8話 わかりやすい精霊
疲弊して更新を忘れていました申し訳わけない;;
「まさかアリサさんが守護者様だなんて……!」
ルチアはびっくりしすぎて震えていた。
「すごいねー」
ユキはルチアの髪を梳いている。
やってみたいと言ったら櫛を貸してくれた。
隣で髪やら肌やらを整えているアリサを横目で見ながら、見様見真似で髪を1つに結ぶ。
初心者にしてはこんなものだろうという出来である。
「闇属性魔法は直接見たことなかったので、ちゃんと見ておきたかったです。悔しい……どうして私は無力なんだろう……それにしてもこの布! とても綺麗な魔力反応式が描かれてます〜いいなあ私の村にはこういう細かな魔法具が流通してないから……」
よくネムレールは彼女のお気に召したらしい。
輝く瞳で布を隅から隅まで舐め回すように見ている。
精霊が好きで魔法についても本でよく読んでいたくらいの知識だが、魔法反応式初心者の彼女でも分かるくらい美しい式が描かれているのである。
素人が見て美しく感じる魔法式は、使いやすい。
広く人に使ってもらうための魔法具の1つであることがひしひしと感じられた。
「あなた、どれだけド田舎に住んでたのよ。私の魔法具が届かないトコってどこ? あと肌も荒れすぎ。私の特性精霊化粧水、貸してあげる」
「え、えと、ありがとうございます……! 私、氷の大精霊様のいる近くのホム村ってところに住んでました」
精霊印の化粧水だけでなく、肌を整えるための化粧品がアリサからポイポイ投げられてくる。それをルチアが全て掴めるはずもなく、いくつかぼとぼと落としてしまいながら、ド田舎らしい自分の村の名前を告げる。
「ホムぅ? ……って南の方にあるちっさい村ね。東端の港町と最近合併した。あそこ、氷の大精霊に近いし舞巫女もいるくせに、国の端っこにあるからイマイチ盛り上がってないわよねぇ〜商会にちゃんと手広げるよう言っとかないとね」
あーでも山で囲まれてるから流通経路が難しいのよね〜……とブツブツ頭を悩ませながら呟いている。
「大災害では被害が大きかったって聞いてるけど……こんな小さな女の子1人で旅に出てるってことは相当だったのね……」
痛ましそうな目で細い体のルチアを見る。
「そう、ですね……家族もみんないなくなっちゃって……わたし、みんなを守る魔法使えたのに、精霊さんたちもがんばってたのに、守れなくて……大精霊様に会えばって、外に出たけどなにもできなくて……」
「ルチアは守る魔法が使えるの?」
「はい、精霊さんに教えてもらいました」
誇らしそうに、だが自信がなさそうに答えるルチアを見て、アリサは少し考えた。
「私あなたの魔法が見てみたいわ」
「エッ、いや、あの、守護者様にとても見せられるようなものでは……!」
「見せてちょうだい?」
有無を言わせぬ圧に押され、ルチアは魔法を使う。
「ま、『守って』
彼女の体を覆うように半ドーム状の結界が展開された。
いつの間にか身だしなみを整え終わり、紫のドレスを纏ったアリサは検分し始める。
柔軟性の高い結界魔法。
確かに、ホム村方面を襲った竜の攻撃は防げる強度のものではない。
しかし、私は見てた。ルチアが家族を失ったとポツポツ話している後ろで飛び回り、彼女の言葉一つ一つに反応していたちっさい精霊たちを。特に、“守れなくて”と“なにもできなくて”と言っていた時に、まるで違うよと言いたげに騒がしくしていた。
(氷の上位精霊は反応してなかったから、コイツは多分大災害後からルチアに付いてきてる)
わかりやすく、素直な精霊に恵まれたものだ。
この子が魔法を使うとなれば嬉々として精霊たちは力を貸していた。
「解除していいわよ。そうね、あなたたちの魔法を見る限り、“守って”という単純な詠唱は精霊たちが使う特性の自由をあげてしまっているみたいね。悪いことじゃないけど、精霊たちがルチアの意思を汲んで勝手に結界の性質を変えるから、使う度に違う感じの結界が出るわよね」
「そ、うなんですかね……?」
「ま、これから魔法いっぱい実践していけば分かるようになるわ。さっきの結界は取り敢えずルチアを守れるように体を覆ってた。もし何かの攻撃から守るとなれば一点集中の強固な結界が現れるでしょうね。竜災害の時も使ったんじゃないの?」
少し沈黙して頷いた。
よく考えてみれば、初心者の結界魔法が竜のブレスや突進に耐えるなんておかしいのだ。
「でも一番大きな竜の攻撃からは守れなくて……私が発動できなかった、のもあるんですけど、簡単に割られちゃったんです」
「多分古代竜のことよね。“アレ”は人間の手に負えないわ」
「古代竜……」
「精霊語を話せる知力があるわ、しっぽ一振りで簡単に町壊せるわ、体力も馬鹿らしくなるくらいあるわで相手にするのもヤな化け物。よくアンタ生き残ったわよね」
「お、お母さんが守ってくれた、ので……」
「ふぅん」
アリサはルチアに投げた化粧品たちの中から1つチューブを抜き取った。
チューブからクリームを出して、目の前の荒れた肌に塗り込んでいく。辛い過去だっただろう。話すのに勇気がいることだろう。震える手に熱を移すように手を握りながらクリームを塗る。
「カッコいいお母さんじゃないの。ねえ、あなたの赤い髪はお母さん譲り?」
「えっと両親がどちらも赤い髪で……」
「うらやましいわぁ色が綺麗で」
ついでに爪も整え始めた。
「……アリサさまは、」
「アリサでいいわよ」
「アリサ、さんも綺麗な金色の髪です」
「あらありがとう。これね、染めてるの」
指先を見るために動いているから目の前に金髪がある。
根本が黒いとか、髪のキューティクルがないとかそういうことは一切感じられないものすごく綺麗な髪だ。
「染めてるんですかっ!?」
「染められるんだね」
ルチアはびっくりしたし、ユキも不思議そうにジロジロ見ている。
「ちょっと、レディの頭髪をジロジロ見るなんてマナーがなってないわよ?」
シッシッと精霊たちを手で追い払って、手元に集中を戻した。
「髪染めも私が作ったのよ。魔力に反応して着色されるから、魔力切れまでこのまま。売るにしても稼げないから非売品なのよ」
「魔力に反応……?」
「そう。精霊が生物に変化する時の色彩固定の魔力運動を参考にしたの。アレって精霊の属性魔力に引かれて色が付いてるから。そこから色を引き付ける属性魔力を髪に塗れば自分の好きな髪色にできるって気づいたワケ」
「それ、売れないんですか?」
「売れるでしょうよ。でも、色が抜けるのは魔力切れのタイミングだからねぇ……人が魔力切れになるのなんて滅多にないから、消費と購入までの期間が長すぎて高額にしても割に合わないっていうか……魔力が使える人間しか使えないっていうか……」
「ほぇ〜……アリサさんの研究がすごすぎたんですね」
「あらぁ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。私商売のこと考えるの好きなんだけど、常にお得のバーゲンセールしちゃうから向いてないのよね。そういうのは最近専門部署に投げてるの」
お得のバーゲンセール、良い言葉だ。
だが、それで利益を得られないとは悲しいなとルチアは思った。
そしてもう、自分の体が勝手に改造されていくことに諦めてしまった。
守護者様にこんなことさせている申し訳なさから逃げようとしたが、こんな細っこい腕で振り払えるほど易い筋肉をしていなかった。
さすがは守護者様。戦闘員としても優秀な魔術師なだけある。
「ルチア」
「はい」
「あなたに守る魔法を教えてあげましょうか」
いいのだろうか。
アリサ〈守護者〉直々に結界魔法を教えてもらえるなんて機会、これからあるだろうか。
たいせつな人を守れる魔法。
人を守るために、使う魔法のことを曖昧なままにして、また守れなかったら情けない。
「教えていただきたいです……!」
「いい返事! でも条件があるの」
条件、とは。ルチアは身構えた。
アリサは、チラリとユキに視線を向ける。彼はずっと後ろでウロチョロしていた。
「そこの精霊を“あるタイミング”に貸してほしいのよ」
「ユキを……?」
自分に良いことがある対価として差し出すのが、今関係ない彼であることに首を傾げた。
ユキも何も分かっていなさそうな顔だ。
「私と、ユキは、契約しているわけではないので、この条件に頷くのはちょっと難しいです……どうしてユキなんでしょう。その、いつどのくらいの期間借りるつもりでしょうか?」
「……守護者絡みの仕事よ。中位もしくは上位のとあることに該当した精霊に声を掛けてるの。“いつ”っていうのがハッキリしたことはまだ分からないのだけど、近くて2年……掛かって10年。借りるのはほんの数時間ね」
「2年から10年……」
10年後、ユキと一緒にいるのだろうか。
当の本人は10年って何年?という顔だ。
精霊は気まぐれだし、人間にずっとついてくるのは珍しい。ルチアと10年近く一緒にいる精霊たちも、この旅に出る際に半分近く減った。
「ユキは、私が声を掛けたらアリサさんのところへお手伝いに行くのに協力してくれますか?」
「うーん、考えてみるよ。ルチアが話すことはよほど嫌なことじゃなかったら聞くよ。多分」
心配になる返事だ。
しかし、最初からこんな精霊だった。ルチアの人身御供を無理矢理キャンセルさせて、旅に出させたツワモノであるから、まあ確認できただけマシではある。
「……あの、その時になったら言うだけ言ってみるでも良いですか?」
「ええ……精霊ってめんどくさいわよね。協力してくれるだけありがたいわ」
魔術師として多くの精霊に触れてきただろうアリサも、ユキの言動から察するものがあったらしい。
ルチアに守る魔法を教える条件はおそらく、呑まれた。
そして、ルチアの肌と爪は天才守護者によってピッカピカに磨かれていた。
ストックもないので更新が日を空けてが多くなります