表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/139

ミリィ編 第二十七章 エアリスとルーメン⑤ エアリスの見解

エアリスは大木に背中を預けたまま、空を見上げていた。さっきまでの真剣な表情が、少しだけ和らいでいる。

「……ルーメン」

静かな声だった。

「一つだけ、はっきりしてることがあると思う」

俺は、エアリスの方を見る。


「ミリィは、今、普通じゃない。でも、それは“おかしくなった”って意味じゃないと思う」

その言葉は、慎重に選ばれていた。

「たぶん、ルーメンの魔力に触れたことで、ミリィの気持ちが、増幅されて表に出やすくなってる」

増幅、という言葉が胸に残る。

「好きって気持ちがなかった人が、突然好きになるわけじゃないと思う。でも、元々あったものが、自分でも抑えられないくらい、前に出てきてる」

俺は、何も言えずに頷いた。

確かに、ミリィの言葉や態度には、“作られた感じ”はなかった。むしろ、素直すぎるほどだった。

「だからね」

エアリスは、こちらを見て微笑んだ。

「今すぐ答えを出そうとしなくていいと思う」

その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。


「ルーメンがどう思ってるかも大事だし、ミリィの気持ちが、時間と一緒にどう変わるかも見ないといけない」

風が、二人の間を通り抜ける。

「一つだけ、約束してほしいな」

「……なに?」


「一人で全部背負おうとしないこと」

エアリスは、そう言ってから、少し照れたように視線を逸らした。

「私でよければ、ちゃんと話、聞くから」

その一言で、

俺がずっと感じていた“見張られているような感覚”が、

ほんの少しだけ薄れた気がした。

「ありがとう、エアリス」

それだけ言うと、エアリスは小さく頷いた。


丘を降りる頃には、空の色が少しだけ傾いていた。夕方特有の、柔らかい光が道を照らしている。

「そろそろ帰ろうか」

エアリスがそう言い、俺たちは並んで歩き出した。さっきまでの重たい話題が嘘のように、足取りは静かだった。

けれど。川沿いの道に差しかかった瞬間、胸の奥が、わずかにざわついた。

(……まただ)

耳ではなく、頭の奥、もっと内側から、“何か”が触れてくる感覚。声ではない。はっきりした言葉でもない。


ただ、水の気配と一緒に、感情だけが流れ込んでくる。

――会いたい。

――今、何してるのかな。

――今日も、優しい顔してるのかな。

輪郭の曖昧な想いが、川の流れに重なって、胸に広がる。

俺は思わず足を止めた。

「ルーメン?」

エアリスが振り返る。

「……いや、大丈夫」

そう答えたものの、胸のざわつきは消えなかった。

(終わってない……)

昨日より弱い。でも、確実に“続いている”。

エアリスは、何も聞かずに歩調を合わせてくれた。それが、逆にありがたかった。

家が近づくにつれ、ざわめきは、少しずつ遠のいていく。

水から離れると、気配も薄れる――その事実が、余計に状況をはっきりさせていた。


「明日も……様子、見よう」

俺がそう言うと、エアリスは静かに頷いた。

「うん。無理はしないで」

別れ道で手を振り、それぞれの家へ向かう。

夜、布団に入っても、すぐには眠れなかった。

水差しに入った水を見つめる。揺れる水面に、何かが映ることはない。

――それでも。

胸の奥に残る、淡く、切実な感情の余韻。

(ミリィ……)

名前を呼ばなくても、想いだけが、静かに伝わってくる。これは、好意なのか。

それとも、流れ込んだ魔力が残した“残響”なのか。

答えは、まだ出ない。

ただ一つ確かなのは、この現象は、自然に消えてくれるものではないということだった。

翌日、俺はもう一度、向き合わなければならない。ミリィと。そして、自分自身と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ