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とある精霊の旅  作者: うさ公
第二章 自由と銀色の導き
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26話 ニューロへ行こう!

 森は静かだった。

 風によってなびいた草木のカサカサとした音だけが響いていた。


「魔力砲は勢いも大事なのさ。魔獣を見つけたら1秒で込めるだけ魔力を込めてそのまま放ってみたまえ」

「はい」


 コソコソと木々の合間を抜け、魔獣を探す。


 精霊たちの動きと、さっき地面を抱いたときの魔力探知が活きている。

 確実に近くに魔獣がいると示していた。


「キミは左を狙いたまえ。ワタシは邪魔が入らないよう他をやるからね」

「っはい」


 バクバクと緊張の音が鳴る。

 手のひらをぎゅうっと握りしめて、一つ息を吐いた。



 1秒で、溜める。


 体の魔力が吸い取られていく。


 精霊たちも合わせて力を貸してくれた。


 放つ。



 緑色の小さな玉が、石を投げたくらいのスピードで魔獣に向かっていく。


 消えない。


「もう一回だね」


 ロギスの言うとおりに、もう一度同じことをする。


「もう一回」


 まだ足りなかった。

 もう少し込めるように。



「やった!」

「うむ。三回で討伐は上々だね。魔力はまだあるねぇ! それじゃあ次へ行くぞう!」

「はい!」


 *


「今度は二回で行けるように。2秒かけてもいいよ」

「はい」


 見つけた魔獣は、四肢の獣型だった。

 動き回るので、狙いもつけなければいけない。


 二回でやり切る。

 さっきの三回の魔力分を2つに分けたらいいのだ。

 とても難しいが、難しくないと暗示をかける。

 勢いよく。


「……っ!」


 緑色の玉が真っ直ぐ標的に迫る。


「グギャッ」


 魔獣は小さく叫んで消えた。


 次の魔力砲の準備で集めていた魔力を散らした。

 一回でいけた。

 今のはどうだったろうかと、ロギスの顔を窺う。



「ハハッなるほどね。ふんふん」


 目を極限まで開いて、宙を視ていた。

 口は笑いすぎて、歯茎までむき出している。


「よおし、次だ!」

「は、はい」



 *


「もうね、魔力砲は玉の形にするという定石は忘れてくれ。三角でも四角でもいいし、線や面にしてもいい。キミの好きなように魔力を撃ってみたものが視てみたいのだよ……!」


「は、はい」


 楽しそうにロギスとルチアが特訓している。

 ユキはちょっと離れて見ていた。


 魔力砲というのはよく分からないが、魔力の出方を見る限り精霊の使う魔法に近い気がした。

 純粋な魔力のみで発現する魔法。

 それゆえに自分の魔力の属性が出やすい。


 魔力属性の得意不得意によって、攻撃を受けたときのダメージ量だとか放てる攻撃力だとかが変わることがある。

 魔獣はすべての属性魔力が混ざり濁った存在なので、何を当ててもダメージ量が増えることはない。


 一回で魔獣を倒せた先ほどのルチアの魔力砲に含まれる魔力は、三回の時よりちょっと多いくらいで、一回で倒せる魔力ではなかった。


 何が違ったのか。


 そういえば、魔力が()()()()()()



 魔力砲はただ大量の魔力を込めるだけで撃てる、単純で難しい魔法だ。

 しかし、魔力を省エネして同等の攻撃力を発揮できる方法がある。


 それのカギは魔力操作だ。

 魔力を上手く回転させることで、放つ魔法の運動を促進し高威力なものに進化できるのだ。


 おそらく、それをほぼ無意識下でルチアはやったのだろう。


 風に魔力を通し探知する魔法で、魔力操作を特訓していた成果が出たらしい。



 ユキはビームのように魔力砲を撃つルチアを見て、ニコニコ笑う。


 ルチアが努力した結果が活かせるのはいいことだ。


 *


「ゼエッゼエッ……! ゴホッわかり、ました……! 回転、ですね」

「そうだね。魔力の回転率が高い方が良いね」

「す、すみませゴホッ……」

「うむ。もう魔力も体力もギリギリそうだし、村の宿で休んでいたまえ。もうちょっとワタシは探索してくるよ」

「は、はひ……!」


 何度も魔獣と対峙し魔力を使ったことでガクガク震える手足は、さすがに休息を求めた。

 こんな状態でロギスに付いていけるわけもなかったため、大人しく村に戻ることになった。



 夜、ロギスが宿に戻ってきた。

 ルチアも宿屋で自分の部屋を取っていた。ロギスと会えるかもしれないと、宿屋の食堂でぼーっとしていたところだ。


「やあお疲れ。そういえば、ここのミルクは飲んだかい?」

「お疲れ様です。はい、あのさっき飲みました」


 疲れすぎて外の石垣で座っていた時に、ミルク売りの青年に営業をかけられ買って飲んだ次第である。

 疲れた体に染み渡る。美味しいミルクだった。

 ユキもちゃっかり飲んでいた。なるほど、と言っていたが何に納得したのだろうか。


「フロワ村名物のフロワミルクは本当に美味しいからね! ワタシもさっきいただいて来たところさ」


 クイッと飲む素振りをした。


 それを聞いていた宿屋の店主が皿を磨く手を止めて話し掛けてくる。


「夜飯はミルク粥でも出しちゃろうか。うんめぇぞ」


 わしゃ作らんがなガハハッと笑いながら、老人は調理場の奥にいるパートナーに声を張り上げる。


「今日はミルク粥がええのぉー!」


「客用のミルクもろうてけぇ!」


 返ってきたしわがれた老婆の声に、店主はシシシと笑う。


「わしゃミルクもろうて来るがね。粥が出来たら声掛けるけえの」

「わーい! いいのかい? 楽しみに待っていますとも!」

「あ、ありがとうございます」


 腰を曲げた老人が宿屋を出て行った。

 近所の牧場からミルクを貰ってくるらしい。


 老人を見送って、ロギスはフフフと笑いながらルチアたちだけに聞こえるように話す。


「いいかい? 今日夜を食べたら、明日はシチューがいいなと言うんだ。フロワミルクのシチューは本当に最高だからね、ルチアちゃんみたいな孫っ子にねだられたら悪い気はしないはずさ……」


 悪い顔をしている。ルチアも巻き込む気だ。

 しょうもない悪巧みだが、先ほどの気の良い店主を見ていたのでお願いしたら快くシチューを出してくれそうだ。


「ど、努力します……」


 シチュー、久しぶりに食べたくなってよだれが口の中で溢れた。

 ルチアも食べたくなってしまった。

 罠にはまってしまったのか。


 *


「す、全てのものに感謝を捧げますっ……!」


 本当にお願いしたらシチューが出た。

 昨晩美味しい美味しいミルク粥を食べさせてもらって、ごく自然に(?)『シチューとかも、美味しそうですよねー』と誘導したら本当に出してくれた。

 すごいこの宿。


 今日も1日、魔獣の探査とルチアの魔力砲の特訓をしていた。

 すぐバテることもなかった。

 魔力の使い方と、回転を身につけたのだ。

 それに昨日より魔獣の数も少なかったため、今日は余力を持って夜飯にありつけた。


 暖かいフロワミルクのシチューが身に染みる。

 ルチア用に量は少なめにしてもらっているが、数週間前と比べたら多いごはんだ。

 しかしペロリといけた。

 美味しい。このシチューにつけてるパンも美味しい。


 正面には大盛りのシチューとパンを食べるロギスがいる。

 食べられるうちにたくさん食べる人、らしい。

 そういう人もいるのか、と驚くと同時に体に悪そうだなと心配もした。

 食べること自体も好きらしいので、それもあるのだろうが。


「明日、村の周りを一周して魔獣を感知しなければここを発つ予定だよ。キミはどうする? ちなみに、ワタシは風の大精霊がいる森の街ニューロを目指すけどね」


 そのロギスの言葉に、口に入れていたパンを飲み込んで真っ直ぐルチアは答えた。


「私もニューロを目指します。魔力砲の特訓、お付き合いいただいてありがとうございました」


 律儀に頭を深く下げるルチアに、ロギスに楽しそうに笑う。


「まさか魔力砲を2日でものに出来る子がいるなんてワタシも想定外で実に面白かったよ。ニューロまでも一緒に行こうか? ついでだしね」

「い、いいんですか?」


「目的地は同じだからねえ。それに魔術師になる子には今のうちに唾を付けとかないと誰かに盗られちゃうからね!」

「あわわ……」


 この国一番の魔術師に、そう言ってもらえてルチアは泡を吹いた。


 雷の守護者アリサにも、魔霊公ロギス・フルールにも魔法をみてもらったのだ。

 これで魔術師になれなかったらと思うとお腹が痛くなってくる。


 隣のユキをつい見てしまった。


「?」


 ユキはなんともない顔でパンを口に入れている。


 大精霊に会いたいという欲と、魔術師になりたいという欲。

 どうやって両立させようか。


 ルチアは頭を悩ませれる事態の目の前にいた。




 *


「ヨシ! 魔獣の気配ナシ! それじゃあニューロへしゅっぱーつ!!」


「しゅ、しゅっぱぁつ……!」



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