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エアリス編 第三章 魔術の特訓 ~無詠唱魔術の開花~① ライトニング

第三章 魔術の特訓 ~無詠唱魔術の開花~


 ルゼリアの丘を包む春の夜は、静寂の中にどこか神秘的な気配を孕んでいた。

 屋敷の窓から差し込む月光が、茶色の髪をした五歳の僕、ルーメン・プラム・ブロッサムの机の上を照らしている。

 僕の前には、一冊の古びた革表紙の本が開かれていた。それは、母リオラがかつて魔術を学んでいた際の大切な教本であり、彼女が「魔術は学校で教わってね」と言いつつも、僕の熱意に負けてこっそりと書庫から持ち出すことを許してくれたものだ。

(……魔力の詠唱。これが、この世界の理を動かすための言葉なんだな)

 ページをめくると、色褪せた羊皮紙の上に、魔力を帯びた独特の文字で様々な「詠唱」が記されていた。

 リリィ先生も、そして母さんも言っていた。魔術の修練には順序がある。まずは自分に合った属性の初位魔法から始め、基礎となる「火・水・風・土・癒し」の五属性を満遍なく習得していくのが、魔術師としての器を広げる王道なのだと。

 普通、光属性や闇属性は「特殊属性」とされ、初心者がいきなり手をつけることはない。けれど、僕には魔相水晶が示した「光の特性」がある。

 本の中に、数ページだけ割かれた「光魔法」の項目。そこには、光の精霊と対話し、純粋なエネルギーを現象化させるための基礎が、簡潔ながらも重みを持って記されていた。

(光魔法の最初の一歩は……「ライトニング」。攻撃魔法じゃない、ただ光を放って周囲を照らすための、もっとも基礎的な生活魔法だ。……まずは、ここからだ)

 僕は茶色の髪をかき上げ、深く呼吸を整えた。

 前世の記憶にある「物理法則」を一度脳の隅に追いやり、この世界の、この肉体に流れる未知のエネルギーに意識を集中させる。



 僕は本に書かれた通りの姿勢を取り、右手を前方に差し出した。

 胸の奥で、あの梅の花から授かった黄金の種が、静かに、けれど確実に熱を帯びるのを感じる。

「光の精霊よ、わがもとに集まり給いて、の世を優しい光で包みたまえ……ライトニング!」

 ハッキリとした声で、教本通りの詠唱を口にした。

 けれど。

 指先には何の兆しもなく、静かな部屋に僕の声が空虚に響いただけだった。

(あれ……? 光が出ない。詠唱は完璧だったはずなのに)

 翌朝、僕は朝食の支度をしている母さんの元へ駆け寄った。

「母さん、昨日、本の通りに『ライトニング』を試してみたんだけど、全然光らなかったんだ。……何が足りないのかな?」

 母リオラは、手を止めて優しく微笑んだ。彼女は僕の視線の高さまで腰を落とし、教えるように語りかけた。

「ルーメン、魔術はね、ただ言葉を口にするだけでは形にならないのよ」

 母は僕の手を取り、そっとその掌を自分の胸に当てさせた。

「詠唱と同時に、自分の中にある魔力を一点に集中させるの。そして、一番大切なのは『イメージ』よ。自分がどんな魔法を作り出したいのか、その光がどんな色で、どんな温かさなのか……心の中で鮮明に描きなさい」

 彼女は僕の茶色の髪を撫でながら、さらに言葉を継いだ。

「そのイメージを、絞り出すように手の先に集中させるの。言葉はあくまで、そのイメージを固定するための補助に過ぎないのよ。もう一度、挑戦してみて?」

 僕は母さんの言葉を反芻しながら、再び自室に戻った。

(イメージを……絞り出すように……)

 夕闇が迫る中、僕は目を閉じ、掌の中に「太陽の欠片」があるところを想像した。それは冷たく硬い光ではなく、凍えた指先を温めてくれるような、母さんの癒やしの魔力にも似た、慈愛に満ちた白。

 体内の魔力の奔流が、血管を伝って指先へと集まっていく感覚を、逃さずに捉える。

「……この世を優しい光で包みたまえ、ライトニング!!」

 イメージを爆発させるように、詠唱を放った。

 瞬間、僕の手の先に、豆電球のような淡い光がプツリと生まれた。

「……っ!」

 歓喜に目を見開いた直後、その光は儚く霧散してしまった。

(できた……! でも、すぐに消えちゃったな。……これは、安定させるまで時間がかかりそうだぞ)


最後まで読んで頂きありがとうございます


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