ミリィ編 第二十五章 ミリィの挑戦⑧ 二度目のルーメンの直接指導
その瞬間、俺は決めた。二度目の奥の手を使う。
俺は、静かにミリィの背後へ回った。
「……ミリィ」
「……はい……」
呼びかけると、ミリィの肩が、ぴくりと揺れる。
「……二回目だからわかってると思うけど、これからやることは……本当は、してはいけない、今回か、もう一回までだ」
そう前置きすると、ミリィは一瞬だけ息を詰まらせた。
「……でも……どうしても越えられない壁がある時……」
俺は、その続きを、慎重に選ぶ。
「……“感覚”だけを、体に覚えさせる方法をもう一度使う」
ミリィは振り返って、
「……はい、ルーメン先生、わかってます……」
「……もう一度、魔力に、直接触れる」
一瞬、川の音が、やけに大きく聞こえた。
「……怖い?」
そう聞くと、ミリィは、一拍置いて、首を振った。
「……怖くないです、ルーメン先生の魔力優しいですから……」
声は小さいが、確かに、揺れていない。
「……ルーメン先生を……信じてますから……」
その言葉に、胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
俺は、ゆっくりと手を伸ばした。
「……じゃあ……もう一度言っておく」
「……あと一回か多くても二回まで」
「……わかってるだろけど、それ以上は、体に負担がかかる」
「……いいね?」
「……はい……」
ミリィは、ぎゅっと拳を握り、覚悟を決めた表情をした。
俺は、ミリィの背後に立ち、その両手を、そっと包み込むように握った。
「……っ……」
ミリィが、小さく息を呑む。
「……力、抜いて……」
「……は、はい……」
俺は、自分の魔力を、ほんのわずかだけ解放した。ゆっくり。慎重に。
ミリィの体内を流れる魔力の“道”を、壊さないように、なぞるように。
「……詠唱、いくよ」
「……はい……」
二人の声が、重なる。
「偉大なる水の魂よ、ここに集いし水の根源よ、脅威なる力を……」
その瞬間、再び“流れ”が、はっきりと繋がった。
ミリィの魔力と、俺の魔力が、一点で重なり、同じ方向へと走る。
「……っ……!!」
ミリィの体が、びくりと震えた。
「……わかる……?」
「……っ……!」
返事はない。だが、俺には、分かった。
ミリィの魔力が、再び“刃”の形を、理解した瞬間だった。
「……今だ……意識、離すな……」
水が、空中で、薄く、鋭く、円を描く。
次の瞬間。
――ズンッ。
川面が、一直線に、割れた。水が、左右へ弾け飛ぶ。
「……っ……!!」
ミリィは、目を見開いたまま、声を失っている。
俺は、すぐに魔力を引いた。
「……ミリィ……今の……」
「……っ……」
数秒遅れて、ミリィの声が、震えながら溢れた。
「……この前と一緒、ルーメン……ルーメンの魔力が……中に……」
胸元に手を当て、必死に言葉を探す。
「……この前よりも、入ってきたのが……わかった……」
「……やっぱり、すごい……すごいよ……」
「……あったかくて……静かで、優しくて……」
「……なんだか……やっぱりとても安心する……」
その言葉に、俺は、思わず息を詰めた。
「……それが……“感覚”だ……今の流れ……今度は忘れるな……」
ミリィは、何度も、深く頷いた。
「……はい……」
だが、次の瞬間。
「……で、でも……」
「……また、びっくりしすぎて……全部、覚えきれなかったかも……」
そう言って、恐る恐る、ミリィはルーメンの顔を見上げる。




