表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/114

エアリス編 第二章 異世界の学校 ― 魔術と剣術 ―③ 剣術

 座学の授業が一段落し、教室に独特の緊張感が走り始めた。

 それまで「読み書きなんて退屈だ」と言わんばかりに欠伸をしていたやんちゃな上級生たちが、急に姿勢を正し、入り口の方を、固唾を飲んで見守り始めたのだ。

 ガタッ、と。

 重厚な革靴が木の床を鳴らす音が聞こえたかと思うと、一人の男が教室に入ってきた。

「おい、こら、そこ。始めるぞ」

 低く、けれど部屋全体の空気を震わせるような威厳に満ちた声。

 入ってきたのは、模擬剣を数本抱えた父ランダルだった。

 家での、エレナをあやして目尻を下げていたあの優しい父親の顔は、そこにはなかった。今、目の前に立っているのは、ルゼリアの治安を守り、数多の戦場を潜り抜けてきた「ランダル・プラム・ブロッサム先生」その人だった。

「おっ、先生だ!」

「今日は新入生がいるんだろ? お手柔らかに頼むぜ」

 上級生たちが野次を飛ばすが、父の鋭い眼光がそれらを一瞬で沈黙させる。

「今日は新入生、ルーメンも加わる。だから、貴様らも基本に返って、素振りから始めるぞ」

「ええ〜っ!」

「また素振りかよ! もっと実戦的なやつをやらせてくれよ、先生!」

 生徒たちから文句や嫌がる声が上がるが、父の態度は微動だにしない。

「うるさい。基本ができていない実戦など、ただの自殺志願だ。模擬剣を構えろ!」

 その一喝で、教室は一瞬にして道場へと変わった。

 僕もセリナから借りた短い木剣を手に取り、周囲に合わせて構える。茶色の髪を汗で滲ませながら、僕は父の動きを一点に凝視した。

「――行くぞ! 振り下ろせ!」

「「「はいっ!!」」」

 何十人もの子供たちが一斉に空を斬る音。

 シュッ、という鋭い風切り音が重なり合い、教室の埃が舞い上がる。

 父は一人一人のフォームを細かくチェックし、時には厳しく修正していく。五歳の僕の小さな手足には、一回の素振りさえも重い。けれど、横で緋色の髪をなびかせながら、一寸の乱れもなく木剣を振るうセリナの姿が、僕を鼓舞してくれた。


 一通りの素振りが終わると、父は教壇の前で足を止め、三本の模擬剣を扇状に並べた。

「いいか。この世界の剣術には、大きく分けて三つの『型』がある。これを理解しなければ、剣を振る資格はない」

 父の解説は、家で教わっていた時よりも遥かに詳細で、実践的な重みに満ちていた。

「まず、『厳流型げんりゅうがた』。これは主に一対一、決闘や正面からの戦闘で用いる型だ。無駄を削ぎ落とし、相手の呼吸を読み、最短距離で急所を貫く。剣士としての基本であり、最も奥が深い」

 父が木剣を一閃させる。その速さは、五歳の僕の目では捉えきれないほど鋭かった。

「次に、『陣越型じんえつがた』。これは集団対集団、戦場での乱戦を想定した型だ。周囲の味方と呼吸を合わせ、敵の陣形を崩し、流れを支配する。一人の強さではなく、全体の調和を剣で表現する型だ」

 父の構えが、横に広がるような、どこか包容力を感じさせる形に変わる。

「そして最後が、『背散型はいさん』だ」

 父の声が、一段と低くなった。

「これはいわゆる闇討ちや、一対多数の絶望的な状況、あるいは撤退戦で使われる型だ。変幻自在の動きで敵を翻弄し、死角からの一撃で戦況を覆す。……あまり誉められた型ではないが、生き残るためには必須の技術だ」

 父ランダルは、そのすべての型において免許皆伝を持つ、王国でも指折りの剣士なのだという。その凄みの一端に触れ、僕は自分の中にあった「剣術への甘え」が消えていくのを感じた。

(……凄いな、父さんは。ただ力任せに振っているんじゃない。戦う状況すべてを網羅し、理詰めで最適解を導き出しているんだ)


最後まで読んで頂きありがとうございます


少しでもお気に召しましたら、ブックマークと☆の評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ