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とある精霊の旅  作者: うさ公
第二章 自由と銀色の導き
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36話 先輩の戦い方


 ロギスは学友だった男の名を少女の口から聞いて、思考が停止していた。

 4年以上連絡が取れていない。5年近く会えていない。そんな男が、健気に舞巫女と氷の地で頑張っていたというではないか。

 のんべんだらりと人のために働きたくないとのたまう“あの”男が、少女に兄と慕われている。


 ロギスにとって10年ぶりくらいの衝撃である。


 しかも、魔法に興味のある少女にローレンが書いた教本を渡したらしい。

 どんな天変地異が起きて?


 呪いを受けて頭がおかしくなったのだろうか。

 こちらは純粋に彼を心配しているというのに。

 連絡くらい返したまえよ。


 ぐちゃぐちゃとウォリスに対する思いを混ぜ込んでいると、肩を叩かれた。


 ローレンだ。

 何の特徴もない眉間に皺を寄せて、告げる。


「竜が来た」


 やはり彼の索敵は優秀である。


 ロギスは意識をウォリスから切り離し、目の前のことに集中する。



 来るとは予期していたが、思っていたより遅かった。

 風の地域に張られた呪術を壊すことで、術者に知らせが行く魔術が組み込まれていることまではルチアたちには言っていなかった。

 呪術が破壊されたら、“ヤツ”は次に竜を送り込んで来るだろうと予想していた。

 予想通りの行動をしてくれて、助かるものだ。


 もう少し早く行動してくれたら、舞巫女の舞と共に竜の死体を空から降らせる演出ができたというのに。


「事前の話通りに」


 ロギスはそれだけ言うと、風来の森ニューロ全域を覆うほどの結界を展開した。


『入らせるな』


 数多の精霊たちが呼応する。強固な結界が空からの竜を阻む。


 モンド、ローレンはすばやくこの場を離れた。

 2人には竜の討伐を任せている。地を這うように走るモンドと、空へ一瞬にして飛び上がるローレンを見送った。

 結界に数十の空竜がぶつかる反応がある。竜の場所が分かりやすいように、モンドとローレンに見える光を点ける。



「さて、と。竜が襲撃に来ているらしい。フウカちゃんは教会に戻っているように」

「はい。よろしくお願いいたします」


 フウカは何も言わず頭を下げると、竜の登場に混乱する人々に声を掛けながら、教会に戻っていった。

 フウカは事前にモンドから軽く話は聞いていた。舞巫女であり、魔術師でないフウカに対竜で出来ることはない。

 迅速に、自分の身を守りながら人々の避難と安心させてやることが役目だ。


「すごいですね。大きな体がぶつかっても一切傷がつきませんよ」


 お~と感嘆の声を上げながら、ユキは竜が結界に迫る様子を眺めていた。


「フウカちゃんが精霊を集めてくれたから、だいぶスムーズだよ。ルチアちゃんはワタシと一緒に来たまえ。この時代に魔術師になるということは竜と対峙するということさ。先輩が戦うところを見学しようねえ」


 先ほどまで、竜の登場に驚き右往左往していたルチアはピタリと動きを止めた。

 フウカと避難しているよう言われると思っていたのだが、名前を呼ばれなかった。

 まさか竜対魔術師を見学させていただけるなんて……!


「はい! よろしくお願いします」


 精霊は姿を解いてくれたまえよ、とユキに指図しながら、ルチアの手を取ると宙に浮いた。

 ユキは大人しく従い、光の姿になって空を飛ぶルチアたちについて来ている。


 *


 広場から北東に進んだところで竜が集まっている。

 数が多いし体も大きいため、空が覆われニューロの北東部分だけ暗くなっていた。


 街の結界を半球状に作ったため、倒され飛ぶこともできなくなった空竜が結界を滑るように落下していくのが見えた。


「空竜をローレンに。地竜をモンドに対処してもらっているよ」


 逃げるように飛ぶ鳥たちとすれ違いながら、空竜の方へ近づいた。

 たいぶ近づくと、空竜のギョロリとした目がロギスとルチアを捉えたらしい。耳障りな鳴き声が放たれる。


 その声は不自然に途切れたと思うと、意識を失った空竜が地面に落ちていく。

 そこには空を飛ぶローレンがいた。


『鋭い刃を』


 ローレンが詠唱すると、展開された風の刃が的確に竜の命を奪っていく。

 竜たちは気づかぬうちに落ちていく仲間を知りながら、何でやられているのか理解していなかった。

 この目の前で魔力を練っているらしい小さなヒトか。しかし竜から見ればあの人間が練る魔力などアリに等しい。簡単に潰せるものであるはずなのに、目の前にある透明な壁が進行を邪魔してくる。

 あの人間が同胞を殺しているというのなら、早く殺さなければ。


 そうしていたらさらにヒト側も2人増えた。

 厄介である。

 竜は魔法を使う人間がどれだけ厄介か知っていた。アリほどの魔力の人間だけであれば簡単に対処できたはずである。

 しかしヒトが群れたら別だ。


 結界に阻まれ、ギャリギャリと喉から音を出す竜は聡明だった。

 逃げようとしたはずだった。


『逃がさないよ』


 逃げられない。

 飛べなくなった竜は遠くなる空を見上げながら、命を落とした。



「うーん。さすがローレンくんだ。手際がいいね」


 調理場の料理人を見ているかのような、淡々としたロギスの物言いに、ルチアは慄いた。

 こんなにもアッサリと竜を倒すことが当たり前の世界なのだ。竜の火吹きを防御するだけで精一杯では魔術師として生き残れないのだと理解した。


 ウォリスの雷の矢や、ローレンの風の刃のように、基礎の攻撃魔法でも大型の魔法生物を倒せるというのは魔術師としての研鑽の表れだ。


「竜は翼を切っても飛べるからね。ああ見えて魔力で宙に浮いているのさ。だから、竜の心臓でもある魔力核を壊す。頭か首の付け根を的確に刺せばイチコロさ」

「頭か首の付け根……ですか」

「まあ竜は外殻が硬いからね。なるべく鱗の間と骨の薄いところを狙うのだよ」


 学院でも魔法生物については学ぶからねーなどとロギスが言っているのを、ルチアは脇に抱えられたまま聞く。

 飛行魔法もしくは浮遊魔法は、魔力操作技術も必要だが自分の身体能力も試される。ルチアにはこの魔法は難しいだろう。


 ロギスの邪魔にならないよう、ルチアは大人しくしていた。下を見るのはちょっと恐い。



 *


「ッハア!」


 モンドは飛行魔法は使えないため、己の足でニューロの街の端まで走り、地竜の相手をしていた。

 風の守護者モンドは近接戦闘に長けた魔術師である。

 祭りの飾りで街に刺さっていた旗を抜き取り、棒の部分を振り回し地竜をはね除けていた。


 長い棒を巧みに扱い、竜の横っ面を叩く。

 そうすると、魔力核が強い衝撃を受け壊れ竜が倒れる。


 モンドの魔力属性は炎だが、鋭い攻撃には向かないため、強い打撃のみで竜を圧倒していた。



「あれはね、武器に強化魔法を施しているのさ」


 モンドが竜とやり合う様子をロギスは解説する。

 武器への強化魔法は、人間への強化魔法とはまた違う魔法だ。


「対物強化魔法、ですか……!」


 戦場の英雄モンドの戦いを、間近で見られたルチアはすごく感動していた。

 隆起する筋肉を生かす逞しい戦い方には、魔術師への憧れ関係なく心動かされるものがある。


 物に強化魔法を施してただ振り回しても意味は無い。モンドの地の戦闘能力の高さと魔力の扱いの巧みさがなければ成り立たない。



 頭の後ろに目でも付いているのだろうか。

 竜との間合いが絶妙だ。

 一体一体丁寧に処理されていく。横槍も許さない立ち回りだ。





 やがて竜の声が消えた。

 竜の襲撃は、2人の魔術師によって1時間もかからず鎮められた。


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