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とある精霊の旅  作者: うさ公
第二章 自由と銀色の導き
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38話 風の吹くままに


 ホーウホーウと風の中位精霊が梟の姿になって、窓辺でリラックスしている。

 空には星々が輝いている。


 星と精霊に見守られながら、宿の一室で赤毛の少女はうずくまって何かをしていた。

 手元が止まったり、急に覚醒したように動き出したりする様子をユキは近くに座り込んで見ていた。


 明かりも点けていない暗い部屋だが、光の精霊が照らしてくれていた。

 ルチアがうずくまり始めた時は、まだ外も明るかったのだ。


 ルチアがスケッチブックに手を付けて何時間経っただろうか。

 彼女の体勢はなかなかにしんどそうだが、手元に集中して気にしていないようだ。きっと、起き上がったとき後悔するだろう。

 精霊たちは手元にしか目を向けないルチアに不満を感じることはなく、静かに時間を過ごしていた。

 やっと、ルチアの絵が見られるのだ。とても楽しみにしていた。


 今回、風の大精霊が住宅街の人もよく通る場所にいるため、邪魔になることや描いている様子を見られるのが恥ずかしいことから宿で描いている。

 宿に戻る前に風の大精霊を目に焼き付けて、思い出しながらちょっと脚色も入れながら描いてみていた。

 目の前に描く対象がいないのはやりづらいが、挑戦である。

 色もすごく迷うし、朧気な記憶で曖昧になった線がある。完璧は目指せないが、なあなあにして細かく描くことを放棄したくなかった。



 竜の襲撃が収まって、解散して今なので祭りやら竜との戦闘を見た衝撃やらで疲れが来ているらしい。

 ルチアの手元が少しブレた。


 あともう少し。


 ちょっと妥協したところはあるが、ルチアが会えた風の精霊たちと大精霊の姿を自分なりに表した。



「元気になってくれるといいな……」


 心の底から漏れ出た言葉は静かな部屋に響く。


 舞巫女によって街に精霊が戻ってきたことによって、大精霊の様子も良い方へ変わっていた。

 早くお供えの焼き菓子を取り込めるまで回復してほしい。精霊たちが住みやすい環境に戻りますように。


 頭を巡るいろんな思いや願いが筆に乗った。


 ユキはそんな筆の動きを、雪をも溶かすような温かな目で追う。

 やはり、ルチアの絵はとても良い。彼女の心の暖かさが伝わるような、そんな素敵な絵だ。



「っで、できたので、見てもらえますか?」


「うん!」


 魔法の照明で輝く若草の瞳から、達成感と自信と不安が伝わった。

 ユキを含めた精霊たちはわちゃわちゃとルチアの絵に集まって楽しげに騒ぐ。


 ここが良い、これも好き、と純粋に褒める精霊たちに、ルチアは口をむぐむぐと震わせながら嬉しそうにしていた。



 *


 やりきった達成感で、ぐっすり眠れた翌朝。

 ルチアたちが泊まる宿に、突撃してきた者がいた。


 白くなったボサボサの頭を振り回し、彼女は言う。


「ハイエルンまで行こうじゃないかぁ!」


「エッ!?」


 ちょうど髪を纏めようとしていたルチアはびっくりして、紐をヒラリと床に落とした。

 それを拾って、代わりにユキは赤毛を纏め始めた。何回かやっているので、多少慣れたものだ。


「よく考えたら、ワタシはキミを推薦した__いわば保護者のようなものなのだよ。女の子一人で首都まで歩かせ、さらに学院に置き去りにするのはさすがに常識的に“アレ”なのだよねっ! 本来ならキミの親御さんだったりに細かい確認をするべきだというのに、すっ飛ばしたワタシの責任……!」


 早朝にいきなり宿に突撃してくるのも、常識的に“アレ”ではないだろうか……ルチアは言葉を飲み込んだ。

 なんとなく分かっていたことだが、ロギス・フルールは変な人だ。


「だからね、一緒にハイエルンまで向かい、学院やその他諸々もワタシと共に確認しながら行こう!」


 まあ、そうだな。とユキは頷いた。ルチアもユキもハイエルンや学院のことは詳しくはない。


「あ、ありがたいです……! お願いします」


 ルチアはロギスの堂々とした優しさに頭を下げた。

 正直……光の地域に行ってもどうしたらいいのか分からなかった。ロギスに聞けるときに聞こうとしていたが、呪術や竜にいろいろ重なり、ロギスとしっかり話せるタイミングもなかったため、ありがたい申し出だったのだ。


「……もっと責めてくれたまえ……ワタシはこういう段取りが苦手で苦手で……分からないことがあれば話を遮ってでもすぐに聞いてくれ……! ちなみにルチアちゃんはいつならハイエルンに出発できそうだい?」


 白い髪が、ロギスのテンションと共に垂れ下がる。

 髪に精霊でも付いていそうな感情の現れ方である。

 ルチアはロギスの頭をしげしげと眺めながら、ニューロでやることはやったなと考えた。


「出発はいつでも……大丈夫、です」


 ルチアの髪を結んだユキが、背後で散らばった荷物を纏め始めた。ユキもニューロに思い残したことはないらしい。


「ならば今日すぐに出ようか。そうだね……1時間後広場で集合して、お腹に何か入れて出発しようか。必要なものがあったらそれまでに準備しておくのだよ」

「はい」


 それじゃまた! とロギスは話すことを話してバタバタと去って行った。

 動きが早すぎて、ルチアのトロトロした普段の動きではついて行けなさそうだ。



「ユキ、今度は光の地域です! 準備しましょうっ!」

「お~!」


 腕を上げるユキに、わちゃわちゃと中位精霊が群がった。


「学校楽しみだねー」

「はい!」


 *


 一つ一つ荷物を確認しながら、買い足すものがあればメモをしておく。集合の道すがら買いにいく予定だ。


 スケッチブック、水彩絵具、パレット、鉛筆はアリサに買ってもらったもの。ぐちゃぐちゃにしないように綺麗に鞄にしまい込む。あまり使っていないので、絵具の買い足しの必要はなさそうだ。

 替えの服もアリサに買ってもらったのだった。小さく畳んで鞄に捻じ込む。精霊に手伝ってもらってこまめに洗っているので綺麗だった。

 その他必需品の洩れがないことを確認し、鞄を閉めた。


「よしっ!」


 そして、ユキから2つの封筒を受け取る。


 紫の封筒に金の封蝋のものと、青の封筒に銀の封蝋のものだ。

 アリサとロギスからもらった封筒を、大切に大切に手の中に収め、祈るように額に添える。


『困ったときはそれを開けなさい』

 そう言ってくれたアリサの言葉が頭に流れる。

 お姉さまとして慕う彼女からの手紙があるだけで、力が貰えた。今日も頑張ろうって、早く大精霊様に会いに行くんだって思えたのだ。


 ロギスからの封筒も大切に開けないでいる。

 彼女曰く、入学を推薦するためだけのものなので勝手に処分してくれてていいよ、とのことだったが、あの憧れのロギス・フルールからもらった物だ。まだ大切に持っていた。魔術師になるためにこれから学校に行って頑張るんだぞ、と気合いを入れた。


 2つの封筒をユキに持ってもらって、ルチアは梟と蜻蛉と蜥蜴と雀の姿の精霊たちを抱き締めた。


「私と契約してくれてありがとう。学校でもたくさん頼らせてね」


 ルチアの温かい腕の中で、わちゃわちゃと精霊たちは騒ぐ。

 可愛い中位精霊から顔を上げると、部屋の窓を閉めたユキと目が合った。

 今にも溶けてしまいそうな雪のように白く儚い見た目の彼は、穏やかに微笑んでいる。


「……っ私、学校行っても絵をたくさん描けたらいいなって、思ってます」

「楽しみにするね」

「はい」

「ルチアが描く人の絵も好きだから、それも見たいな」

「が、頑張ります」


 人を描くのは少し苦手だが、ユキたちが喜ぶ顔が見たいので挑戦だけでもしようと決意した。



二章はこれで一区切りです

39エピソード分の登場人物をまとめたもの(今更)と閑話をちょっと挟んで、学園編になります

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