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エアリス編 第二章 異世界の学校 ― 魔術と剣術 ―② 学校

 ようやく辿り着いたルゼリアの学校は、木造の素朴な、けれど温かみのある建物だった。

「ついたー! ルーメン、ここが私たちが学ぶ場所よ!」

 セリナが誇らしげに校門を潜る。

 そこには、十二歳までの様々な年齢の子供たちが入り混じって集まっていた。

 小さな村の分校ということもあり、明確な「学年」という厳しい仕切りはないらしい。遊び盛りの子供たちの熱気と、時折聞こえる笑い声。

 中には、新入生である僕を品定めするように睨みつけてくる、怖そうな上級生の姿もあった。彼らは厳しい農作業や訓練で鍛えられた、野生的な鋭さと逞しさを全身から放っている。

(……とりあえず、しばらくはセリナ姉の隣で大人しくしておこう。不用意に目立つのは、今の僕には得策じゃない)

 僕は無意識に姉の隣に寄り添い、周囲の様子を慎重に観察することに決めた。


 やがて、朝の挨拶のために生徒たちが一堂に集められた。

 教壇に立ったのは、白髭を蓄え、深い智慧を湛えた瞳を持つ穏やかな表情の校長先生だった。

「え〜、皆さん。おはよう。新しい季節が始まり、またこの場所に皆の顔が揃ったことを嬉しく思います」

 校長先生が僕の方を向き、優しく手招きをした。

「今日は皆さんに紹介したい子がいます。今日から新しく、この学校に加わる仲間です。ほら、前へ来て、皆さんに名前を言ってごらん」

 僕は心臓の激しい鼓動を抑えながら、何十という好奇の視線が突き刺さる壇上へと、一歩一歩踏み出した。

「……あ、はい。ルーメン・プラム・ブロッサムです」

 茶色の髪を微かに揺らしながら、僕は五歳の子供として出せる、最大限にハッキリとした声で答えた。

「はい。名前の通り、彼はセリナ・プラム・ブロッサムさんの弟でもあり、剣術を教えてくださっているランダル・プラム・ブロッサム先生の息子さんです。皆さん、仲良く、よろしくお願いしますね」

 ――ざわざわっ、と。

 その瞬間、広場全体が目に見えて大きく波立った。

「おい、あの子がランダル先生の息子かよ……」

「セリナの弟か。あいつもやっぱり、剣が強いのかな?」

「あんなに大人しそうなのにか?」

 好奇心、期待、あるいは少しの疑念。様々な感情が混じり合った視線が、僕の小さな身体を包み込む。

(……いい意味でのざわつきであってくれ。……でも、どうやら僕の予想以上に、この村での父さんと姉さんの存在感は大きいみたいだ)

 僕は、緋色の髪をなびかせて「どうだ!」と言わんばかりに胸を張るセリナ姉と、驚きに包まれる生徒たちの顔を交互に見つめながら、これから始まる未知の「学び」への覚悟を、改めて固めるのだった。


 校長先生による紹介が終わり、周囲のざわめきが波紋のように広がる中、僕の「学校」という名の戦場での第一日が本格的に幕を開けた。

 ルゼリア分校の教室は、外見通り木の温もりに満ちてはいたが、そこに集まる生徒たちの熱気はそれ以上に強烈だった。五歳の僕から十二歳の上級生までが同じ屋根の下に座り、それぞれに与えられた課題に向き合う。

 最初の授業は、読み書きと算術だった。

 教壇に立つ校長先生が、古びた黒板に独特の曲線を描く文字をさらさらと書いていく。

「いいですか、皆さん。文字は魂の形です。正しく書くことは、自分の意思を正しく世界に刻むことと同じですよ」

 校長先生の穏やかな声が響く中、僕は配られた羊皮紙と羽ペンを見つめた。

(……これは、想像以上に手強いな)

 前世の記憶がある僕にとって、「学習」そのものに抵抗はない。けれど、目の前の文字は日本語でもなければ、アルファベットでもない。それは「ルシアーク文字」と呼ばれる、魔力を帯びた図形のような複雑な体系だった。曲線と点、そして微かな勾配によって意味が劇的に変化する。

 数字にしてもそうだ。アラビア数字のような利便性はなく、一つ一つの数が精霊の象徴と結びついた、独自の記号で表されている。

「ルーメン、大丈夫? これはね、『風』っていう意味の文字だよ。こうやって、最後に筆を跳ねるのがコツなの」

 隣の席に座ったセリナ姉が、僕の顔を覗き込みながら優しく教えてくれる。彼女の緋色の髪が、窓から差し込む陽光を受けてキラキラと輝き、慣れない文字に苦闘する僕の視界を明るく彩ってくれた。

「ありがとう、姉さん。……難しいけど、面白いね」

「ふふん、お姉ちゃんに任せなさい! 私も最初は苦労したんだから」

 僕はセリナの手元を真似ながら、一文字ずつ丁寧に羊皮紙に刻んでいった。

(文字さえ覚えてしまえば、前世で培った論理的思考や応用力が武器になるはずだ。今はまず、この世界の土台を自分の中に構築することに集中しよう)

 羽ペンが紙を引っ掻く音、周囲の子供たちが上げる小さな唸り声。それらすべてが、僕がこの世界の一部になっていくための大切な儀式のように感じられた。


最後まで読んで頂きありがとうございます


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