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とある精霊の旅  作者: うさ公
第三章 出会いと紅の好敵手
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何をやったんだい!?ルチアちゃん

 

「魔霊公様って素敵な魔術師様ですよね」


 入学式を終え生徒たちは自由行動の指示が出され、大聖堂の外でダラダラと雑談に花を咲かせていた。

 ルチアは自然な流れで、サシャと共にいた。


 サシャは頬を赤く染めて、ロギスについて語る。


「かっこよかったですね……!」


 ルチアもうんうんと頷いた。


「魔霊公様のお姿をこうして見られるなんて、わたくし幸せですわ。魔術師になれるようたくさん勉強して、領地のみなさんの役に立てるよう頑張りませんと……と背中を押された気持ちです」


「領地……」


 ルチアは平民である自分と、貴族であるサシャの考え方の違いに目を瞬かせた。

 強い魔術師になり精霊の役に立ちたいと漠然とした目標を立てていたが、サシャのように魔術師になった後の仕事のことも視野に入れているわけではなかった。


 貴族となると治める領地のことも考えなくてはいけないらしい。


「領地といっても、土の地域の鉱山もない田畑の広がるのどかな町で……貴族が治めるにしては小さな一角なのですが、わたくしその町のことが好きなので魔術師になって少しでもお役に立ちたいな、と……」


 だんだん早口になって話すサシャはなんだか恥ずかしそうだった。

 ルチアは素直に彼女の目標を応援したいなと頷いて聞いた。


「えへへ……あのすみません。わたくしまたひとりでおしゃべりを__」

「ルぅチアちゃぁぁぁぁああああん!!!!!!!!!!」


 サシャの謝罪を遮るように、遠くからルチアの名前を叫ぶ声が聞こえた。

 ルチアはまさか自分のことだとは思いたくなかったが、なぜだかとても聞き覚えのある声に耳を塞ぎたくなった。


「ルチアちゃぁぁああんっ!!!」


 声は近づく。

 飛行魔法でこちらに来ているわけではないらしい。

 声のする方向でそれぞれ固まっていた生徒たちが、大声を出す異常者に道を開けているのが見えた。


「えと、ルチアちゃんが呼ばれているのですかね……?」


 サシャが細い眉を下げ戸惑った表情を見せる。

 違うかも、と言いたかったがルチアが口を開く前に、素早い物体がもう正面にいた。


「ヒェ……」


「……ハァ……ハァ」


 息の荒い化け物がルチアの肩を掴んで離さない。

 どうやらその化け物はラフなローブに着替えフードで頭を隠して、正体がバレないようにしているらしい。


「聞いたよぉ……決闘をしたんだってねぇ」


 ネッチョリとした口調で化け物が問う。

 激しい運動をしたせいで痰が絡まっているのだろうか。


「な、なぜそのお話を……」


 ルチアの返答は、肯定と言っているようなものだった。

 なぜロギスにこの数日のことが知られているのか。


「ワタシはなんでも知っているよぉ……」


 マイヤーから聞いただけなのだが、ロギスはさも全知全能かのようにルチアを恐怖させる。


「ルチアちゃんのお知り合い、ですか?」


 横から心配そうに、サシャが顔を覗かせる。

 一見ロギスは全身を隠した不審者魔術師である。


「この子がルチアちゃんと決闘した子かい?」


 なんということだ。

 ロギスが勘違いをする前に、違いますと否定する。


「決闘……? あ! そういえば噂になっていますわよね。誰彼構わず決闘を申し込んでくる女子生徒がいると」


 まさかそう話すサシャは、ルチアがその女子生徒と同室とは思っていないのだろう。

 遠い場所の噂話を話すように、彼女の話し方は他人事だ。


「ほほう?」


 ギョロンッとロギスの瞳がサシャからルチアへ向けられる。


「は、はい。多分その人と魔法戦をしました……」


「どうだった?」


「経験不足の改善点はたくさんありましたけど……自分の魔法がちゃんと使えるってことが分かって良い学びを得ました。あの、教えていただいた魔力砲もすごく活躍しました!」

「そうかいそうかい」


 ロギスは満足そうに頷いた。


「あら? よく見ればロギス・フルール様と似てらっしゃいますね」


 フードから覗く金色の目に惹きつけられたサシャが、そう呟く。


 先ほどまでロギス・フルールに目を輝かせていたサシャに見せるには今のロギスは破天荒過ぎる。

 ルチアは焦った。どう誤魔化すのがいいだろうか。


「フフフ……よく言われるのだよ」


 そっくりさんとして通すらしい。

 ルチアもふんふんと必死に頷いた。



「ルチア!」


 よく通る声である。

 この場にララまで参入してしまった。

 ルチアは頭を抱えた。


「む。その2人は?」


 ああっ! とルチアは青ざめた。

 サシャとロギスが目を付けられた。


「わたくし、サシャ・ニウロースと申します。ルチアちゃんとはどんなご関係なのですか? とても気になりますわ」

「ララ・ヘルホーグだ。ルチアとは友人だな」


 ハラハラとルチアは見守る。


「……」

「そしてそちらは……魔術師殿、なのか?」


 ロギスはフードを深く被り直す。

 ロギスとは気づいていないようだが、佇まいから高位の魔術師と見抜かれているようだった。


「フッ……そうさボクは魔術師。ルチアとは縁があってね。キミは……噂の決闘の少女とはキミのことかな?」


「そうだ。ルチアにはコテンパンにされたぞ」


 ギョロンッとロギスの瞳がルチアに向けられる。


「フフフ……コテンパンにしたのかい?」

「いえっ!いえっ! 結構ギリギリでした!」


 ララからの過大評価にルチアは悲鳴を上げる。


「む。ギリギリだったのか? ワタシの攻撃など簡単に防いでいたように見えたのだが」


「ほら彼女もそう言っているよ?」


 天然のララと意図的に煽るロギスで大変面倒な状況になった。

 ルチアはもっと頭を抱えた。



「ルチアちゃーん、あっちの先生のとこで入学祝い品配ってるよ~」


 今度はウェンと、その後ろからクロードも集まってきた。


「にゅっ、入学祝い品……ですか?」


 ウェンの登場でルチアの心が軽くなる。

 さりげなくロギスに離れてサシャ側に寄りながら、ウェンたちと話す。


「そー“フィーフェ”!」


 ウェンが見せてくれたものは、白いお饅頭のようなものだった。

 ルチアはそれに目を輝かせた。


 “フィーフェ”という白いお饅頭は、精霊大国ファムオーラにおいてお祝い事やご褒美によく食べられるお菓子である。

 原初の精霊王シエラノルンが新しい魔法を覚えたご褒美に人へ与えた、精霊由来のふわふわとした白いモチのようなものが元になっている。


 フィーフェは白い丸い姿が基本で、地域によっては中の餡に様々な工夫がされていることが多い。


 ルチアも舞巫女の役目を終えた帰りに、母親に買ってもらっていた。


「まあ! ルチアちゃん、わたくしたちも頂きに参りましょう!」


 サシャも好きな物らしい。

 わくわくとした顔でルチアの手を取った。


「はいっ! 行きます」


 そしてそのまま現場から離脱した。

 ルチアが去った後ろから、


「……それでこの集まりは……?」

「そうだ! 魔術師殿、ワタシと決闘していただきたい!」

「いやあ、ルチアをコテンパンにしてから申し込んでくれないとなあ」

「審判役、わりと楽しかったなー」


 クロードの言葉を皮切りにわちゃわちゃとし始めていたので、ルチアは願った。


 フィーフェを貰って帰った時には静かになっていますように。




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