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ミリィ編 第二十五章 ミリィの挑戦⑥ ミリィの再挑戦

少し時間を置いてから、ミリィは再び川辺に立った。

さっきまでの高揚が嘘のように、今は肩を落とし、両手を胸の前でぎゅっと握っている。

魔力を使い切ったわけではない。むしろ、怖さが、先に立っている。


「……ミリィ」

俺が声をかけると、ミリィはびくっと肩を震わせた。

「大丈夫だよ。失敗しても、誰も怒らない」

「……はい」

返事は小さいが、逃げようとはしていない。その姿勢だけで、十分だった。

エアリスが、少し離れた場所から見守っている。心配そうだが、口は出さない。

今は、ミリィ自身が向き合う時間だ。


「さっき感じた流れ、覚えてるか?」

「……はい……でも……」

ミリィは唇を噛む。


「……同じようにできる気が……しなくて……」

「それでいい」

俺は、はっきり言った。


「最初から同じにできるやつなんて、いない」

ミリィは、少し驚いた顔でこちらを見る。

「俺だってそうだった。さっき見せたのは、完成形だ」

「……完成形……」

「そこに行くまで、何十回、何百回、失敗したと思う?」

ミリィは、ゆっくりと首を振った。

「……わかりません……」

「数えきれない」

そう答えると、ミリィの表情がわずかに緩んだ。


「だから、今日は“出すこと”より、“近づくこと”を目標にしよう」

「……近づく……」

「そう。刃にならなくていい。“集まる”ところまででいい」

ミリィは、深く息を吸い込んだ。

「……わかりました。やってみます」


詠唱を始める。

「偉大なる水の魂よ、ここに集いし水の根源よ……」

声はまだ硬い。魔力の動きも、どこか散漫だ。

「……脅威なる力を今ここに現したまえ……」


水面が、わずかに揺れる。だが、切れない。刃にもならない。

水の塊が、ぼやけた円盤状になり、そのまま力を失って川へ溶けた。

「……っ」

ミリィの肩が、がくりと落ちる。

「……やっぱり……できない……」

「止めるな」

俺は、すぐに声をかけた。

「今の、どこまでいった?」

ミリィは、目を閉じ、必死に思い出そうとする。


「……集まった……でも……一点に……ならなかった……」

「それでいい」

俺は、頷く。

「今のは、“途中まで正解”だ」

「……え?」

「魔力は、ちゃんと集まってた。

 問題は……」

俺は、川を指差す。

「“怖さ”だ」

ミリィは、はっと息を呑む。


「切る魔術だ。自分でも、無意識にブレーキをかけてる」

「……」

「怖いのは、悪いことじゃない」

俺は、少し声を落とす。


「怖いってことは、それだけ、魔術を理解してるってことだ」

ミリィの目に、涙がにじむ。


「……私……できないんじゃなくて……怖かったんですね……」

「そうだ」

俺は、優しく言った。

「だから今日は、ここまででいい」

「……え?」

「今の一回で、十分進んだ」

ミリィは、しばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと頷いた。

「……はい……でも……」

顔を上げ、まっすぐに俺を見る。


「……明日も、来ます」

その声には、もう逃げの色はなかった。

「……ああ」

俺は、微笑んだ。

「明日も、付き合うよ」

エアリスが、ほっとしたように息を吐く。

川の流れは、変わらず穏やかだった。

だが、確実に、ミリィは前へ進んでいた。


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