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とある精霊の旅  作者: うさ公
第一章 雷鳴と金色の守護者
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14話 ルークのお化け(?)騒動

「ギャーーーーッッ!!」


 守護者邸の庭に響き渡る叫び声を上げたルークの視線の先には、件のピンク髪の女が木の下に立っていた。


 庭が広いため、女の髪の色しかハッキリ見えないが、彼の話によると能面のような顔をしているという。

 女は木の陰に突っ立っているだけで動くそぶりは見られない。


「あ、あの人ですか……っ!?」

「うぎゃーっ!」


 発狂するルークに赤毛のルチアが声を掛けたのは失敗だったかもしれない。

 彼は更に顔を青ざめさせた。


「すみませんっすみません!」


 反射的に謝り倒すルチアと、恐怖で涙を滲ませるルークにこの場の収拾がつかなくなった。

 女はまだそこにいる。


 さすがにユキも見ていられなくなり、震えるルークの手を両手で包む。


「ルークさん、ルークさん」

「ううっ……」

「僕の体で遮るので、絶対キミの目に入らないようにするので、そんなにぎゅっと目を閉めないで」

「へぅぅ……っ」


 情けなく嗚咽を漏らすルークの手を擦る。

 氷の精霊である彼の手に温かみはないが、少しルークの手の震えが弱くなっていく。

 隣のルチアも真似るように、ルークの手を握った。こっちはとても温かい手だ。


「わ、私“守る魔法”使えるので……っ! 使います!」


 ルチアの周りを飛ぶ精霊たちもルークを可哀想に思ったのかすぐにドーム状の結界が張られた。


「ルークさん、僕、一応上位精霊らしいので頼りにしてください。隣には精霊にすごく詳しいルチアもいますからね」


 ユキは震えて引き攣るルークの体を抱きしめる。

 どこかの街で親子がやっていたのを真似して、背中を擦る。胸板で視界を完全に塞いでやる。

 縋り付くように服を握られたので、上手く胸を貸せているらしい。



 しばらくそうしていると、ルークの肩の力が抜け平常な状態に落ち着いた。


「申し訳ないです……こんな、情けない……」

「大丈夫ですよ」


 ルチアも気にしていないと、ブンブン首を縦に振る。



「ピンクの人もどこかに消えましたし」

「……そうですか」

「まだ怖いかもですし、お昼と夜は僕と一緒に過ごしましょうか」

「ええっ! 申し訳ないですし……」

「夜僕と寝るってことは、ついでにルチアも付いてきます」

「エッ!?」


 ルチアもついでに巻き込まれた。



「あらあら。ルチアと寝るってことは、男たちに囲まれてかわいそうな妹を助ける姉も付いてくるわよ?」

「っ!?」


 いつの間にかアリサが帰っていて、自然に会話へ入ってきた。

 今度はルークの顔が驚きの色に染まっている。


「なぁに? 嫌なことでもあったの、これだからちびっ子は放っておけないわねぇ〜〜っ」


 泣き腫らしたクマつきのルークを見て、アリサは少し煽ってやる。

 さらに髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら頭を撫でた。

 戻ったら昨晩の少年が泣いていたらしいのだ。心配はする。


「すみません……夜一緒に寝るのはユキさんだけでいいです……」


 しおらしく謝ったと思ったら、さすがに女の子と寝るのは……とさまざまな提案を断った。


「このガキっ!」


 撫でていた手に力を込めた。


 *


「上位精霊ぃ? ピンクだから雷属性ね……この辺にいてもおかしくはないけど、坊っちゃんの前に現れるのは奇妙ねぇ」


 粗方の話を聞いたアリサは考え込みながら、手に持っていた物をルチアに渡す。

 それ着て待ってなさいと言われたので、持たされた物を広げると見習い魔法使いが着るようなローブだった。


「変な(まじな)いが掛かってないか一応調べてあげる」

『教えなさい』


 紫の光がアリサの指先に集まるのをルチアは見た。

 光はルークを取り囲むように動く。


「……特に何もないわね。ただアンタがその精霊に恨まれてるんじゃない?」


 悪い顔をしながら、ニヤニヤと少年の肩を揉む。


「ひぇぇ……」


 震えた。


 過去の精霊や対人関係について心当たりを探すため思考に沈むルークを見ながら、ルチアはもらったローブを身に着ける。

 少し大きい。

 魔術師と認められる前段階の見習い魔法使い。それに一歩踏み入れたのだ。


 魔術師は誰もが憧れる職業だ。ルチアだって、妄想したことがある。カッコいい魔術師になってお父さんにもお母さんにも友だちにも近所のおじいちゃんおばあちゃんからも、すごいねって褒めてもらえる未来を。


 精霊を愛すだけでは認められない。

 たくさん勉強して、多くの実践経験を得て、研究も進めてやっと王様に国の魔術師として相応しいか審査される場に出ることができるものだ。


 それの見習いローブを今着ている。

 アリサにそういう意思がなかったかもしれないが、憧れていた世界のカケラに触れられてすごくワクワクした。



「さあて……ルークはユキに預けて、ルチアはこっちに来なさい」


 まだ仕事があると言うルークとそれに付いていくユキを見送り、ルチアは庭でアリサと向き合った。

 紫のドレスを翻し、国内最高峰の闇属性魔術師アリサは闇の精霊たちを集めた。


「っわあ……!」


 思わず目を奪われた。

 どこにいたのか大量の下位精霊の光が“見える”。

 精霊を人に視えるようにするには、高度な魔力操作技術が必要とされる。

 魔道具を開発し制作できる彼女にとって一番求められる技術の結晶。


 見てしまった。

 こんなにすごい魔力操作を目の前で見てしまった。

 ルチアの胸はドキドキと高鳴る。


「あなたの結界魔法の特訓はこの子たちが手伝ってくれるわ。せいぜい、私たちの攻撃を守ってみなさいな」


「よ、よろしくお願いしますっ!」


 精霊も手伝ってくれるなんて、光栄だ。

 彼らにも向かって深く頭を下げた。


「わかりやすいように丁寧に詠唱するから、ちゃんと聞き分けて守り方を考えて使うのよ」

「はい!」



 ルチアと距離を取って準備を整えると、片手を上げて詠唱を始めた。


『私の愛しい精霊さん、あの貧相な子どもに闇のつぶてを一つ、ぶつけておやり』


『っつぶてから守って!』


 ゆったりと美しい発音で精霊語が紡がれ、紫のこぶし大の塊が降る。

 つぶての終着点と自分の間に結界を広げた。

 つぶては結界と衝突し砕けた。結界はうまく守れたようだった。


『守られちゃったじゃないの! それならもっと重い闇のつぶてを一つ、降らせてあげる』


 舞台に上がった女優のように、感情を露わにしながらも巧みに精霊の力を指揮する。


『堅く守って!』


 先ほどより硬度が増した結界が、つぶてからルチアを守った。


『まだまだよ! 小さな女の子に簡単に守られるなんて、失望しちゃうわ……もっと、もっともっと強い闇のつぶてを一つ、見せてあげなさい』


 それに応えるように、闇の精霊たちが強く光りだす。

 共鳴詠唱だ。人と精霊が1つになるかのように魔力の塊が増大する。


 ルチアの結界の特訓のはずが、アリサたちがノリノリになっている。

 火竜の火炎に相当する威力の攻撃が降る。


『っ強固な結界をお願いします!』



 鈍く重い音が庭に響く。

 振動で巻き上がった土ぼこりが視界を塞いだ。

 ルチアに痛い衝撃が来ていないということは、結界で守れたのだろうか。


 視界が晴れると、まず悔しそうに顔を歪めたアリサが立っているのが見えた。


『わたくし、性格が悪いのよ? 思い知らせるわ、闇のつぶての雨でね』


『えっ、あ、あの、すみません守って!』


 空に十数個ものつぶてが今にも攻撃しようとしている。

 もう先ほどの強大なつぶてで終わりかと油断していたルチアは、少しどもりながら詠唱する。


 数がある分、威力は弱いだろうと踏んで広範囲のドーム状結界が開かれる。



「……ホント、精霊に愛されてる子ってムカつくわあ……そんなに早くちゃんと使えるようになるなんて思ってなかったのに」


 アリサは小さく呟くと、追撃を警戒するルチアに聞こえる声で言う。


「一旦休憩! 休んだらまたやるからね」


「は、はい!」



 将来有望な“弟子”の姿を羨みながらも、アリサは楽しそうに頬を染める。



 私があの子をバケモノに育ててあげる。

詠唱は魔術師らしさが出るほど周りの精霊は沸き立ってノリノリになります

これが共鳴詠唱

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