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とある精霊の旅  作者: うさ公
第三章 出会いと紅の好敵手
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49話 勝負


 ユキは光の姿でルチアを応援する。


 精霊のユキから見ても、ララ・ヘルホーグと名乗る少女は覇気のある人間だった。

 今まで会った魔術師で似ている人を挙げるなら、風の守護者モンドだろうか。


 己の筋肉に絶対的な自信のある顔をしている。

 魔力もそこそこに大きいが、ララから感じる魔力のうねりはなんだか大雑把だ。


 戦うというのは、好意を持って行うこともあるようだ。

 ララが悪意でルチアに決闘を仕掛けたのなら、ユキは精霊の力を持って止めるつもりだったが、彼女から感じたのは純粋な向上心だった。

 うんうんとユキは頷いた。


 ユキもルチアに決闘を申し込んでみようかな、なんて本気で考えながら彼女らの初動を見守った。



 先に動いたのはもちろんララだ。

 右手で剣を引き抜いて、そのままルチアに斬りかかる。


『猛気ッ!』


 ルチアは動体視力を試されるシチュエーションが少なかったため印象は薄いが、行動は早い方らしい。

 ララの素早い一歩に負けじと結界魔法が発動される。


 ただ透明な壁を前に作り出すだけなら、詠唱もいらなくなったらしい。

 ユキはうんうんと頷いた。



「ハハッ!」


 分厚い結界が鈍い音を響かせる。

 相当力を込めた一撃を振ったらしい。それにも関わらず、割れる気配のない強固な結界にララは口角を上げた。


 二歩下がり、剣を構えたままルチアの出方を窺っている。


 ララが先ほど詠唱したのは強化魔法だ。

 ララにとって一番の火力が出せる一撃をルチアは涼しい顔で防いだのだ。

 少しやり方を変えようと剣を片手で持ち、詠唱を始める。

 ルチアから攻めてくる様子はなさそうだ。それならば相手を揺さぶり、隙を狙う。



『煽火』


 彼女の詠唱は特殊だ。

 ただ短縮しただけではない。

 彼女なりの言語で精霊と対話している。それだけその魔法を使っている証だ。


 いくつもの炎がララの周りに出現し、ルチアに四方八方から襲いかかる。


 ルチアは冷静にドーム状の結界を作り出す。

 火魔法を発動した途端、ララが動き出したのだ。

 結界を打ち続ける炎は陽動なのだろう。

 しかしララは“猛気”を詠唱していない。

 動きが速すぎる。一瞬見失った。


 ルチアは少し迷った。

 炎の処理を優先するか、振り下ろされる死角からの剣から逃れるか。


 ありがたいことに、ルチアの頭は冷静なままだった。魔力探知により炎とララの動きを読み、細かく結界を分けた。

 炎を受け止める結界と、ララを吹き飛ばす風魔法付与の結界を。



「っな!」


「すみません」


 イレギュラーな跳ね返す結界に、体勢がほんの少し崩れた瞬間。ひと瞬きもないこの一瞬に、ルチアは最速の魔力砲を放つ。


 一つガラス玉が割れた音がした時にはもう一撃がルチアに降りかかっていた。

 息を吐く暇もない攻撃。きっとこの隙をララは狙っていたのだろう。

 防ぐことはできない。



 外野から見ていたウェンリオル・オルヒュードの視点からは、同時にガラス玉が割れたように見えた。


「ガチか」


 ウェンはあっけに取られた顔で、ただ彼女らの攻防を見るしかなかった。

 自分が男で、しかもララと寮が同室でなくてよかった。心から安堵すると共に、今後ララから決闘を仕掛けられる可能性に体を震わせた。


 あんな強い矛もそれを守り切る盾も、ウェンにはない。

 もしララと戦えば一方的な狩りになってしまう。もちろん獲物はウェンである。



 ルチアのガラス玉が割れても、容赦なく重い一撃がどんどん降りかかる。

 今度は油断しない。結界を広げ、攻撃を防御する。時々風魔法を付与しララの体を跳ね返すが、一度で学習したようで簡単に軸はずれてくれない。


 攻撃の隙がどちらもないまま、何十もの剣戟が繰り返される。

 ララからの攻撃は左右上下構わず様々な方向から来る。彼女の剣を防ぐ結界は体全体を覆うほど広く展開できないため、来る方向を読んで展開する必要もあった。


「……っ!」


 ()()()()()()()


 ジリジリとルチアは追い詰められていることに気づく。


 しかし、気づくのが遅かったらしい。



『火柱』


 慎重に慎重に隠されていた。

 ルチアが右脚を後退させてしまった途端、炎が地面から噴き上げた。

 罠だ。


 だから猛気をさっきから使わなかったのだ!


 ルチアのガラス玉が一つ割れる。


 なぜかこのフィールドでは、剣で切られても炎で焼かれても強い痛みを感じない。

 痛覚すらもガラス玉が吸収しているのだろうか。


 炎で焼かれた気がするチリチリと少し痛む半身を狙われないよう結界で阻む。


 気持ちが焦る。



 *


 ユキはルチアを応援していた。


 そこにララの近くを飛び回る火の精霊たちも、わーわーと応援し始めた。

 応援しながらララの魔法に力を貸しているらしい。


 器用な精霊だなあとユキは呑気に思った。


 決闘とやらは、今ちょうどルチアのガラス玉があと一つまでに削られたところだ。


 ルチアもララに負けじと、罠型の風を付与した結界を設置したが、あっさりと見つかっている。

 集中が解けている。

 ララに剣で斬りつけられた攻撃の恐怖で体が硬直して、猛攻撃を受けている時は逃げ腰だった。

 炎が地面から噴き出した攻撃もより恐怖を煽るものだったのだろう。


 多分、ルチアは全体的に戦うことに慣れていない。

 食べるために動物を狩った時や魔獣を倒した時は、事前準備をして陰から狙う形だった。

 しかし今回は真正面からであるし、戦いの思考が慣れていそうな人間が相手だ。

 分が悪かっただろうか。


 でもなあとユキは考える。

 そこらにいる精霊に力を貸してくれと言えば、きっとみんな協力してくれる。風魔法や結界魔法にこだわらずともいいのに。

 足下を凍らせろと命令してくれたら、すぐそうできるように手伝うつもりなのに。


 うんうんとユキはルチアがどうやったら逆転出来るか考える。


 ユキは理解できていないのだ。ルチアが自分で学んだ魔法を使って戦いたいという思いを。

 絶対に勝つことが目的なのではなく、自分の実力を知るために頑張っていることを。


 *


「ハアッ!」


 何千回と振った剣だ。

 しかし、それを何百回と叩きつけているのに一切この壁は壊れない。

 結界の中に侵入できたのは隙を突けた2回だけだ。

 結界の中から、恐怖と観察がないまぜになった気持ち悪い黄緑色の瞳がララを見ている。


 ララ・ヘルホーグは静かに心が折れそうになっていた。

 これまでの努力に自信があった。

 戦いの成功体験もあった。


 しかし、こんな強固な結界は“母上”が扱う魔法以来だった。


 結界は厄介だ。

 強固になるほど守る範囲が狭まる性質があるが、硬いだけでもうこちらとしては駄目なのに、さらに高度な魔力感知で的確に展開されるからもっと駄目だった。


 ルチアと名乗る自信なさげな少女の操る結界魔法に、全て防がれてしまう。

“猛気”を使っても割れない。

 ワタシはこの結界を割ってみせたい。

 これを割ればワタシはもっと強くなる__はずだ!


 意固地な頭は時にデメリットだ。

 ルチアが恐怖を覚えていることは分かっている。そこを押せば勝てることも分かっている。

 しかし、割ってみせたい。



 何万回も振ってきた腕が、疲労を訴えている。



 *


 カラに閉じこもっているのと一緒だというのは分かっていた。

 四方八方から来る剣の攻撃、火魔法を防ぐだけならさほどの集中力がいらないというのがデメリットになっている気がした。


 無意識に永遠と展開する結界魔法をよそに、ルチアは紅の瞳に絡め取られていた。

 彼女の瞳は彼女自身を表している。苛烈で絶対的な輝き。


 目の前から一瞬で消えて、右に現れたとしても剣先よりまず紅の瞳に引きつけられる。


 ララもずっとルチアの目を見ていた。



 ルチアはなんとなく気づいた。

 ララに限界が来ていると。

 どのくらいの時間、ララの攻撃を防いでいるのかは分からないが、彼女の疲労度から相当経っていそうだった。


 ここで優しく受け止めてやればいい。

 ルチアは魔法の流れを変えた。


「っふ!?」


 跳ね返す風を止めて、彼女の剣を結界に優しく滑らせてやる風を発動する。


 強い打撃を与えるために傾いたララの重心が悲鳴を上げた。


 やっと糸口が掴めたおかげか目が覚めた。

 攻撃を与えられる恐怖はあるが、固まった思考が解けていく。


『吹き飛ばして』


 強力な風が、ララの横腹に発生し体を遠くまで吹き飛ばす。


 素早く魔力砲を放った。



「ッカハ……」


 フィールドの壁は人も通さないらしい。

 ララは強く体を打ち付け、声を漏らした。


 最後まで、紅の瞳は輝きルチアを射抜いていた。



「あ! 決着決着~」


 ウィンの緊張感のない声がコートに響いた。


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