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消えた君を探している。

作者: オウギ

~後悔先に立たず~



「一度終わってしまったことを悔やんでも仕方がない、取り返しがつかないという意味のことわざです。何か行動を起こす前に、よく考えてから行動すべきだという教訓を表しています。」


みんなが教科書を閉じる音がする。


「今日習ったことわざはノートに取っておくように。

これで授業を終わります。」


周りのむさ苦しい声と床に擦れた椅子の音が混ざって聞こえた。


同時に私は仮面をつける。


楽しい会話≒どうでもいい会話が始まる。


それなのに、授業中より筋肉の強ばりを感じるのは何故だろう。


「珈琲と紅茶どっち派?」

「紅茶でしょ。」

「いや、あんたよく珈琲飲んでるじゃんw」


「涼はどっち派?」


あー、私は珈琲かな。紅茶の香りあんまり得意じゃないんだよね…


「うーん迷うね。気分かな。」


へらっと笑って答えた。


もし私が紅茶を選んだとしたら、珈琲好きの友達はどう思うかな。


自分が好きなものは、否定されたくないものだ。まあ、否定している訳では無いけれど…。


こんなくだらない話一つで、こんな面倒な思考。

私だってわざわざ巡らせたくはない。


でも、知っている。

言葉一つで、鋭利な刃が完成し、矛先は私に向くことだってあるんだ。


私は、小さい頃から後悔している。

あの頃の私の主張は、わざわざするほど大切なものだったのか。


そして、学んだ。

どんなに小さな波だって、立てない方が後々楽だ。


私は、気にしすぎだとよく言われる。

でも、こうしないと生きてこられなかった。



~トモダチ~



学校が終わったら、ある友達に会いに校舎裏の海に行く。

砂浜までの小道には、落ち葉がいっぱいだ。


友達の名は、渚と夕と碧。


渚とは八歳の頃に出会って、もうかなりの付き合いだ。


夕とは、十三くらい。碧とは、十五歳だったっけ。あんまり覚えてないや。


三人は、ふっと私の前に現れた。いつも話を聞いてくれる。大好きだ。


渚は、気遣いが凄くできる子。


美味しいご飯を食べる時も、何かを楽しんでいる時も、絶対に私が食べているか楽しめているか気にかける。


「涼、涼は楽しい?」

「楽しいよ。」

「よかった。私も楽しい。」


砂浜に反射した光が渚をキラキラ輝かせた。

私は彼女みたいになりたかった。


夕は、正義感の塊みたいな性格だ。


悪いことは悪い。どんな相手にも意見をはっきり言える。


「涼、嫌なことは嫌って言うべきなんだよ。」

「うん。私こう見えて言えるタイプ。」

「そうだよな。知ってた。」


自分の意見を言うことを諦めたのはいつからだったかな。

中学生の私と夕は、少し尖ってて気が強い子だった。


最後に碧。

碧は、私がぼーっとしてる時にひょっこり現れた。


「うわっ。」

「びっくりさせちゃったかな笑 思い悩んだ顔してるね。どうしたの?」

「ちょっと人間関係で悩んでて…」

「それでそんなに悲しそうなの?」

「うん。」

「人を変えることは難しいんだよ。自分と同じだと思っちゃダメだ。相手の気持ちなんて分からないんだから、そういうもんだと割り切るんだよ。傷つくことになるからね。」


碧は、慰めてくれた。

でも、大人びた考えを持っている彼はどこか寂しそうだったから、私も彼の頭を撫でた。


「逆に慰められちゃったね笑。」


泣きそうな顔で笑ってた。

彼はよくおどけてみせる人だった。



私はみんなの家も通ってる学校も知らない。でも、それがいい。


「涼の高校生活もそろそろ終わりだね。」

「そうだな。早い。」

「私上京するから皆ともう会えなくなっちゃう。」

「僕はいつでも涼のそばにいるよ笑」

「まーたそうやって。私本気で寂しいんだよ。」


みんなのことはよく分からないけど、もっと一緒にいたいと思った。



~シンセイカツ~



青空にピンクの花びらがいっぱいの季節になった。

私は、上京した。


「上京するなら教えてよ。私だけ悲しかったんだよ。」

「僕はいつもそばにいるって言ったよね笑。悲しんでくれたんだ。嬉しいな笑。」


何だか不思議な気持ちになった。

でも嬉しかったからどうでもいいや。


私は、一人暮らしを初めて、好きなことを好きなだけした。

BL漫画も読みまくったし、好きな食べ物だって独り占めした。

一番自由を感じたのは、人間関係だ。

たくさんの人で、私のことをいちいち覚えてる人はいない。後々悩むこともないから、高校の時より自分の思ったことを素直に言えるようになった。



~夕~



「夕、久しぶり。最近暑いけど、元気だった?」

「元気だよ。それより、例の件は大丈夫か?」


例の件というのは、高校時代別居していた父のことだ。私が一人暮らしをするタイミングで連絡が来た。

今度会おうという話だ。


「うん。大丈夫だよ。」

「嫌なら断れ。」

「さすがに断れないし…断るのも悪いかなって。」


夕は複雑な顔してたけど、私に断る気がないって分かったらそれ以上何も言わなかった。


それから頻繁に夕は私に会いに来た。

「会いたくないんじゃないのか。お父さん」

「会いたくはないけど…その後が怖いんだよ。」

「もし何かあったら私が守るから安心しろ。涼のホントの気持ちが分からなくなってしまうことの方が私は怖い。」


いつも強気な夕が泣きそうな顔をするから、ホントに嫌だと思ったら断るって約束をしてその日は解散した。


薄暗い部屋に帰って、布団の中で考える。


もし、会えば、それで解決するじゃないか。たった一日我慢すればいいだけ…



~夢~



声が聞こえる。

あー。また呼び出しか。


誰も来ない場所に連れていかれる。

力じゃ勝てるはずない男性と二人きり。


「お前が泣くから、ママがイライラして喧嘩になったんだろ。」


最初から喧嘩してたじゃん。


―言い争う声を聞きたくなかっただけ。―


だけど、泣くのはきっと罪なんだ。人を不快にさせる。

正解の顔が分からないよ。


「その顔だよ。なんだよその顔。そもそもあれは、お前があの店に行きたいって駄々こねたのが悪い。わかってるのか。」


―まだ小学生なんだ。行きたい所に行きたいって言って何が悪い。―


あー、こんなことになるなら、お店だってどこでもいいって言えばよかった。

今度から、一旦思い留まろう。こんなどうでもいい気持ちのせいで、後悔なんてしたくない。次は、絶対間違えない。


「ごめんね、空気読めてなかった笑。次は気をつける笑。」


へらっと笑って答えた。笑顔が上手な私に拍手。


うん。これが正解の顔だね。


涙はもう出なかった。



~変化~



ピコン。

通知オンがして意識が浮上した。スマホを開くと

(今、電話できるか?)

父親からだった。既読をつけるとすぐにかかってきた。


「日曜日会えそうか?」

「いや最近は、テストで忙しくて…勉強しないといけないから」

「へー。スマホはする時間あるんだな。彼氏か。」

「いや通知来たから」

「スマホは見る時間あるけど、父親と話す時間はないって?日曜日な。」


あー、イライラが伝わってくる。対面じゃないのにドキドキする。これはなんの気持ちかな。

わかったって言って、さっさと切ろう。


―涼、嫌なことは断れ―


「いやだからさ…行きたくないんだよね。」

「…分かった。会わないんだな。だいたい別居と家庭崩壊はお前のせいだ。それだけ覚えとけ。」


切ろう早く。


「それと、この話をされたことママには言うなよ。」


ピロン。会話終了の音がした。


脳の血管が詰まったみたいな感覚がして苦しい。

でももう終わった。会わなくてよくなったんだ。夕に言わなくちゃ。


駆け足で約束の場所に行く。運動不足のせいで胸が苦しいけど、嫌な気持ちは全然しない。


「夕!」

「解決したみたいだな。よかった。」


夕は勢いよく私に抱きついた。ショートカットの髪が頬に当たってくすぐったい。


「涼のいいところは自分に素直なところだ。」


二人で楽しい会話をして別れたのに、その後、夕とは会えなくなった。



~渚~



「涼、今日ちょっと元気ないね?」

「友達と喧嘩しちゃったの。でも、あっちが悪いんだよ。」

「そっかそっか。」


渚は、とぼとぼ歩く私に合わせてゆっくり歩いてくれる。


「涼、こっちの道の方が歩きやすいよ。おいで。」


優しい風が吹いている。


「でもね、相手もきっと悲しかったから私に怒ったんだ。私の言い方も悪かったかもしれない。」

「あっ、せっかく会えたのに暗い顔してごめんね。」


珍しくいたずらっ子のような顔をして彼女は言った。


「しょんぼり涼には、私がお菓子を授けよう!」


私が好きな羊羹だ。なんで知っているんだろう。


「ありがとう。」


嬉しそうにすると彼女も嬉しそうにした。


「自分が悲しい時でも、人の気持ちを考えるところ。涼のいいところだよ。」


渚はいつも褒めてくれる。私は目を合わせられなくて、そんなことないって首を振る。


「涼は気遣い上手な子だもんね。どんなに悲しい時もいつも思いやりの心を忘れない。『私』を大切にしてくれてありがとう。」


ん?今なんて言った?

一瞬不思議に思ったけれど、照れた私は頷くだけで精一杯だった。



~碧~



「やめてください。」


遠くに碧と知らない人がいた。いつものおどけた碧じゃなくて、怯えた顔の碧がいた。

私は、急いで走ったけれど、彼は自分で対処したみたいだった。


「そんなに急いでどうしたの?涼。早く僕に会いたかったのかな笑」


碧はまた笑ってる。


「碧、大丈夫?絡まれてるように見えたけど。」

「全然、どうってことないよ。」

「どうってことないようには見えないよ。辛そうな顔してる。」

「…涼には、バレちゃうんだね。やっぱり僕ら、一心同体だね笑」


私は笑えなかった。


「男性と二人きりになるのが苦手でね。どうしてか分からないけど。僕も男なのにね笑」


碧は、昔から弱みを見せない。かっこいい。でも、ずっと心配だった。


「悲しい時とか怖い思いした時は泣いていいんだよ。」


碧は悲しそうな顔で言った。


「僕が泣いて何か変わるの? 変わらないよ。それに涼だって慰めるの大変でしょ。」


私はあの日と同じように頭を撫でた。


「また慰められちゃったね笑。」


碧は笑ったけど、私は撫で続けた。もうそれには騙されない。


「何も変わらないって碧は言ったけど、悲しみだって感じることが大切なんだと思う。それに無理して笑うと苦しいんだよ。碧が悲しみと向き合って上手く消化できるように私は助けたい。」


彼は初めて泣いた。子供みたいな顔だった。


「かっこ悪いとこ見せちゃったな。でもありがとう。」


ぽつぽつと雨が降ってきた。

でも、晴天だ。きっと通り雨。


「そういえば最近、渚と夕に会ってないんだ。元気にしてる?」

「元気に決まってるさ。僕らの元気の源は涼だからね笑。」


またいつものお道化?でも嫌な予感がした。


「碧はまた会えるよね?」

「僕は、ずっと涼のそばにいるよ。出会った時からずっと。」

「だから、そういうことじゃなくて。」


碧は寂しそうな顔をした。


「そろそろタイムリミットかな。」



~優しい別れ~



涼、少し僕の話を聞いて。


「僕が二人より長く涼とお話できた理由はね、涼が悲しみを感じることをずっと避けてきたからだよ。思いやりがあって、自分の意見をはっきり言える。弱みを見せない涼は、かっこいい。でも、悲しい時は泣いたっていいんだ。」


「僕は、そんな君を救いに来た。」


碧の姿が消えかけてる。私の視界が霞んでる。


「あれ、私視力落ちたのかな笑」


また、笑いそうになる。


「違うよ。悲しいんだ。ちゃんと感じて。」


碧の声が、ほんの少し遠くなった気がした。

胸が痛い。痛いのは嫌いだ。涙を堪えられないから。


「碧いなくならないで。夕と渚にも会いたいよ。」


「僕の前で泣いてくれるなんて、光栄だね笑。」


碧は穏やかな顔をしてた。


「いつもそばにいるって言ったじゃん!」

「ふふっ。そうそう。その調子だよ。夕も喜んでる。」


空のピンクが緑に変わって、それから赤く染まって散った季節に、碧も姿を消した。


でも三人は確かにいたんだ。私に大切なことを教えに来てくれた。


渚は、他人を思いやる心。

夕は、自分の気持ちを素直に示すこと。

碧は、嬉しさだけじゃなくて、悲しみもしっかり感じること。


みんな心の中にいるから寂しくないよ

っていうのは嘘だけど、三人のこと忘れないよ。


人の目ばっかり気にしてたら、自分が後悔することもあるってきっと教えてくれたんだよね。


人を変えるのは難しいからこそ、周りの人のことも自分のこともしっかり考える必要があるんだ。


これからの人生、後悔しないようにみんなと一緒に生きていくと決めた。



~仮面~



爽やかな風が吹いている。

百分間の長い講義が終わって、元気な声と椅子が片付けられる音が聞こえてくる。


私もホッと一息ついた。

友達と楽しいお喋りが始まる。


「ハンバーガー食べたい!」

「いーや、今日は食堂の定食だと決まっているのだよ。」


「涼は、どっちがいい?」


「私は、今菓子パン食べたい気分!」


私はニコッと笑って答えた。


「新たな派閥だな?」

「じゃあ大学前のパン屋さんに行こう!」

「涼に甘すぎるだろ笑」


友達に手を引かれて、講義室を出る。


「結局みんなパンでいいの?時間あるし全部行くってのも…あっでも食堂は無理かな。」

「いいってことよ!」

「涼が言うなら、仕方ないな!」


言ってよかった。口角が上がって、自然に表情が崩れる。


『可愛らしい笑顔だね笑。』


ハッとした。

碧の声が聞こえた。


「碧!」


勢いよく振り向いたけど、そこには誰もいなかった。

でも、私の声も届く気がして、言いたくなった。


「ありがとう笑。」


仮面なんて、要らなかったみたいだ。

初めてお話を書きました。

誤字や読みにくい部分があると思いますが、暖かい目で見ていただけると嬉しいです。


住野よるさんの作品が好きで、インスピレーションを受けていますので、似ていると思われる可能性がありますが、本作品自体は完全オリジナルでございます。


社会で生きづらさを感じている方々の心の助けに、少しでもなれたら幸いです。


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