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とある精霊の旅  作者: うさ公
第三章 出会いと紅の好敵手
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47話 関わる人は選んだ方がいい


 仕事ついでだと、商会の馬車に乗せてもらいルークと学術都市へ出発した。


「……で、なぜ叔母さんがここに? お久しぶりですね」


 ルークのむっとした視線が、白い頭の女に突き刺さる。

 そんなことは意に介さず、ロギス・フルールは呑気に手を挙げた。


「やあ。今日もいい天気だね!」


 数週間ぶりのロギスは何も変わっていなかった。

 キラキラと笑って自分のペースを崩そうとしない。


 馬車にいつの間にか乗っていたロギスは、ルチアたちを存分に驚かせた。


「ちょっとルチアちゃんに話し忘れたことがあってね」

「はい」


「キミの周りにいる精霊は授業中やだいたいの学校生活中そばにいないように」

「えっ」

「生徒の契約精霊専用の教室があるから、そこで基本は過ごすように」

「なるほど……?」

「あとユキくんみたいなただ引っ付いてるだけの精霊は論外。なんとかしたまえ。引き剥がすとか」


「エッ!?」

「僕だけ扱いが微妙ですねー」


 まさかの話にルチアはびっくりしたし、向かいに座るユキは悲しそうだ。


「どうして精霊を連れていてはいけないのですか?」


 魔法学校なのに、とルークは疑問をぶつけた。


「生徒がみんな精霊と契約しているわけではないからね。余計なトラブルを招かないためさ。ルチアちゃんみたいに中位精霊を4体契約している魔法使い見習いなんていないから、絶対に言いふらさないようにね。悪意ある人間と衝突するのは煩わしいのだよ。それに……野放しの精霊は自我が強いと面倒だからねえユキくんみたいに」


 ワタシもね、精霊関係で遊んでたら同級生とトラブルになって迷惑したものさとうんざりしたように語る。


「精霊さんと離れ離れになるんですね……」


 中位精霊たちの光も心なしかショモショモと悲しそうにしている。


「精霊がらみの人間関係は歪になりがちさ。それに、学院に通う生徒全員がまっすぐ魔術師になりたいわけじゃない。キミも友人にする同級生はしっかり吟味したほうが良いよ。精霊や魔法のことを同等に話せるより、性格の良さだね。ああっ! 心配だなあルチアちゃんは優しいからすぐ悪意に染まりそうで……」


 ロギスは演劇かのように大げさに涙を拭く振りをした。


 そして次の瞬間にはけろりとした表情で話を続ける。


「それはそれとして……やはりただ学校に通うだけではつまらないからね。ワタシから試練を出そうと思うのだよ」


「うわ」


 ルークはロギスのニヤニヤとした顔に嫌な思い出があるのか、ものすごく顔をしかめた。



「学校というのは授業の他に生徒への教育の一環として、いくつかイベントがあるのだよ。その一つに“最強決定戦”というのが学年末に開かれていて、学年ごとの最強を決める生徒主催のお祭りなのだけどね」


「さいきょうけっていせん」


 言い慣れない言葉にルチアは戸惑った。

 ロギスはピカピカに笑っている。


「そこで最強になりたまえ」

「はわ……」


「チャンスは3回。いっそ三連続冠を取ってもいいからねえ! この戦いで勝てば一つお願いを聞いてもらえる。そこでキミはこう願いたまえ『光の大精霊に会わせろ』とね」

「……っ!」


 ルチアの鼓動が大きく跳ねる音がした。


 *



 ユキは考えた。

 ルチアのおもしろ学校生活を近くで眺めるためにはどうしたらいいのか。


 ルチアと別に契約はしたくないのだが、生徒と契約していない精霊が自我を持って学校を彷徨くと不都合なようである。

 そんなこと知らないと振り切ってしまいたいが、もしルチアに“悪いこと”が降りかかる可能性が出てしまうなら慎重に動かなければならない。


 ルチアはロギスとさらに面白い話をしていたのだ。

 最強決定戦とやらでルチアが勝つという話だ。

 絶対に見たい。

 こんなに気になるものがあるだろうか。


 ユキは考えた。



 そうだった。

 無理に人の姿でコソコソ付いて行かなくともいいのだ。

 人の姿でいることにこだわりはあるが、ルチアへの好奇心に比べたら大したことではない。

 小さい動物に……いや。光の姿になって他人に認識されにくいところまで力を弱めたらいい。


 学院まで着いたらしい。

 ユキは真っ先に降りて、ルチアが馬車から降りやすいよう補助をした後自然な流れで姿を解除した。


「ありがとう、ユキ……?!」

「この精霊、ずる賢くないかい?」


 身軽な動きで降りたロギスが呆れた声を出した。

 ユキの思惑に勘付いたようだ。


「精霊が姿を解除するとそうなるんですね……人がいきなり消えたみたいで怖いですけど……」


 ルークはルチアたちを見送るために降りてきた。

 怖くないよーとユキは光の姿でルークの周りを飛ぶが、彼に見えていないため、おちょくっているようにしか見えない。

 ルチアはユキの姿を認識すれば視えなくもない。奔放な動きをするため、すぐに見失うが。


「それじゃあ、まあ、がんばって」

「うん。ありがとう、またね」


 またルークとはお別れだ。

 しかし寂しさはなかった。

 互いにどこにいるのか知っているし、定期的に連絡も取れる。


 それにルチアにはルークに精霊魔法の方を学びたいと思ってもらうために、頑張って勉強しなければいけないのだ。



 数週間ぶりの学院に足を踏み入れた。

 以前より人の姿がちらほら見える。ルチアと同じ新入生か在校生だろうか。

 少し温かくなった風が顔に当たる。


 学生寮は授業棟の向かいに建つ。

 ルチアがいる門からは一番遠かった。

 で学院の敷地を歩くのは、スライム騒動ぶりである。広いし建物は多いしで道に迷いそうでドキドキしたが、今日は急ぐ必要はない。ゆっくりいろんな建物を眺めながら、足はまっすぐ寮へ向ける。


 ロギスは「入学式で会えたらいいね」と一言残して、またどこかへ消えた。


 ユキも光の姿になって周囲から目立たないよう話もしないので、ずっと静かだ。


 生活に必要なものはすでに寮の部屋に送られているので、腕は軽い。


 ときどきすれ違う人と目が合えば軽く会釈したり、挨拶したりしていたら人の行き交いが少し多くなる。


 いくつかの建物と看板がある。人はその出入り口から現れている。その中に、

一年女子寮プラム

 と看板の付けられた入り口が見えた。


 ルチアが入寮するところだ。


 入り口のドアは質素だが、そこを出入りしている女の子は豪奢なドレスを着て後ろに使用人を付けている。

 ルチアは貴族らしい貴族の女の子の姿を見て、目をぱちくりと瞬いた。


 平民出身のルチアだが、今着ている服はミロの店で買った良い服だ。中身はアレかもしれないが、外身は整えてもらっているのだ。

 背中を丸めないよう、美しいドレスの後を追うように寮へ入った。



「お名前をお願いします」

「ホム村のルチア、です」

「……はい、本日入寮ですね。お部屋の鍵です。もし無くすなどトラブルがございましたら、すぐにこの受付までお願いします」

「はい」


 若そうな女性が、ルチアの名前を聞いて名簿を確認した。

 髪型は特徴のない一纏めだが、清潔感があり悪い印象を与えない女性だ。


 ルチアに部屋の鍵を渡し、愛想の良い笑みを浮かべて部屋の場所も案内した。


「ありがとうございます……っ!」


 丁寧に教えてくれた受付の女性に安心感を覚えたルチアは、ペコペコと頭を下げながら自分の部屋へ足を進めた。


 2階へ上がって3つ目の部屋。


 二人部屋ということだから、ルチアは知らない女の子とこれから3年一緒の部屋で過ごす。

 どんな子が相部屋なんだろうか。


 ドキドキと心が跳ねながら、階段を上って、

 いち、にい、さんと部屋を数えた。


 鍵を使って開けようとしたが、すでに鍵は開いていた。

 もう中に誰かいるのかもしれない。

 一応、ドアをノックした。


「……こ、こんにちは」


 ソロリとドアの隙間から顔を覗かせて部屋に入る。



「こんにちは! お前がワタシと相部屋なのだな!?」


 声が大きい。

 ルチアはガチンと体が固まった。


「ワタシはララ! ララ・ヘルホーグ!」


 ララ・ヘルホーグは瞳孔を開いてルチアに迫る。

 ルチアよりもずいぶん背の高い女子だった。とてもじゃないが同い年には見えない。

 細い手足のルチアと、健康的な肉つき長い手足のララ・ヘルホーグ。

 もう初対面から押されている。


「る、ルチアですぅ……」


 名前を捻りだすので精一杯だった。

 ロギスとはまた違うパワータイプの押せ押せ女子だ。


 ララの紅の瞳がルチアを捕らえて離さない。

 大きな口からまた言葉が発される。


「ワタシはお前に決闘を申し込む! ワタシと闘ってくれ!!」


 ギラギラと輝く紅がルチアの若草色の瞳を射抜く。



 光の姿で気配を潜めていたユキは面白そうなことが起こるぞ、と無い顔でニコニコ笑った。



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