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とある精霊の旅  作者: うさ公
第二章 自由と銀色の導き
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31話 おー!(不穏な香りとともに)


「あ……」


 北、東、南の街の外で転がっていたが、何の成果も得られず西で地面に伏せて魔力のうねりを感知していたとき、引っかかりを感じた。

 そこを重点的に調べたら何かがあるかもしれない。


「あった?」

「あるかも、です……」


 ユキたち精霊も真剣な顔をして、地中の魔力を探査する。


 緑の光の合間に、不自然な空白が合った。

 たまたまそういう魔力運動だったのかもしれない。

 しかし、生まれてこれまで精霊が近くにいた生活をしていたルチアには、なんだか変だなと感じさせた。


 魔力を追おうと、自然に体が動いて匍匐前進でじりじり移動する。

 精霊たちも真剣な顔をしながら匍匐前進のような動きでルチアについて行く。



 静かに目を開けた。

 導かれるように、手を伸ばし木の根元に茂る葉を裏返した。

 何の変哲もない。よくある卵のような形の葉っぱだ。

 しかし、確かに視たのだ。


「これ、多分刻印……です。みんなは何か感じますか?」


 薄らと葉の裏に何かある。

 精霊たちはじっと見るが、分からないようすだった。


「精霊さんを近づけさせない刻印ではない?」


 一般的に刻印や呪いは精霊を遠ざけるものだが、一部他の効果が付与されたものもある。

 これがその一部かもしれないし、全く違うルチアの知らない魔法の可能性もある。


 薄い見えるような見えないような紋様を注視し、そろりとそれを触ってみる。

 魔力で描かれたものか、塗料などを使われたのか確認したかったのだが、それは背後からのおぞましい濁った魔力の塊の強襲によって遮られる。


 ルチアはほぼ反射的に魔力砲をその気配の方向へ放つ。

 1秒もいらない。2日の修練のおかげだろうか。躊躇いはなかった。


 緑の拳大の玉は黒い塊を一瞬で消し去る。


「魔獣の魔力は感じなかったのに……」


 このあたりに魔獣がいるなら地面に転がっていた時、魔獣の存在が分かってもよかったのに、このタイミングでいきなり現れたのには何かある。


「ここから嫌な感じが出てる」

「え? 魔獣が出たあとからですか?」

「多分そう。急に嫌な気持ちになった」


 顔を顰めながらユキの言う言葉に、中位精霊たちも肯定するように動く。


「さ、触らないほうが良かったかも……」


 接触して発動することが刻まれた魔法だとしたら、と考え、ルチアは青ざめた。


 刻印が付けられた葉っぱから距離を取ったユキは、うーんと唸る。


「触ったほうが良かった……と思う。なんかその魔法の本性?が見つけたことで現れたっていうか~」

「本性……隠蔽魔法で隠されていた魔法が見つかったらトラップで魔獣が現れる方で考えると、ここに刻まれているものも分かる、かも……ですね」


 よく見ると、魔獣が出てくる前より刻印が少し濃くなっている。


「結界張って、もう一回やってみます」

「はーい」


 刻印に再び触れると、予想していた通り魔獣が襲いかかってくる。

 迷いはない。一瞬で魔獣を消し去り、他に脅威がないか確認してから刻印を見る。


「これなら何が書かれてるか見やすいですね」


 もう少し濃くなった刻印を、じっくり見る。

 葉の裏にあるため刻印が小さい。目を細めたり、見る角度を変えたりして刻印を隅から隅まで目を皿にして見る。


 知らない綴りもあるが、知っている文字も刻まれている。



 この国には、詠唱して使う魔法と、あまり使われないが字を書いて発動する魔法がある。

 後者はぱっと見は確かに刻印と似ているし、隣国の魔術と発動の仕方が似ている魔法だ。

 ファムオーラでは“印字魔法”と呼ばれ、主に長期的に魔法を使う場合や術者から離れた場所でも条件を満たし発動させたい場合などで使われている。



 この刻印と思われた葉の裏のものは印字魔法である可能性が出てきた。


(でも、印字魔法だとしてもおかしい。魔獣を出現させる字が見当たらない)


 そうやって見ていると、ある角度から刻印もしくは印字魔法に違和感を覚えた。


「こ、これ、魔法が重なってる……っ!」


 ルチアは悟った。

 これは魔法初心者の自分が興味で手を出していいものではない。


 字を写すタイプの魔法を重ねるのは、相当の技術と性格のいやらしきの表れだ。

 下手に触って予期しないことになり得るかもしれない。



 素早く葉っぱから手を離して、それによるトラップがないことを確認すると、ルチアは精霊たちに言う。


「た、頼れる魔術師さまに相談してみましょう……!」


 おー! と精霊たちはわちゃわちゃした。



 *


 よーし街へ戻ろうと回れ右をすると、そこにボサボサの白い頭の人間が立っていた。


「やあやあ! 変な魔力を感知したから来てみればキミたちもいたのかい? 変な魔力の原因はキミたちなのかな?」

「っ! ……ほぁい」

「ロギスさんこんにちは~ちょうど会いたいなって思ってました」

「おや?」


 見知らぬうちに人がいることに驚きすぎてルチアは言葉にならない声で鳴いた。

 見かねたユキがのんびりと挨拶をする。ロギスの警戒を解くためにもこちらは悪いことをしていないと行動で見せなければならない。


 そんな2人の様子に、ロギスも詳しく話を聞こうと魔力の圧を弱めルチアを見る。


「ルチア」


 ユキからも背中を押され、ルチアはあっちこっちに視線を動かしながら、刻印の付いた葉っぱまでロギスを招く。


「こ、この葉っぱの裏に、ですね、刻印?があって……で、でもよく見ると印字魔法に似ている気がして……で、でもでもよく見たら魔法が重なっててぇ……」

「ふむ。失礼するよ」


 ルチアのどもりながらの話を聞いたロギスは、慎重に葉をめくる。



 それを見たロギスは大きく目を見開いた。

 クマのひどい、どこを見ているのか分からない目をランランと輝かせた。

 体も震えている。


「こ、これは……! たしかに刻印にも見えるし印字魔法にも見えるねえ。さらによくよく見ると魔法の重ねがけがされている。緻密な技術と草の裏に隠した陰湿さが現れた芸術だねぇっ! ふむふむ……ルチアちゃんたちは2度これを発動させているね? キミたちもよく見たまえ。この刻印だか印字魔法だかに見える“これ”は『魔術』なのだよ。もともと印字魔法は隣国の魔術を参考にして発明された魔法なのだよ。見間違えるのも仕方ないくらいに、ワタシたちはかの魔術をパクって印字魔法としているのさ。しかし本場の魔術を国内でじっくり見られるなんて貴重なのだよ~っ!? この物に刻むタイプの魔術紋ができる魔術師はかなり限られているらしいよ。つまり、我が国にものすごい魔術師が侵入し、勝手に(すてきな)トラップを仕掛け(おきみやげを残し)ていったということさ。恐ろしいねぇ~~っ!」


 楽しそうに語る横で、ルチアも興味深くそれを見ていた。

 隣国の魔術師がこちらに入ってきて魔術を残していったのは恐いが、初めて生で見る魔術にドキドキした。


「こ、これはどんな魔術なんですか?」


 ルチアの問いにさらに嬉しそうにしながら、ロギスは口を開く。


「なんとこの魔術、魔術とさとられないよう刻印のように隠蔽するのと、そもそも魔術を隠すものが一番上の魔術紋に描かれているね。その下に触れたら反応する感知魔法とさらにこれも隠蔽が掛けられているね。そしてさらに下に召喚魔法だ」

「さ、三重ですか。召喚って、魔獣もできるんですか?」

「できるかできないかで言えば、できるさ。やるにも労力がいるから普通やらないけれどね。それより竜を召喚させる方が楽なんじゃないかな」


「なるほどぉ……」


 ルチアに見えていたのはせいぜい2つ魔法が重なっているところまでだったが、ロギスが言うには3つ重なっているらしい。うかつにその魔術に触れてしまったことに震えた。

 ならば、魔獣が現れたのもその召喚魔法のせいだろうか。

 ルチアはそれもロギスに伝えた。


「ふぅむ。そうなると……」


 ロギスは魔術紋が描かれた葉をためらいなく千切り取って、破きながら言う。


「これは魔術は魔術でも“呪術”と呼ばれるものだろうねぇ。うちの呪いや刻印の魔術バージョンと考えるほうが簡単かな」



「じゅじゅつ……? あの、それよりそれ破って大丈夫なんですか?」

「ああ。この魔術紋に破壊によって何かが起こるとは刻まれていなかったからね。これが魔術紋の破壊で一番手っ取り早いのさ。まさか見つかるわけないという術者の驕りが見えるねぇ。こんな壊しやすいものに魔術を施すなんて」



 バラバラになった葉を魔法で燃やし尽くし、灰すら残らなくなると、ロギスはニヤリと悪い顔をして言う。


「さあて、ここまで熱心に話を聞いてくれたルチアちゃんにはこの呪術の口止めをしなければいけないね?」

「は、はい……」

「勝手に話してましたよ」


 ルチアは今までロギスから出た情報を思い出し、それを何も思わず聞いてなるほどと頷いていた自分に青ざめた。

 ユキが横から口を出すが、楽しそうにするロギスには届かない。


「このことはワタシと守護者以外には言わないように。そして、この呪術が他の場所にもある可能性があるからねえ。その調査の手伝いをしてくれるかい?」


「っそ、えと、ロギス様と守護者様以外の人に言いません! お手伝い、私でよければやらせてください」


 それだけの口止めでいいのか? という問いは飲み込んで、ルチアは頷いた。


「ありがとう素直な子で助かるよお! といってもキミたちに危険な目は遭わせられないからね。探すだけでいいよ。見つけたらワタシに報告してくれたまえ」

「はい!」

「おそらく呪術は風の地域に点在しているのだろうけど、とりあえずこの街周辺を細かく見るよ。他の場所は優秀な魔術師を呼んで長期的に調査しようかな」

「はい」

「あ。この呪術を掛けた魔術師はこの辺りにはもういないだろうから、それは安心してくれたまえ。もう帝国に帰っているだろうよ」

「は、はい」

「ようし、舞巫女ちゃんの舞をゆっくり見るためにあと一日頑張るぞー!」


「…おー?」


 遅れて精霊たちもおー! とわちゃわちゃした。


10万字達成の喜びと、変な世界を作ってしまった結果説明の難しさに頭をぐちゃぐちゃにされています

次は20万字!おー!

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