ミリィ編 第二十四章 ミリィとエアリスとルーメンと② 3人の学校生活
そのとき、教室の方から、校長先生の声が響いてきた。
「こらー! いつまで校門で集まってる! 早く席につけー!」
一瞬、空気が止まる。
それから、エアリスが舌を出す。
「やばっ!」
ミリィが慌てて背筋を伸ばし、俺も笑いながら言った。
「行こう。遅れると怒られる」
「は、はい……!」
ミリィは返事をして、そして、一歩、俺とエアリスの隣へ出た。昨日までなら、きっと半歩後ろだった。今日もまだ、完全に隣ではない。けれど、確かに「前へ出た」、それだけで、俺は嬉しかった。
三人で教室へ向かう。廊下の光が、朝の白さから少しずつ温度を帯びていく。
教室に入ると、いつもの朝のざわめきが耳に飛び込んできた。机を引く音、挨拶の声、誰かが笑う気配。変わらない日常の中に、ほんの少しだけ新しい空気が混ざっている。
校長先生の話が始まると、教室は徐々に静かになった。朝礼の内容は、正直ほとんど頭に入ってこない。視線は自然と、少し前の席に座るミリィの背中へ向かってしまう。
背筋は伸びている。けれど、肩はほんの少しだけ力が入っている。
「……緊張してるんだろうな」
そう思うと、胸の奥がむず痒くなる。昔の自分を見ているような気もした。
知らない場所。知らない人。仲良くなりたいけど、怖い。
そんな気持ちは、誰だって経験がある。
朝礼が終わり、授業が始まる。文字を書き写す音が、教室に規則正しく響く。
ふと、前の席のミリィが、ノートを取る手を止めた。少しだけペン先が震えている。
「……?」
俺はそっと、机の横に身を乗り出した。
「ミリィ、大丈夫?」
声はできるだけ小さく。
ミリィは一瞬びくっとして、それからゆっくり振り返る。
「あ……はい、大丈夫です」
そう言いながら、視線はノートに戻る。
けれど、どこか安心したようにも見えた。
「分からなかったら、後で聞いていいから」
「……ありがとうございます」
その一言が、少しずつ距離を縮めていく感覚を、はっきりと伝えてくる。
授業が終わり、休み時間になると、空気が一気に緩んだ。椅子を引く音、立ち上がる気配、友達同士の笑い声。
エアリスが真っ先に立ち上がり、ミリィの方を見る。
「ミリィ、次の授業の前、少し外行こうよ!」
「えっ……あ、はい」
戸惑いながらも、断らない。それだけで、昨日よりも大きな前進だ。
三人で廊下に出る。窓から差し込む光が、床に長い影を作っている。
「ねえ、ミリィ」
エアリスが歩きながら言う。
「ルーメンの魔術、すごいんだよ。私、いっぱい教えてもらったんだから」
ミリィが、そっとこちらを見る。
「……聞きました。光属性で5属性もすごいんですよね」
「あ、うん。まあ……一応」
照れ隠しに、視線を逸らす。
「すごいってほどじゃないよ。でも、良かったら教えるよ」
その言葉に、ミリィの表情がふっと明るくなる。
「……本当ですか?」
「うん。エアリスにも教えたし」
エアリスが胸を張る。
「そうそう!私、最初はなかなか難しくて出来なかったけどね」
「ちょっと、それほどでもなかったよ」
三人で小さく笑う。
その笑いは、さっきよりも自然だった。
ミリィが、少しだけ声を落として言う。
「私、友達、あまりいなくて……」
その言葉は、重くもあり、でもどこか覚悟がこもっていた。
「だから……一緒に遊んで魔術の練習もできたら、嬉しいです」
俺は、少し考えてから答える。
「じゃあさ、今度三人で遊んで魔術の練習もしよう」
「……いいんですか?」
「いいよ。約束だし」
ミリィの目が、ぱっと輝いた。
「……楽しみです、両親の許可も取れました」
その一言が、とても大切なものに聞こえた。
授業がすべて終わり、下校の時間になる。ミリィは、少し名残惜しそうにエアリスの方を見る。
「……今日は、どうします?」
「今日も私と一緒に帰ろう」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、また明日」
俺がそう言うと、ミリィは少しだけ迷ってから言った。
「……はい。明日も、よろしくお願いします」
その言葉を聞いて、俺は思う。この子は、ちゃんと前に進もうとしている。今日はまだ一歩。でも、確実に一歩だ。
俺は兄弟三人で帰宅し、エアリスはミリィと並んで帰っていく。その背中を見送りながら、胸の奥で静かに確信した。
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