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とある精霊の旅  作者: うさ公
第二章 自由と銀色の導き
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25話 マイペース

「ワタシは全て知りたいんだ。キミたち精霊のこと。精霊と関わる人たちのこと。何を考えて、これまでどうやって生きてきたのか」


 ユキは意識を失ったルチアを運びながら、ずっと喋り続けるロギス・フルールの話を聞いていた。

 彼女の宿までルチアを休ませてくれるとは言っていたが、それまでの道中のおしゃべりを聴くだけで体力が持っていかれそうだ。


 ぼさぼさの白髪を振り回しながら、森の中を慣れた足取りで抜けていく。

 少し歩けば、ルチアたちが通って来た道に戻れた。ここでいきなり魔獣が出てきたのだ。


「ここらの魔獣はもういないみたいだね」

「地面に転がらなくても分かるのですか?」

「うむ。ワタシはこれでもすごい魔術師になれるよう努力してきたかね」

「へーすごいですね」


「精霊とは実に面白い存在なのだよね。人の生きる世界で同じように存在しているはずなのに、人とは遠くペットとも似て非なる生き方をしている。人の考えに影響される精霊もいれば、人の近くにいるくせに精霊独自の自我を持つ精霊もいる」


「人と同じように生きてみたいと思う精霊は?」

「まずそう考えられるくらいの自我と力がなければならないからね。ときどき上位精霊にいるけれど、もう固まった自我があるから一癖も二癖もある精霊たちばかりさ。ぜひキミも彼らに会ってみるといいよ」

「あんまり他の精霊には興味ないんですよねー」


 もう少し道を歩いていく。


「おや。この近くに魔獣がいるみたいだ。ちょっと待っていてくれたまえ」

「はい」


「待たせたね」

「待ってないですよ」


 待てと言われ消えたと思えば一分も経たず戻ってきた。

 待つとかではなかった。

 やっぱり人って面白いな、とユキはほのほの笑った。


 *


 10分ほど歩いて、人の声が聞こえた。

 建物も木々の隙間から見える。

 町に着いたようだ。


「ここですか?」

「そうだよ。魔獣の調査も兼ねてこの村で寝泊まりさせてもらっているんだ」

「村なんですね」

「もう少し進めば大きな町があるよ。ここは乳牛で栄えている村さ。あとでここのミルクを買ってみるといい。驚くよ~」


 もっと近づくと、森が開けたまっさらな地に人々が歩いているのが見えた。そこにはのんびりとした空気が流れている。


 *


 ハッと目を覚ましたルチアはまず白髪の男ユキと、そして白髪の女ロギス・フルールが近くに座っていることに気づいた。

 こんなこと前にもあったような。

 年季の入った木造の小部屋のベッドに寝ている状況で、また人に迷惑を掛けてしまったのだなと察した。


「え? どうしてそれが動くのですか?」

「ふむ。時によりルールは変わるものだからね。彼らが動きたいと思ったら動くのさ」

「そうなのですね。僕の方も動きたいなら動いていいですよ!」

「そう言われると恥ずかしくなってしまうよ。逆に動けなくなるかも」

「難しいですね……」


 楽しそうに話しているが、彼らが何をしているのかはイマイチ分からない。


 ルチアは自分の体に痛みも気怠さも感じないことを確認して、ゆっくり起き上がった。


「おはようルチア」

「おや起きられたかい? もっと寝ていてもいいのだよ。なんならワタシたちの熱戦を見るかい?」


 穏やかに笑うユキと、ランランと話すロギスはルチアに迷惑そうな顔をするでもなくマイペースだった。それにちょっと安心して。


「ぁの、なに…して…の?」


 掠れた声に、隣で寝ていた蜥蜴の姿の水の精霊がすかさず飲み水を出してくれた。優しい。


「エレメンツチェスらしいです」

「基本はチェスのルールなのだがね、駒を下位精霊でも触れるよう設計して、周りの精霊に勝手に動かされるかもしれないワクワクを楽しむゲームなのさ! 競技にするには穴も優劣もつきやすいから趣味でワタシだけが楽しんでいるんだよ。みんな一回やってもういいかな、と断るチェスさ」


 そんなに誇って言うことだろうか。

 ルチアは戸惑った。


 ロギスがはまっているらしい、エレメンツチェスとやらをしているテーブルの周りにはポワポワとした光がよく飛んでいる。

 精霊も楽しんでいるらしい。

 今も勝手に盤上をぐちゃぐちゃにしている。


「あ~……僕のサクセンがー」

「ふふふ……これこそエレメンツチェスの醍醐味っ! チェックメイト、なのだよ」

「ちょっと悔しいですね……」


 決着したらしい。

 イマイチ輪に入れていないルチアはやってみたいなと思った。


 精霊も楽しそうなのが、良い。


「さて、これは片付けておいてだね」


 ロギスはささっと魔法でテーブルの上の物を片付けた。


「キミたちは大精霊に会いたいのだね。ワタシはこの周辺の魔獣の探査があるから、この宿を紹介するくらいしかできないのだけど、すぐに出発するかい?」


 その言葉に、ルチアは両手を握って、勇気を出した。


「……あの、もし私が魔力砲を使えるようになったら、魔獣の探査に同行させていただけますか?」


 ルチアの真っ直ぐな黄緑色の瞳に貫かれ、ロギスは少々考えた。

 腕を組み、目を閉じて、少々。少々。

 マイペースな女なので、しばらくそうした。


「いや。魔力砲を使えるようになるまで待つのは効率が悪いよ。若いキミの時間をこんなことで消費するのはもったいない……だから、実戦で覚えようじゃないかっ!!」


「えっ」


 つまり、魔獣の探査に同行してもいいらしい。

 図々しいお願いだったと自覚していたので、まさか受け入れてくれるとは思っていなかった。


 ロギスは早速とばかりに、ルチアの手を掴みランランと顔を輝かせながら宿の窓を飛び出した。


「エッ!?」


 何も小難しいことを考えさせる隙を与えず、魔法の浮力でのどかな牧場の間を抜けていく。

 飛行魔法だ。さすがに初めてなため、ロギスを信用して体を預けるしかない。

 のんびりしている牛のシルエットを横目に、びゅん、と進む。


 森の手前まで来ると、ゆっくり着陸した。

 どこにそんな力があるのかは知らないが、地面を走り出す前にルチアを小脇に抱えてくれたので、理性はあるらしい。


「魔術師になりたいルチアちゃんのためにロギス・フルールが一肌脱ごうじゃないかっ! 少し寝るだけで魔力が回復するなんて、素晴らしい身体だねぇワタシも負けていられないよ……!」


 ずっと楽しそうだ。

 変な人だ。


 ロギス・フルールについて書かれたものは、だいたい彼女がいかにすごいことをしたか、どんな魔法を使うかが主だ。彼女がどんな人物かも書かれていたりはするが、大衆に見せてもいいように脚色するのだろう。


 まさかこんな自由で破天荒で変な人だったとは。


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