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ミリィ編 第二十三章 ミリィとルーメンの出会い④ 友達になった日の夜

ミリィの家が見えてくると、エアリスは足を止めた。

「ここまでだね」

「……はい」

ミリィは少し名残惜しそうに、家の門を見上げた。


「今日は、ありがとう」

「声、かけてくれて」

「ううん」

エアリスは首を横に振る。

「私の方こそ」

「ミリィと話せて楽しかった」

その言葉に、ミリィは小さく微笑んだ。


「……明日も、学校で」

「うん」

「またね、ミリィ」

「またね、エアリス」

エアリスの背中が遠ざかっていくのを、ミリィはしばらく見送っていた。やがて一人になると、あたりは一気に静かになる。

風に揺れる作物の音。遠くで鳴く鳥の声。いつもの景色。それなのに、胸の奥が、いつもより少しだけ温かかった。


家に入り、靴を脱ぐ。広い居間には、やはり誰もいない。

「……ただいま」

誰に向けるでもなく、そう呟いた。

椅子に腰を下ろすと、今日の出来事が自然と頭に浮かぶ。エアリスの笑顔。ルーメンの穏やかな声。握手をした時の、少し緊張した感触。


「……友達」

その言葉を、小さく口に出してみる。胸が、きゅっと締めつけられるようで、でも嫌じゃなかった。

今まで、友達と呼べる存在は多くなかった。学校では挨拶はするけれど、放課後に一緒に帰ったり、遊んだりする相手はいなかった。

「……でも」

ミリィは、膝の上で手を重ねる。


「今度、遊ぶ約束、したんだ」

それだけで、心が少し前を向く。両親に、ちゃんと話さなきゃ。遊びに行く許可も、もらわなきゃ。

断られたら、どうしよう。不安が一瞬、顔を出す。でも、それ以上に。それでも、行きたい。そう思えた自分に、ミリィは少し驚いた。窓の外では、夕焼けが畑を赤く染めている。その光の中で、ミリィは深く息を吸った。

「……頑張ろう」

誰に聞かせるでもない、小さな決意。その胸の中には、確かに芽生え始めたものがあった。友達と呼べる存在。一緒に笑える時間。そして、明日へ続く、確かな一歩。


一方その頃、俺はいつも通り兄弟三人で家路についていた。

陽が傾いた道は、昼間の喧騒が嘘のように落ち着いていて、足元に伸びる影がゆっくりと揺れている。

エレナは俺とセリナ姉の間で、両方の手をしっかりと握っていた。

「今日は、たのしかったね」

エレナが、ぽつりとそう言う。

「そうだね」

セリナ姉が優しく答える。

「エレナも、ちゃんと学校に慣れてきたみたいだし」

「うん!」

元気よく返事をするその声を聞きながら、俺は少し前のことを思い出していた。

泣いて、転んで、怖がっていた頃。それが今では、こうして笑いながら帰っている。

時間って、不思議だな。そんなことを考えていると、セリナ姉がふと、俺の方を見た。


「……ルーメン」

「なに?」

「今日、エアリスと話してた子」

「ミリィ?」

「そう」

セリナ姉は、少しだけ口元を緩める。

「優しそうな子だったわね」

「エアリスと、よく合いそう」

「うん」

俺は頷いた。


「人見知りみたいだけど、ちゃんと話すと、すごく素直でさ」

「いい子だと思う」

セリナ姉は「そう」と短く答えたあと、少し考えるように視線を前に戻した。

「……友達が増えるのは、いいことね」

その言葉には、どこか実感がこもっていた。


家に着くと、母さんが玄関先で迎えてくれた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

靴を脱ぎながら、エレナがすぐに話し出す。

「きょうね!エレナ、ちゃんところばなかったの!」

「まあ、えらいわね」

母さんは目を細めて、エレナの頭を撫でた。夕食の支度の匂いが、家の中に広がっている。


その中で、俺はふと、今日の朝の出来事を思い返した。ミリィの、少し緊張した声。でも、握手をした時の、あのほっとした表情。

「……母さん」

「なあに?」

「今度さ、エアリスの友達が、遊びに来るかもしれない」

母さんは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑った。

「そうなの?」

「それは、楽しみね」

「まだ、決まったわけじゃないけど」

「いいじゃない」

「お友達は、大歓迎よ」

その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。


部屋に戻り、ベッドに腰を下ろすと、今日一日の出来事が静かに整理されていく。

新しい友達。新しい関係。まだ始まったばかりで、何も分からない。

「でも……悪くないな」

小さく呟いたその言葉は、確かな本音だった。エアリスと、ミリィと。そして、俺自身。この出会いが、これからどんな日々に繋がっていくのか。

その答えはまだ見えない。けれど、少なくとも今は、少しだけ、楽しみだと思えていた。


その夜、ミリィはなかなか眠れずにいた。

広い自分の部屋。昼間は陽の光が差し込み、静かで落ち着いた場所なのに、夜になると、その静けさが少しだけ心細く感じられる。

ベッドに横になり、天井を見つめながら、今日の出来事を何度も思い返していた。


(……ルーメン)

名前を心の中でそっと呼ぶだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。

(エアリスの言ってた通りの人だった……)

優しくて、話しやすくて、でも、ただ優しいだけじゃない。言葉の一つひとつが落ち着いていて、相手をちゃんと見てくれている感じがした。


「……友達、か」

ぽつりと呟く。

ミリィは、これまで友達と呼べる相手があまりいなかった。学校では挨拶をする子はいても、放課後に一緒に遊んだり、家に呼び合ったりする関係には、なかなか踏み込めなかった。

でも、今日は違った。エアリスがそばにいてくれて。ルーメンが、自然に話しかけてくれて。

(怖くなかった)

それが、何より大きかった。


最後まで読んで頂きありがとうございます


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