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とある精霊の旅  作者: うさ公
第四章 学院と友人
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55話 すみっこ三人衆

 昼休憩、教室の端っこの席に集まって楽しそうに話す男子生徒たちがいた。


「サシャちゃんだよ」

「サシャ・ニウロースは確かに優しくて可愛い……お前が一番好きなタイプだな」


 何の話だろうか。

 ぽっちゃりしている男子がサシャの名前を挙げると、眼鏡の男子が頷きながらぽっちゃりを揶揄った。


「へへ、照れるな。サシャちゃんってこんな俺にも優しいんだ。前は授業追いつけてない俺に気づいてノート見せてくれたし」


 眼鏡に肘でつつかれながらも、ぽっちゃりは頬肉に目を埋めながら照れたように話す。


「俺は素朴な可愛さ枠でルチア氏に一票入れたい」


 眼鏡がカチャリと自分の眼鏡を押し上げながら、ルチアの名前を挙げた。


 ぽっちゃりと眼鏡ともう一人の男子生徒で、可愛い女子生徒の話をしているらしい。


「可愛いよな。ルチアさん。グループワークで困ってたから助けたらすごく感謝してくれたし、普通に性格良くて可愛い子って良いよな」


 眼鏡に頷いたのは、もう一人の男子生徒である前髪で顔が見えない男子だった。


「羨ましいぞお前……」

「おれもルチアちゃん良いと思う!」


 ぽっちゃりは純粋にニコニコと賛成する。


「だが、平民なのがな……」


 しかし、自分で名前を挙げたくせに納得いかない眼鏡はうーん、と腕を組んだ。


「そーゆーの気にするんだ?」


 前髪はちょっと眼鏡を見下した。

 可愛い女の子を貴族かそうでないかで選別することに前髪は賛成できない。

 なぜなら女の子は身分に関わらず可愛いものは可愛いからだ。


「クッ……だが、ルチア氏は平民だからこそ輝いている……」


 眼鏡の無駄な懊悩は無視して、ぽっちゃりと前髪はそれぞれ違う名前を挙げる。


「あとはミスティちゃんとか~」

「あの人良いよね。性格キツそうだけど、モルトは良いんだ?」


 モルト・モーン(ぽっちゃり)は優しくて可愛い子が好きである。それは眼鏡も前髪も確かに知っていることだったので、前髪は彼から挙げられた名前に驚いた。


 ミスティの関わりにくさはクラスメイトの中で共通認識だった。


「ミスティちゃんは……うーん、お姉ちゃんとかお母さんって感じ?」

「ずっと怒ってるからなー」

「うう……あんまりミスティちゃんに怒ってほしくないけど、それはおれがだいたい悪いから……」

「あーまあ確かに、ミスティさんが怒ってるのは俺らがトロいからか。でもあの人がキッチリし過ぎなだけな気もするけど」


 委員長的存在のミスティに怒られている筆頭の2人だが、彼女に嫌悪はなかった。


「てか、ウェンリオルも結構ユルいのに怒られてないの不公平じゃね?」


 前髪は不満そうにクラスメイトのウェンの名前を出した。


「それ言っちゃったら、ウェンくんはサシャちゃんとも、ルチアちゃんとも他の女の子たちとも仲良さそうだよ……」


 いかにも女の子との接点がなさそうなぽっちゃりモルト・モーンは、ため息をついた。


「フン、あんな顔と性格が良いだけの男……」


 復活した眼鏡が、ズレた自分の眼鏡を直した。


「すげー褒めてるな。やっぱり人に話し掛ける積極性って大事だよねー」


 ウェンリオル・オルヒュードは軽薄だが性格は悪くない男子生徒である。

 同じ男子としては、人懐っこいウェンに誑かされる女子が多くて複雑なのである。

 彼が伯爵家子息であることも好意を増している要因のようだ。


「……で、お前はどうなんだクラウツ」


 眼鏡から女子の名前を挙げていないことをせっつかれ、クラウツ・シロテクト(前髪)は深く考えるように指を組んだ。


「……このクラスの女子はもちろん満点なんだが、俺の本命は隣のクラス! __イレーネ・コルテ嬢……!」


「お、お前……っ!」


 前髪のクラウツが挙げた名前を聞いて、眼鏡は体を震わせた。


「公爵令嬢を出すのは卑怯だよ~っ!」


 情けない顔でモルトが顎下の肉をぷるぷる震わせた。


「やっぱ美人はいいぜ……俺のことを冷たい目で見てくれるのもイイ……」

「そういえば、コルテさんが人と楽しそうに話してるのあんまり見ないよね」

「やはり、次期王候補と担がれているだけあるのさ。関わる人間を選んでいるのさ」


 イレーネ・コルテ。

 美人でいかにも聡明な顔をしているし、家の位も高い。女子生徒からは憧れの目を、男子生徒からは下心を込めた憧れの目を向けられている。

 さらに噂では精霊王候補に名前が挙げられているらしい。


「あとは……ララ・ヘルホーグ嬢だな」


 クラウツの前髪で覆われた目は女性の肉体しか追っていないらしい。

 イレーネ・コルテもララ・ヘルホーグも顔が整っているのは前提として、身体のプロポーションも最高な緩急がある。


「ララさんも素敵だよねぇ。おれララさんとの決闘ボッコボコにされたけど、幸せだったよ」

「ララ・ヘルホーグ氏は怖い……」


 楽しそうに笑うモルトと、体を震わせる眼鏡はどちらもララからの決闘を受け、敗北している。

 ララとの決闘を思い出し、情けなくも眼鏡は震えたのだ。


「そういえば、クラウツはまだなんだっけ」

「そうだよ。フフ……ララ・ヘルホーグ嬢に誘われることひと月。引き延ばしに引き延ばし、俺は彼女の記憶に名を残す……!」


 はわ、かっこいい……とモルトはクラウツの企んだ顔にときめいてみせた。

 ノリの良い友人である。




 そしてそんなナイスなタイミングに登場するのは彼女である。


「失礼するっ!」


 昼休憩の穏やかな時間が流れる教室の空気を切り裂くような、大きな声が乱入する。


 紅の瞳をギラつかせて、噂をされていた“ララ・ヘルホーグ”は、すみっこ3人衆にドスドスと足を鳴らして近づいた。


「今日の決闘、忘れていないな?」


「……ええ。もちろん」


 クラウツは、自分と同じ背丈のララから燃えたぎる視線を向けられて、少し腰が引けた。

 だが彼は好きな美女の前では格好つけたい男である。


 丸めていた背中を伸ばし、ララと対峙する。



 そんな感じでクラウツはララに連れ去られた。

 残されたモルトと眼鏡は身を寄せ合いヒソヒソと喋る。


「アイツ賢いし心が強いよな……あのララ・ヘルホーグ氏相手に決闘の日程引き延ばすとか考えられなかったんだが」

「デッツは賢そうに見えてあんまりだもんね」


 モルトはポヤポヤした顔で、眼鏡ことデッツ・ノータルにトゲを刺した。

 デッツは時折賢そうな言動をするが、実際の学力などは良い結果を出せていない。

 意識だけ高い系男子である。


「ぐぎぎ……」


 デッツの鳴き声は無視して、モルトは「ララさんとマトモにお話してみたいなあ」と呟いた。


 *



「ルチア、良いか」


 ぽふ、ぽふ、と枕を整えていたルチアは、同室のララに声を掛けられ顔を上げた。


 入学から約1カ月の時が経ち、ララとの生活にも慣れたものだ。

 この時間は、授業の復習やら宿題やらを片付けてあとは寝るだけな状態であることが多い。


 そんな時間にララから話し掛けてきて、“お喋り”をして過ごす。

 内容は今日あったことだったり、授業で分からなかったところや魔法戦闘談義、魔術師談義だったり様々だ。


「今日、クラウツ・シロテクトと決闘をした。お前のところのクラスの男だろう? 知っているか」


 学校というものはいくつかのクラスに生徒を分け、授業を行うらしく、なんとルチアとララは別の教室クラスだった。


「知ってます」


 ルチアはクラスメイトの前髪が長い男子クラウツの名前が挙がったことに少し意外な気持ちで頷いた。


「うーむ……」

「何かあったんですか?」


 ルチアは枕のポジションを整え、クッションを胸に抱いた。ララと話す姿勢である。

 ララも例のお気に入りらしい抱き枕を抱いて話している。これがないと眠れないと言われている抱き枕は、何かの動物なのか顔が書かれているが、種類は不明である。


「クラウツ・シロテクトは氷の地域を管理するシロテクト伯爵の子息だろう? ルチアは関わったことがあるか?」


「ええっと、そこそこ……?」


 氷の地域は大きな集落がホム村と港町しかない狭いコミュニティで形成された田舎である。

 人との距離も近いので、だいたい住民同士顔は合わせたことがある。

 貴族であったとしても、どこかで軽く挨拶を、という状況もある。

 しかし現在のシロテクト伯爵現当主は病弱であまり外に顔を出すことがないため、ルチアも舞巫女ながらも片手で数えられるほどしか会ったことがない。


 その息子のクラウツはというと、健康優良児だったため、古代竜の大災害以前までは同年代の子ども同士でそこそこ遊んでいたりした。


 ルチア的には、小さい頃遊んだ近所のともだちくらいの感覚である。

 ここ数年クラウツと関わりはないため、ほぼ他人のようなものかもしれない。


「ぜひルチアと話したいと思ってな。クラウツの使う魔法は面白かった!」

「ララ様にそこまで言われる魔法、ですか……! 私、クラウツ……くんの魔法は見たことないです」


 知っている名前が出たと思えば、いつものララとルチアの魔法談義である。

 ララは決闘をした相手の魔法の分析を兼ねて、ルチアに話してくれる。


 今回のクラウツはララにとって、とっておきの男だったらしい。


「“幻”を見た」

「まぼろし……」


「ない景色を見せられ、惑わされた」

「幻覚……? 錯覚……?」


 一般的に広まっている魔法にあるものではない。

 ルチアは様々な魔法の記載がある本が蔵書された学院の図書館にたびたび入り浸っているが、まだ見かけたことのない魔法の話である。


 ルチアは眠かった頭を覚醒させ、ララの話を身を乗り出して聞いた。



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