ミリィ編 第二十五章 ミリィの挑戦⑤ ルーメンの直接指導
俺は、ゆっくりと息を整えた。
前に立つミリィの体温が、掌越しに伝わってくる。子ども特有の、少し高めで、不安定な鼓動。
「……深呼吸しようか」
「はい」
ミリィは言われた通り、静かに息を吸い、吐いた。肩の力が、少しずつ抜けていく。
「今からすることは、“教える”んじゃなくて、“感じさせる”」
俺は、なるべく穏やかな声で続ける。
「ミリィの魔力の流れに、俺の魔力を一時的に重ねる」
「……重ねる」
「そう。無理に引っ張らない。押し付けない。流れをなぞるだけだ」
ミリィは小さく頷いた。
「怖くなったら、すぐ言うんだぞ」
「……はい」
その声は、少しだけ震えていた。
俺は、ミリィの手を包むように握る。指先から、ゆっくりと魔力を滲ませる。
最初は、ごく微量。水面に落ちる一滴のように。ミリィの体が、びくりと小さく反応した。
「……っ」
「大丈夫。今、魔力が触れただけだ」
「……あ、はい……」
そのまま、少しずつ流量を増やす。
魔力は、彼女の腕を通り、胸の奥へ、そして、腹部へと巡っていく。
「……すごい……」
ミリィの声が、かすれる。
「温かい……水の中にいるみたい……」
「それが、俺の魔力の“質”だ」
俺は答えながら、ミリィ自身の魔力の動きを探る。
……やっぱり、水属性だ。柔らかいが、量は多い。流れは太いのに、制御が甘い。
「今、感じてる場所、意識して」
「……はい」
「そこから、一点に、集めるイメージを持つ」
ミリィの呼吸が、少し荒くなる。
「……集まって……きてます……」
「いい。無理に早くしなくていい」
魔力を、さらに深く同調させる。
すると、ミリィの魔力が、俺の魔力に引っ張られるように、自然と形を変え始めた。
「……っ、あ……!」
ミリィの声が上ずる。
「ルーメン……中に……流れが……!」
「それでいい。今は、覚えるだけだ」
俺は、魔力の流れを一点に集約し、一瞬で、鋭く伸ばす。
「この感覚だ」
低く、詠唱を重ねる。
「偉大なる水の魂よ――」
ミリィの魔力と、俺の魔力が完全に重なった瞬間。
「――ウォータースライス」
水面が、音もなく切り裂かれた。川が、一直線に割れる。
「……!」
ミリィの体が、震える。
「……今の……!」
「見なくていい。感じろ」
俺は、すぐに魔力を引き戻す。
「今の“瞬間”を、忘れるな」
ミリィは、荒い呼吸のまま、何度も頷いた。
「……わかる……魔力が……刃になった……」
「それが、上位だ」
俺は、そっと手を離した。
ミリィは、その場にへたり込みそうになり、エアリスが慌てて支える。
「ミリィ!大丈夫!?」
「……だいじょうぶ……」
ミリィは、少しふらつきながらも笑った。
「……すごい……今まで、全然わからなかったのに……」
その目は、確かに光っていた。
「でも、これは一回目だ」
俺は真剣に言う。
「あと、せいぜい二回。それ以上は、体に負担が出る」
「……はい」
ミリィは、はっきりと答えた。
「でも……」
小さく拳を握る。
「次は……一人で、やってみたいです」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
「……それでこそ、挑戦だ」




