ミリィ編 第二十五章 ミリィの挑戦⑨ 三度目のルーメンの魔術指導
「……もう一回……お願い……できますか……?」
俺は、一瞬、天を仰いだ。
本当に、仕方のない子だ。
「……最後の一回だぞ」
「……本当に、最後だからな」
その言葉に、ミリィは、満面の笑顔で頷いた。
「……はい……お願いします……!」
俺は、もう一度だけ、深く呼吸を整えた。今度は、“見せる”だけじゃない。“残す”。そう心の中で決める。
「……いくぞ、ミリィ」
「……はい……」
今度は、先ほどよりも、さらに慎重に。
魔力を流し込むのではなく、ミリィ自身の魔力が“自分で動く”ように、ほんの少しだけ、進む方向を示す。
「……いいか……俺の魔力を、追いかけるな」
「……自分の魔力を……“同じ形”に……」
「……なぞるだけだ……」
ミリィは、唇をきゅっと結び、真剣な表情で頷いた。
再び、手を重ねる。
今度は、さっきよりも、ミリィの魔力がはっきりと“動いている”のが分かる。
「……そう……そこだ……」
「……ル、ルーメン……先生……が入って……」
魔力の流れが、一点に収束し、そこから“切る”。
「……詠唱……いくぞ……」
「……はい」
二人の声が、静かに重なる。
「偉大なる水の魂よ、ここに集いし水の根源よ、脅威なる力を今ここに現したまえ……ウォータースライス」
ミリィの魔力が、一瞬、震えた。だが、崩れない。
「……今だ……!」
その瞬間。
――ヒュンッ。
空気を裂く、鋭い音。
水が、薄い円盤となり、まっすぐに飛び
――ザンッ。
川が、先ほどよりも、さらに深く、はっきりと、割れた。
「……っ……!!」
ミリィの肩が、大きく跳ねる。
だが、今回は、
「……今の……」
自分で、分かっている目だった。
俺は、すぐに魔力を離した。
「……どうだ……?」
ミリィは、しばらく黙ったまま、自分の手を見つめていた。
指先が、わずかに震えている。
「……わかりました……」
「……ルーメン先生の、優しい魔力が……導いてくれました……」
小さく、だが、はっきりとした声。
「……魔力を……集めるんじゃない……」
「……“削ぎ落として”……“刃”にする……」
その言葉に、俺は、思わず微笑んだ。
「……そうだ」
「……それが、ウォータースライスだ」
ミリィは、胸の前で、ぎゅっと拳を握る。
「……すごい……」
「……頭じゃなくて……体で……分かりました……」
「……ルーメン先生の魔力が……体に残ってます……」
「……でも……」
少しだけ、視線を伏せて、続ける。
「……まだ……一人だと……怖い……」
その正直な言葉が、とてもミリィらしかった。
「……最後に……確認する……」
俺は、優しく言った。
「……一人で、やってみろ」
「……失敗しても、いい」
「……感覚が残っているうちに」
「……俺が、見てる」
ミリィは、一瞬だけ、不安そうに俺を見る。
だが、ゆっくりと、深く頷いた。
「……はい……」
一歩、前へ。ミリィは、川を見据え、静かに呼吸を整える。逃げない。目を逸らさない。その背中に、もう迷いはなかった。




