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とある精霊の旅  作者: うさ公
第三章 出会いと紅の好敵手
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53話 動じない心

入学まで何話かけているのか……


「……はぁ。まあ知り合いですけど」


 頬杖をついて、やる気のない返答をする少年がとてもユキとは思えなかった。

 人格の変わりようにルチアは開いた口が塞がらない。


「そうなのだな! ワタシはララ・ヘルホーグ。ぜひお前と決闘を申し込みたい!」


 ララは彼にも構わず決闘を申し込んだ。

 ユキが精霊とは気づいていないらしい。


 しかし、ララの猛攻に押されない彼は笑う。


「……ああ、そうだ。ルチアから聞きましたよ……キミとの決闘のこと。魔法運用が下手くそってね?」

「……ッ!」


 明らかにララを見下し煽るような発言をしたユキ。

 初対面でそんなことを言う彼に文句を言ったっていいのに、ララは唇を真一文字に固く結んでまっすぐ目を合わせた。


 ルチアが“下手くそじゃない”とララに言う前に、


「…………そうだ。ワタシはまだまだ未熟なのだ。苦手な魔法から逃げ、剣ばかり振っていた」


 自分の弱さを自覚していると話す。

 燃えるような紅の瞳とは正反対に、ララに向けられた彼のブルーグレーの瞳は一切の興味がなさそうだ。

 つまらない人間を見ているような目に、ルチアは背筋が静かにゾクリと冷たくなった。


「__だからこそ、お前たちと切磋琢磨し力を高め合っていきたいと思うのだ。それを考えてしまっているワタシはお前と気が合わないのかもしれない」


「ふうん? まあ、せいぜい頑張ってください」


 ガタリと椅子の音を立てて席を立つと、完食したトレーを持ってゆらゆらと横に揺れるような歩き方をして去っていった。


(おお……)


 やる気がなく熱血な少女を突っぱねる少年と、諦めない真っ直ぐな少女。

 ルチアはなんだか物語を読んでいる気持ちになった。

 ここからアツいストーリーが展開されていくのだ。読んだことあるぞ。


 ルチアはとんでもない役者系精霊と一緒に居たらしい。

 そのまま契約精霊たちを見ると、“いやいや自分たちは出来ないですよ……やれって言われたら頑張るけど……”とモジモジしていた。


「……お前は交友関係が広いのだな」


 ララが少し疲れたように、ルチアに言う。

 まさかユキがあんな態度を取るとは思わなかったので、とても申し訳なくなったが、詳しく説明するのも難しいためルチアは曖昧に笑った。

 ララの皮肉には気づかない。


「いつもはいい人なんです……」



 *



 ララは入学式の準備に寮へ戻ったため、ひとりルチアは道の端に立って同じように新入生だろう人たちを観察していた。


 続々と真新しい制服を着た生徒が通り過ぎていくので、視界が眩しい。

 人の制服のアレンジを見るのはとても楽しかった。



「どうだった?」


「ゆ、ユキ……びっくりしましたよ! ものすごく」


 ひょっこりと顔を出した少年はいたずらっ子の顔でルチアの隣に立つ。


 さっきまでどこにいたのだろうか。

 ララに喧嘩を売っていたような姿を少しも感じないカラッとした表情だ。


「ララ?さんって思ってたより自制心があるよね。もっとからかってみようと思ってたけど、あんまりだったなぁ」

「そうですか?」

「ヒトって弱いところを突かれると気が乱れる傾向があるみたいだけど、あの子は揺らがなかったよ」


 ララとは初対面のせいで猪突猛進に突っ走るイメージが固定されていた。

 力が強いだけでなく、メンタルも強いらしい。

 それでも、人を軽率に“からかう”のはルチアの胃が痛くなるのでやめてほしい。


「……気が乱れる、って精霊さん特有の表現ですか?」

「あー……魔力のうねりと近いかも?」

「人の細かい魔力のうねりが視えるってことですか?」


 聞いたことのない精霊の話に、ルチアは身を乗り出す。


「うーん、そうなのかな」


 人の視界と比較したことはないため、ユキの答えは曖昧だ。


「その気で感情がわかる……?」

「わかるってほどじゃないと思うけど。気が乱れてたら感情が荒ぶってるなくらい」

「その“気”って自分で操作できるものなんでしょうか」


「……僕はそういう人を見たことないから分からないけどね。ララさんは素だろうし」


「興味深い話、ですね」


 ルチアはユキの話を聞いて、早速見かけた人の魔力のうねりを感じで感情を読み取ろうとしたが、あまりうまくいかなかった。

 ただ魔力の光がそこにあるだけで、“乱れる”という現象の見当も付かない。


 ジロジロと人を見る不審者が誕生したところで、いつの間にか入学式の式場である大聖堂に着いていた。


 大聖堂は学生寮の裏手にある半円状の建物だ。

 学校行事で生徒が集められる際や式典は主にここを使う。


 精霊を模した美しい絵が壁や柱に彫られている。

 この絵のモチーフの精霊は精霊教会由来のものだろう。

 教会由来の精霊は人型のものが多い。


 一つ一つじっくり眺めたいところだが、ルチアは入学式に参加する生徒である。

 大聖堂入り口で開かれている受付をしなければいけない。


「……しっかり生徒か確認されるのか」

「確認してますね。潜入は難しそうですよ?」


 ルチアはユキの撤退を望んだ。

 受付にいる教師らしき魔術師から感じる魔力のうねりはそこらの生徒とは比べものにならない。

 ユキが人の姿を取っていても即精霊と分かってしまいそうだった。


「そうだね。ルチアの入学式を邪魔したら悪いし、大聖堂の中では大人しくするよ」

「そうしてください」


 そのまま視線を少しそらした一瞬のうちに、ユキの姿は消え、どこからか白い光がふわふわとルチアの方へ漂ってきた。


 これで一安心したルチアは受付をして、大聖堂の中へ入った。


 *


 早めに来たからか、中にいる生徒の数はまばらだ。


 円形に広がる空間の3分の2が席で埋められている。残りの空間は舞台のようで、今は幕が下りている。


 この3分の2の席の割り振られた範囲であればどこでも座っていいらしいので、ルチアは空いていた端の方に腰を落ち着けた。

 椅子がふかふかで座り心地が良い。


 ルチアがふかふかに体を沈めていると、聞き覚えのある声が隣に来る。


「やほールチアちゃん」

「こんにちは」


 ウェンだった。

 あえてか若干着崩した制服は彼の軽薄さが前面に出ている。


「髪型めっちゃ可愛いね」

「えへへ、ありがとうございます」


 ウェンはルチアの真後ろに座って、ゆるゆると話す。

 ウェンとの話はルチアにとって気を張るものではないため、彼が近くに来てくれて少し嬉しかった。


「てかさぁ……あ」

「?」


 ペラペラと話していたウェンの声が止まる。

 ルチアはどうしたのだろうかと振り返り驚いた。


「クロードだ。やほー」

「ああ」


 黒髪の男子。

 クロードという名前に心当たりはなかったが、彼の姿には見覚えがあり過ぎた。


 あの日、ルチアが面接に来た日。

 スライム騒動があった日。

 一緒に魔法について語った黒髪の男子。


 ウェンとやり取りをしていた彼の視線が、ルチアに向いた。


「きみは__」


「ルチアちゃんだよ~前話した決闘の子」


 黒髪の彼がルチアに声を掛ける前に、ウェンが教えた。

 ルチアはこの学院に来てからララとしかまともに名乗れていない。


「あ! こっちクロード」


 サラッと彼の名前もウェンによって紹介された。


「こ、こんにちは」

「……こんにちは」


 ウェンが居るから、前会った時の話もしづらかった。

 気まずい空気の中で、ペコペコした。

 クロードの顔の筋肉もピクリとも動かさないから、ここで切り込んでいいものか悩んでいる内に、口が回るウェンがまたペラペラ話す。


「クロードはね、オレと同じ東出身なんだー知り合ったのマジで最近だけど」

「そうなんですか」

「クロード・クロマスクだ。東の風と雷の地域をまとめてる家の息子になる」


 クロマスク。どこかで聞き覚えがある。

 しかし、直近で必要な名称でなかったのだろう。どこで聞いたのが思い出せなかった。

 それにしても、風と雷の地をまとめている貴族など高位貴族である。

 そんな貴族の子息と、あんなに魔法について話してしまっていたとは知りもしなかった。ルチアはちょっと青ざめながら、自己紹介をする。


「えと、氷の地域のホム村の出身のルチア、です」


 へへ、と曖昧に笑う。

 クロードは眉一つ動かさないまま頷いた。


「ああ。よろしくたのむ」

やっと次話で入学式ができることでしょう

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