表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/114

ミリィ編 第二十二章 エアリスの友達⑥ ミリィとの学校

翌朝。窓から差し込む朝の光で、エアリスは目を覚ました。鳥の鳴き声が、いつもより少しだけ近くに感じられる。

(……今日は、会えるかな)

寝起きのぼんやりした頭の中で、真っ先に浮かんだのはミリィの顔だった。

布団から起き上がり、身支度を整えながら、昨日の会話を思い返す。焼き菓子の甘い匂い。

ミリィの少し控えめな笑顔。水魔術の話をしている時の、楽しそうな声。

(あの子、水魔術の話になると、すごく生き生きしてた)

自分と同じように、魔術の話が好きな友達がいる。その事実が、胸の奥で静かに広がっていく。

朝食を済ませ、学校へ向かう道を歩いていると、少し前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。

茶色の髪。少し小さな背中。


「……ミリィ?」

声をかけると、ミリィは驚いたように振り返った。

「あ……エアリスさん」

「おはよう。昨日はありがとう」

「い、いえ……こちらこそ」

一瞬、二人の間にぎこちない沈黙が流れる。だが、すぐにエアリスが笑った。

「一緒に行こう」

その一言に、ミリィの表情がぱっと明るくなる。

「……はい」

並んで歩き出すと、最初は歩幅を合わせるのに少し時間がかかった。けれど、数歩も進めば自然と呼吸が揃う。


「……エアリスさん」

「なに?」

「この前は本当に助かりました。あのままだったら、ずっと立ち尽くしてたと思います」

ミリィは足元を見ながら、ぽつりとそう言った。

「困ってる人がいたら、助けるのは普通だよ」

エアリスはそう答えたが、ミリィは小さく首を振った。

「でも……声をかけるのって、勇気がいるじゃないですか」

その言葉に、エアリスは少し考え込んだ。

「……そうかもね。でも、放っておく方が、私は嫌だった」

その答えに、ミリィは一瞬目を見開き、そして小さく微笑んだ。

「……エアリスさんらしいですね」

「そう?」

「はい」


学校が見えてくる頃には、二人の会話は少しずつ増えていた。授業の話。先生の癖。最近覚えた魔術のこと。

ミリィは、まだ言葉を選びながら話している様子だったが、エアリスはそれを急かさなかった。

(この子は、この子のペースでいい)

そう思えたことが、自分でも少し意外だった。

校門をくぐる直前、ミリィが少しだけ足を止める。

「……エアリスさん」

「ん?」

「……これからも、一緒に帰ってもいいですか?」

その声には、不安と期待が混じっていた。

エアリスは、迷わず頷く。

「もちろん」

その一言で、ミリィの顔に、はっきりとした笑顔が浮かんだ。

友達、その言葉が、今度ははっきりと、胸の中に根を下ろした気がした。


読み書き・算術の授業が終わり、教室に少しだけざわめきが戻る。椅子を引く音。ノートを閉じる音。窓から差し込む光が、床にゆっくりと移動していく。

エアリスはふと隣の席を見た。

ミリィは、教科書を丁寧に鞄へしまいながら、どこか落ち着かない様子で指先を動かしている。話しかけたいような、でも迷っているような、そんな仕草だった。

「ミリィ」

名前を呼ぶと、ミリィは少しびくっとして顔を上げた。

「は、はい」

「休憩時間お話しない?」

一瞬、時間が止まったように見えた。

「……いいんですか?」

「もちろん」

エアリスが当たり前のように答えると、ミリィは何度も小さく頷いた。

「……はい。ぜひ」


二人は並んで校庭の端へ向かった。

木陰になっている場所は、昼の喧騒から少しだけ離れていて、風が心地いい。

「……ミリィの家、農地が広いって言ってたよね」

「はい。この辺り一帯がそうなんです」

「一人でいること、多い?」

その問いに、ミリィは少しだけ言葉を探した。

「……多い、です。でも……慣れてます」

慣れている。その言葉の裏にあるものを、エアリスは無理に聞かなかった。

「でも」

ミリィが続ける。

「エアリスさんと家で遊べて楽しかったです。」

その声は小さかったが、確かだった。

エアリスは、胸の奥が少し温かくなるのを感じる。

「これからも、そうしよう」

「……はい」

休みの終わりを告げる鐘が鳴る。

二人は顔を見合わせ、少し名残惜しそうに立ち上がった。

(友達って……こういうこと、なのかも)

エアリスは、そんな風に思いながら教室へ戻った。そして同時に、心の中で次のことを考えていた。ルーメンに、紹介したら、きっと大丈夫。三人で並んで歩く姿が、自然と浮かぶ。まだ先の話なのに、不思議と確信があった。


放課後。教室の窓から差し込む光は、少しだけ角度を変え、机の影を長く伸ばしていた。

帰り支度をする生徒たちの声が、徐々に廊下へ流れていく。

ミリィは鞄を胸に抱え、席を立つタイミングを測るように、何度も視線を巡らせていた。

「ミリィ」

エアリスが声をかけると、また少し驚いたように肩が跳ねる。

「はい」

「一緒に帰ろう」

その言葉は、特別なことではないように、自然に出たものだった。

「……いいんですか?」

「うん。約束でしょ」

ミリィは一瞬だけ迷ったあと、ぎゅっと鞄を握り直して頷いた。

「……はい」


校門を出ると、空気が肌に触れる。風は涼しく、遠くで鳥の声が聞こえた。

二人は並んで歩く。

「……あの」

ミリィが、小さく口を開いた。

「エアリス」

「なに?」

「……この前、声をかけてくれて……本当に、ありがとうございました」

「またそれ?」

エアリスはくすっと笑う。

「当たり前のことしただけだよ」

「……でも」

ミリィは少しだけ言葉を詰まらせる。

「私……誰かに、あんな風に、迷わず声をかけてもらったの、初めてで」

夕焼けが、ミリィの茶色い髪を柔らかく照らしていた。

「……だから」

「うん」

「……友達になれて、嬉しいです」

エアリスは立ち止まり、ミリィの方を見た。

「私も」

それだけで、十分だった。

別れ道に差しかかる。

「じゃあ……また明日」

「うん、またね」

ミリィは何度も振り返りながら、家の方へ歩いていった。その背中は、朝よりも少しだけ軽やかに見えた。


エアリスはその姿を見送りながら、胸の奥で静かに思う。

(次は……ルーメン)

三人で話す場面が、はっきりと浮かぶ。ミリィの少し緊張した表情。ルーメンの、少し戸惑いながらも優しい笑顔。

(きっと、うまくいく)

そう確信できたことが、エアリス自身にとっても新しい感覚だった。夕焼けの中、家路につきながら、エアリスは小さく微笑んだ。

友達ができた。それは、静かで、確かな変化だった。


最後まで読んで頂きありがとうございます


少しでもお気に召しましたら、ブックマークと☆の評価をお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ