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9話 お姉さまと呼びなさい

 なんと、雷の守護者アリサが雷の大精霊のところまで付いてきてくれることになった!

 彼女も仕事のついでと言っているが、まさかここまで協力してもらえるとは思っていなかった。

 しばらく恩人として拝むことになるだろう。


 この町を出発する前に、稼いだお金でもう少し物を買っておきたい。そう考えたルチアたちはもう少し町の店を利用することした。


 大道芸人が並ぶ大通りから外れた道を入ると、細々とした店が立ち並んでいる。


「あんた、絵を描くの?」


 アリサにはたいそう驚かれた。

 それならと彼女に案内された文房具屋に来たのだった。


 店に入った瞬間、インクの匂いがルチアたちを出迎えた。

 狭めな店内にところ狭しと並ぶ商品。

 奥には店員らしき老女が座していた。


「いらっしゃい」

「こ、こんにちは」


 ペコペコと頭を下げながら、目的の物を探す。

 ここでは絵を描くための鉛筆と紙を調達する予定だ。

 もともと持っていた分の紙はすでに無くなっていた。氷の大精霊の前であんなに絵を描くことになるとは想像できるわけがない。


「ペラペラの紙じゃなくて、こっちにしたら?」


 紙束にも種類があり、どれがいいか悩んでいると即断即決がオーラに溢れているアリサがスケッチブックを指した。


 スケッチブック。

 今まで手にしたことはないが、友だちの友だちの絵を描く子が使っていてカッコいいなと思っていた。

 ペラペラの紙にしか絵を描いてこなかったが、そんな自分もカッコいいこれを使っていいのだろうか。


「“精霊の色”って名前のこれは何ですか?」


 ルチアが悩んでいると、隣で物色していたユキが興味津々で聞いていた。

 物の名前は水彩絵具と書いているが、商品名が“精霊の色”と付き、赤・青・黃・緑・紫・オレンジ・白・ピンクの色が収められている。


「それは絵に色を着けるやつね。ふーん、精霊の属性色を中心に置いてる絵の具なのねうまい商品だわ」

「ルチア! ルチアの絵に色が着けられるみたいですよ〜着けませんか?」

「じゃあこれと、筆もね。ルチアには水の精霊がついてるしヒッセンはいらないわね」


「えっ、え?」


 本人は蚊帳の外に、購入する商品が決まっていく。

 すでにスケッチブックと精霊の色と筆がアリサの腕に抱えられていた。


「他にあるの? なかったら買うわよ」

「え、鉛筆、とか」


「はい。鉛筆ね。あら種類が多いわね真ん中の取っとけば間違いないでしょ」


「え?……ェ?」


 アリサは店員のところに行って会計を始めた。


「初めて色を使うのかい?」

「そうみたい」


 老女が目元のシワを深くして尋ねた。

 店内に客はルチアたち以外いないので暇らしい。


「じゃあパレットも買いな」

「ならそれも。持ち歩きやすいコンパクトなものはある?」

「あるある」


 ヨイショ、と腰を動かしたときに自然と出る言葉と共にカウンター下から折り畳み式の白いパレットが出てきた。


「ちょちょ、ちょっと待ってください!」


 さすがのルチアもスムーズに進む買い物に待ったをかけた。


「おかね、お金私が払います!」


 アリサが財布を出したのを止めるために。

 コンパクトでシンプルな紫の革財布は、ルチアの貧弱な力に屈することなく、店員の前で銭をばら撒いた。


「あらあら。積極的ね。でも今は『お姉さまありがとうごさいます♡』って甘える場面よ。弁えなさい」

「姉に甘えるのは妹の仕事だねぇ」


 店員もヒヒヒと笑っている。

 勝手に姉妹にされている。


「ありがとさん」


 にこにこの老店員に見送られ、放心状態で店を出た。

 手にはアリサから投げられた絵のための一式が抱えられている。

 せっかく稼いだ自分のお金で買えず、さらに人に買ってもらうまでして悔しいものの、まさか水彩絵具も手に入ってしまった喜びでムズムズした。


「あ、ありがとうごさいます……」

「いいえ? 守護者である私からのあなたへの先行投資よ。さ、まだ回るわよ」


「……え?」


 *


 アリサの宣言通り、ルチアたちは連れ回された。


「今は大丈夫でしょうけど、ずっと同じ服は不潔だわ。替えの1つは買ってローテーションなさい」


 少女向けの服屋に着いた。


「華美なものは変なのに絡まれるから動きやすくて機能性の高い……これね」


「お買い上げありがとうごさいます!」


 かわいい〜と呑気にワンピースを見ていたら瞬殺され、服屋を数秒の滞在時間で出ることになった。

 薄手の長袖シャツとポケットがいくつかある長ズボンがルチアのカバンに押し込まれた。


「かわいいのはあなたの旅が落ち着いたころに買ってあげるわ。お姉さまとして」


「いいんですかっ!?」


 妹分への甘やかしも忘れない。

 あの服可愛かったな、なんてぽやぽや思い出していたら次の店に放り込まれた。


「私の装備も少し見させて。あなたも好きに見てていいわよ」


 婦人向けの服屋に着いた。


 アリサは目的のものへ一直線に行ったので、放置状態である。

 客も年上のお姉様というような女性が多い。

 服屋は服屋でもちょっとお高めな服屋かもしれない。

 店に並ぶ服のフリルの縫い付けも丁寧で、上品なデザインのものが散見される。

 汚したり、変な折れ目をつけたりしたら恐い商品ばかりだ。


 ルチアはあまり触れないように婦人服を見学する。


「ルチアは着れないの?」

「私はもうちょっと大きくなったら着れます」

「へぇそういう区分があるんだ」


 ユキとこれ可愛いなんて言いながら想像する。


 もう少し背が伸びて、体も引き締まって女性らしい出るところは出たルチア(20)

 そう。お母さんみたいにカッコよくて綺麗な女性に成長して、このロングスカートを着こなすのだ。


 ちなみに、ルチアは現在15歳で成長期は粗方終わっており、成長の兆しはほぼない。

 大事な成長期に栄養を十分に摂れていなかったり睡眠も不十分だったりしたため、背は低いし肉もついていない。


 夢だけは広がり続けるルチアを止める者はいない。

 ユキもよく分かっていない。


「私の用事は終わったわよ」


 アリサに店から連れ出され、ルチアの妄想は途切れた。


 *


 朝から動き回ったからか、昨晩ぐっすり眠れたからか、ルチアのお腹が小さくグゥと鳴いた。


「確かにお腹空いたわよね」

「は、はい……」


 アリサにもしっかり聞こえていたらしい。恥ずかしくなって耳を赤くした。


 彼女たちのお腹を満たすために選ばれたのは、カフェレストランと銘打たれた飯屋だった。

 時間帯が昼前で中途半端だからか、客はまばらだ。

 ハキハキした店員に席を通され、慣れたようにアリサはメニューを漁る。


「あんたたちはどうする? 今モーニングだからパンかリゾットがあるけど」


 ルチアとユキに視線が向けられた。

 焦ってウンウン悩む隣で、ユキはルチアと同じでいいよなどと宣うのでより汗が出る。


「ま、丸パンセットを……」

「はいはい。足りなかったら追加で注文するのよ」


 この中で一番量が少なく、値段も低いものにした。

 注文用紙にサラサラとメニュー番号が書き込まれると、文字が吸い込まれて消えていく。


「あの、これ……」

「ふふ。分かった? 魔法式を編んだ紙に書き込むと指定場所に内容が届くのよ」

「こんなペラペラの紙にそんな複雑な魔法式が、ですか……!?」


 なんの変哲もない10センチ角の紙を光に透かしてみるとようやく魔法式が見えた。

 本で見た式と見たことない式が混ざっていて半分も理解できなかったが、一つ一つなぞるたびドキドキした。


「こんな、すごいものが出来ていたなんて知りませんでした……!」

「ああ。それね、この地域で試験的にやってることなのよ。私が開発したはしたんだけど、実用向きに調整中って感じ」

「ふわぁ」


 アリサが守護者になった後から始めた施策だった。

 ここ1、2年の話なのでまだまだ始まったばかりである。

 守護者に就任したことで、元からのコネに加え強力な権力がついた。若い彼女にはやりたいことが山ほどある。

 いろんな魔法具を作っては商人や貴族を通して試行し実用品にこぎ着けてきた。

 竜の大災害による混乱が続く最中、彼女が作った道具は雷の地域を助けていたのだ。

 混乱も今は落ち着いたが、彼女の発明が止まることはない。


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