた時期を越え、再び流れ始めたように感じられた。


俺は七歳になった。

姉のセリナは九歳、妹のエレナはまだ二歳だ。エレナも、来年には学校に通う年齢になる。

この世界では、前の世界に比べて、体だけでなく心の成長も早い。

十二歳になれば、イーストレイクの街の学院へ進み、剣術や魔術の実践、読み書きや算術といった職業訓練を本格的に受けることになる。その現実が、少しずつ、しかし確実に、俺たちの生活の輪郭を形作り始めていた。


エアリスとは、以前にも増して仲良くなった。四人で遊ぶことももちろんあったが、気がつけば、エアリスが「二人で遊ぼう」と言い出すことが多くなっていた。川辺で石を投げて水紋を眺めたり、小高い丘の上で風を感じながら座り込んだり。そんな場所で、俺たちは魔術の練習をしたり、あのエアリスの魔力が暴走した異変の頃の話を、少しずつ言葉にしていった。

無理に掘り返すことはしない。けれど、完全に忘れるわけでもない。あの出来事は、俺たち二人の間に、言葉にしなくても共有できる「理解」を残していた。


ある日、川辺で並んで座っていた時、エアリスがぽつりと問いかけてきた。

「ねぇ、ルーメン。将来はどうしたいの? やっぱりお父さんの跡を継ぐよね?」

何気ない問いだったが、その声には、ほんの少しだけ緊張が混じっていた。俺は水面を見つめながら、正直に答える。

「そうだな~。将来は、やっぱり父さんの跡を継ぐのかな。まだ、ちゃんと考えたことはないけどさ」

少し間を置いてから、続ける。

「でも、エアリスを助け出せたみたいに、魔術を極めてみたいって気持ちもあるんだ。リリィ先生にも、研究室に来ないかって誘われてるんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、エアリスの表情がわずかに曇った。視線が下がり、指先がぎゅっと握られる。

「そっか……」

一度そう言ったあと、すぐに顔を上げて、

「でも、帰って来るよね?」

そう問いかけたかと思うと、何かを思いついたように、ぱっと表情を変えた。

「ねえ、私も、リリィ先生の研究室に入れるか頼んでみようかな? どう思う?」

その言葉に、俺は少し驚きつつも、首を傾げる。

「どうだろうね。リリィ先生に聞いてみないと、僕じゃ分からないかな。今度、研究室に入れる条件とか、聞いてみるといいよ」

エアリスは一瞬考え込むように黙り、それから、ふっと笑った。

「そうだね。分かった」

その笑顔は、もう以前の不安に揺れていたものではなかった。自分の足で前に進もうとする、確かな意志がそこにあった。

こうして、何でもないような日常が、また積み重なっていく。だがその裏で、俺たちは少しずつ、確実に、次の段階へ向かって歩き始めていた。

やがて訪れる学院生活。剣術、魔術、そして――家族との関係の変化。


最後まで読んで頂きありがとうございます


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