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6話 大道芸人への道

 氷の大精霊がいた冬の森を北へ北へ抜けて、山を通り抜けるとがらりと空気が変わる。


 乾燥した寒々しい空気から、じっとりとしたなまぬるい空気へ。

 空に浮かぶ雲もなんだか黒い。


 ルチアとユキは“雷の大精霊”のいる雲河の谷を目指していた。

 ルチアの体力と足への負担を考えて、ユキは白い馬に姿を変え背中に乗せて軽々と進む。

 小柄な体に合わせて、少し小さめの馬になっている。


 雷の大精霊を旅の行き先にしたのは2人の話し合いの結果である。

 氷の地域から近いところにいる大精霊は“水”と“雷”だ。

 水の地域はホム村を西へずっと進んだ海沿いにある。

 雷の地域は冬の森から山を越えて進んだ国境沿いの山間部にある。

 まったく真逆にいる大精霊たちで、旅路の厳しさもどっこいどっこいだったため、ユキの好みで決定した。


「水の大精霊にはまだ会いたくない気がするんだよね、なんとなく」

「氷と水の精霊の力相性は悪くなかった気がするんですが、大精霊同士の相性が影響しているのでしょうか……」


 精霊についてよく勉強していたルチアは自分の記憶を探って考えるが、わからないので実際に会ってからまた考えようと思った。


「雷の地域の北にすぐ風の大精霊様の治める地域があるので、こっちの方が結果的に効率がいいかもです」

「へー」


 道は整備されているところが多いため、迷う心配はないだろう。




 肉や草は自然から調達できるが、それ以外はお店などで購入しなければ手に入れられないだろう。

 成長期真っ只中の栄養失調な少女の肌は、とても良い状態とは言えない。

 どこかの村や町に寄る必要があった。


 *


「だ、大道芸……ですか」

「はい。お仕事に熱心な方が町民に多いので、娯楽を提供されるお仕事は旅の方にとって稼ぎやすいですよ。みなさん休憩時間に演劇や路上の芸人などを観て楽しまれてます。だから町のお店でアルバイトはあまり受け入れられないと思います。人手は足りてるので……」


 なけなしの持ち金で調味料を購入したお店で、働くところを探していると相談するとそう返された。

 確かに、この店までの道のりでいろんな芸を披露していたり大きな広場では舞台を多くの人が囲んでいたりしたので、なるほどと頷いた。


「ありがとうございます、他の人とか参考にしてやってみます!」

「はい! ぜひ観に行かせてください」


 感じの良い女性店員だった。

 店内で品出しをするもう1人の店員と、カウンター奥で音がしていたので作業をしている従業員が何人かいるのだろう。

 小さめの町の割にはお客さんも入っているし、働く人間もよく見掛ける。


「ルチアは何か芸ができるの?」


 町に入って青年の姿に戻ったユキが隣を歩く。


「でっできないですっ、やったことないですぅ〜」


 店員さんには礼を言ったものの、大道芸なんて一切経験がない。ルチアは大きく頭を抱えた。

 舞巫女以外で人の前に立ってなにかをやること自体なかったのだ。変な汗が流れてきた。


「演劇? ってやつは今のルチアの状態じゃ難しそうだし、道の端っこにいる人たちの中からまずできそうなこと探してみようよ」

「はいぃ〜……」


 手のひらサイズの複数のボールをかわるがわる手に収めては投げ、手に収めては投げ。

 真っ直ぐな木の棒1本の先に皿を乗せ回し続け。

 魔法を使わず、何もないところから花を出し。

 天まで届く美しい声を響かせ。


 見物人が拍手やお金を投げるたび、ルチアは頭を抱えた。


「な、なんか上手い人しかいない……!」

「お金を稼ぐのって、大変なんだね」


「今日宿に泊まって朝出発したいから、練習する時間はあんまりないし……玉を投げる芸ならギリギリ……?」

「魔法は? ここに精霊もいるし手伝ってもらったら?」

「エッ、精霊に手伝ってもらうのってアリなんですかね?」

「さっき通りすがりの人に聞いたら、ダメだっていうルールはないって言ってたよ」


 精霊さんにお金稼ぎの手伝いをしてもらうなんて申し訳ないけど、これしかない……!

 その代わり、精霊さんのすごさをいろんな人に見せつけなきゃ!


 ルチアは変な方向へ思考の舵を切った。


 *


「すみません、みなさんのお力を借りることになってしまうのですが……」


 ルチアの周りをふよふよする精霊たちはいいよ〜と快諾してくれた。


「僕は?」

「ユキさんは……私の後ろに立ってひっそりお力を出していただけたら」

「いいよ〜」




 大道芸が立ち並ぶ大通り。昼休憩らしき人々が立ち止まっては出し物を楽しんでいく。

 わっと歓声が上がる箇所がある。何か芸が成功したのだろうか。

 感嘆の声が漏れる箇所がある。何か素晴らしい技に見惚れているのだろうか。


「きれい……」


 接客業をしていそうな身なりをきちんとした女性が、目を輝かせた。


「精霊が使う魔法は魔力純度が高く__つまり、とっても純粋で可愛らしい魔法なんです」


 大道芸をやる当人である赤毛の少女も目を輝かせながら、精霊の魔法を披露する。

 左手に合図をすると、水の精霊が細かな水の粒を発生させる。それに重ねて、火と光の精霊が魔法を使うと、観衆の前に美しい虹が現れた。


「おおっ!」

「虹なんていつぶりに見たよ」

「すげー! 初めて見た!」

「虹って作れるんだ」


 雨がよく降る土地な割に虹を見ることに恵まれない町民たちは喜んでくれた。


 次に右手で合図をすると、ユキを含めた氷の精霊と風の精霊が力を合わせて魔法を発現させる。


「なんか涼しくなった!」

「涼しぃ〜」

「動きたくない」


「これは氷の精霊と風の精霊に魔法を合体させて涼しくしてもらいました。お店やお家に設置されてる冷房装置の魔回路には、この魔法を使うのと変わらない魔導が引かれています」


「あの小さい箱に精霊がいるのか」

「いるんじゃなくて、いるのと同等の力をあの箱が出してくれてるってことだろう?」

「だから専門の人しか触れないのか」

「大切にしよ」

「これ俺知ってた」

「涼し〜」


 ざわざわと観衆が話しているのを聞きながら、ルチアはにんまりと笑った。

 ちなみに芸に使っているこれらの知識は、主に本からだがウォリスから齎された雑学によるものが大きい。

 すごい人の知識と、すごい人たちの開発と、すごい精霊たちの力を見せつけられて鼻高々である。


「では次は__」



 一通り魔法を披露し終えると、満足げな観衆たちから“お気持ち”をたんまりもらった。

 初めてにしては大分稼げたのではないだろうか。


「お店ではどうも。あなたたちの魔法とても良かったです! 私、氷を宝石にする魔法がお気に入りでした。いつか溶けて消えてしまう宝石も美しいですね……」

「お、お店ではありがとうございましたっ喜んでいただけてとっても嬉しいです」


 ルチアたちが利用したお店の女性店員も観に来てくれていたようだ。

 彼女が絶賛してくれている横から、突然ぬっっと男が現れた。


「それ、いくらだ」

「……へ? いくら?」


 男は不躾に言葉を放つ。


「その精霊、いくらで売ってくれるんだ」


 詳しく言われても、言葉の意味を理解できなかった。


 男が顎で指した先に精霊の姿はない。

 おそらく彼に精霊は見えないのだろう。


 と、いうか、光の姿の精霊は人から見えない。

 見られるのは、ルチアのようにものすごく精霊に愛された人間か、精霊との関わりが多い魔術師の上澄みの人間か舞巫女くらいだ。見ようとして見える存在ではないし、見える人でもすべての精霊が確認できるまではいかない。


 精霊を売れと言っている男は普段精霊と関わることのない一般人なのだろう。

 精霊に少しでも関わったことがある者は、売っても意味がないと分かるからだ。


「精霊さんは、その……売るっていうのは、ちょっと……」

「売れないだと? なら何のためにこの町中で魔法なんか披露したんだ。俺たちに見せびらかして優越感に浸ってたってのか?……オイ、何か言えないのか」


 ルチアの腕を掴もうと動いた男の前に、女性店員とユキが壁を作る。


「一般観衆が問題を起こしたら刑罰行きですよ!」


 女性店員は接客で鍛えた声で男のしようとしたことを咎める。

 ルチアはユキの服の裾をギュッと掴んだ。こんな時に返せる言葉が声が出ない。

 高圧的な人間と正面から関わることなんて今までなかった。いつも大人たちに守られていたからだ。


 まともな言葉かも分からないことを怒鳴る男とそれをいなす女性店員のやりとりに、ルチアは頭が重くなるのを感じた。



「っだからあ、精霊売りゃいいだろうがコソコソしてねぇでサッサと出せ!貴族様ってのはいいよなあ金もたんまり使えて服も飯も仕事にも困らねえさらには魔法が使えるじゃねえか少しは平民に分けてくれたっていいだろうが」


「精霊を買って魔法を使いたいの?」


「そう言ってるだろうがっ!」


 女性店員ではない女の声が挟まる。

 男は頭に血がのぼって気がついていないようだった。


「ムリよ。精霊は金銭のやりとりで人のモノにならないもの。買えたとしても魔法でいじめられるか、すぐ消えちゃうわ。あなたすぐ精霊の機嫌を損ねそうだし、向いてないわよ」


「っだぁっ!」


「ほらほら、すぐ暴力する。精霊を買うより教会に行って魔法の基礎のキソを教えてもらったら? あなたが勝手に嫌ってるお貴族サマの施しをちゃんと受けてから、か弱い女の子に文句言いなさいな」


 無闇に振りかぶった腕をスルリと避けて、彼女は挑発する。


『ぼうや、おねんねなさいな』


 そう彼女が精霊語を使うと、紫色の光がぼんやりと輝き男に命中した。

 がくん、と男は地面と抱き合った。


 紫のゴシックなドレスを纏った金髪ツインテールの少女のような女がルチアたちと向き合う。


「大丈夫だったかしら?」

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