ミリィ編 第二十四章 ミリィとエアリスとルーメンと③ ミリィの来訪
翌日の放課後。家に帰ると、いつもの匂いが鼻をくすぐった。薪の香りと、台所から漂う温かい料理の気配。これだけで、少し肩の力が抜ける。
「ただいま」
そう言うと、母さんが顔を出す。
「おかえり、ルーメン。今日はお友達が来るんでしょう?」
「うん。エアリスと、その……ミリィって子」
「そう。じゃあ、少し早めに準備しておくわね」
その自然な言い方に、胸の奥がほっとする。歓迎される場所があるというのは、それだけで安心できる。
しばらくして、外から足音が聞こえた。軽快な音と、その後ろに少し控えめな足取り。
「来たかな」
扉を開けると、そこに立っていたのはエアリスとミリィだった。
「こんにちはー!」
エアリスはいつも通り元気だ。その横で、ミリィは両手を前で揃え、少し緊張した面持ちで頭を下げる。
「ミ、ミリィ・アクアレーンです……その……今日は、よろしくお願いします」
声は少し震えている。けれど、ちゃんと言えてる。
「いらっしゃい」
母さんが優しく声をかける。
「遠慮しないで、どうぞ」
「……はい」
家の中に足を踏み入れた瞬間、ミリィはきょろきょろと周囲を見回した。壁、床、窓。何も特別なものはない、ごく普通の家。それでも、知らない場所に入るというだけで、心臓は早くなるものだ。
「こちらが姉のセリナです」
「こんにちは」
セリナ姉は穏やかに微笑み、軽く頭を下げる。
「初めまして。今日はゆっくりしていってね」
その落ち着いた声に、ミリィの表情が少しだけ和らいだ。
「妹のエレナです」
「こんにちは!」
エレナは興味津々といった様子で、ミリィをじっと見つめている。
「……かわいい」
ミリィが、思わず漏らす。
「何歳なの?」
「三歳だよ」
「……私も、こんな妹がいたらよかったな」
その言葉には、羨ましさと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。
「じゃあ、とりあえず遊ぼうか」
セリナ姉がそう言って、皆を居間に誘う。
最初のうちは、ミリィはエアリスの隣から離れなかった。話しかける相手も、自然とエアリスばかりになる。
けれど、セリナ姉が自然に声をかける。
「ミリィちゃんも、こっちにおいで。みんなで一緒に遊びましょう」
その一言が、きっかけだった。
「……はい」
ミリィは少し迷ってから、一歩前に出る。それだけで、空気が変わった。
エレナが無邪気に手を引く。
「ミリィちゃん、いっしょにあそぼ!」
「……うん」
気づけば、笑顔が増えていた。最初は小さく、控えめだった笑い声が、次第に大きくなる。
遊び終える頃には、ミリィはすっかり輪の中にいた。遠慮がちだった仕草も、どこか自然になっている。
「……楽しいです」
ぽつりと呟いたその言葉が、とても大事なものに聞こえた。
「それはよかった」
セリナ姉が微笑む。
「また、いつでも来ていいのよ」
ミリィは、少し驚いたように目を見開いてから、深く頷いた。
「……ありがとうございます」
その日の終わり。
エアリスとミリィと俺の三人で、並んで話す時間ができた。
「ねえ、ルーメン」
ミリィが、少しだけ遠慮がちに切り出す。
「魔術……教えてもらえるって、本当ですか?」
「うん。本当」
「水以外の魔術も、使ってみたくて……」
その瞳は、期待で輝いている。
「じゃあ、明日は三人で練習しよう」
「……本当ですか!」
「もちろん」
ミリィは、はっきりと笑った。
「ありがとうございます。すごく、楽しみです」
その笑顔を見て、俺は思った。この子は、きっと伸びる。魔術だけじゃない。人としても。そんな予感が、胸の奥で静かに膨らんでいた。
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