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とある精霊の旅  作者: うさ公
第一章 雷鳴と金色の守護者
11/49

11話 お、お金の音ぉ〜っ!

「ぁあもうっ!」


 日が暮れてしまった街の細道を早足で歩きながら、少年はイライラが隠せなかった。


「叔母さんはいつもそうだ……!」


 少年の叔母は少々困った人だった。

 彼女から連絡をもらい、朝にこの街に着いて任された仕事を処理していたのだが……

 この街に居ると聞いていた叔母の姿はなく、すでに街を出立しどこかに行ったのだと人づてに報告され膝から崩れ落ちた。


「帰ったらアイスを食べておれを癒してあげなきゃ……」


 父やいろんな人から、叔母に会うならコレを伝えといてくれアレを伝えといてくれとたくさんの伝言を貰ったのに、全て無駄になった。

 ちなみに父やいろんな人たちは、伝言が伝わる確率は4割だと思っているので、そこまで責任が掛かっているわけではないのだが。


 伝わんなくても大丈夫とか、そういうのじゃない。

 彼は自分でも、会えないかもなとは思っていたし。

 だけど、少年心として居ると言っているなら居てほしいし、適当なことを言ってこちらを踊らせるのは辞めてほしいのである。


 今日の最後の仕事は終わった。

 あとは叔母が各地に取っているうちの、この街の家に帰るだけである。

 この街は土地の場所も場所であるから、夜も警備がしっかりしているし、人の往来があって明るい。

 10代前半の少年が1人歩いていてもギリギリ大丈夫ではある。

 早く大好きな数字を見て安心したい。


 明日のことについて考えながら曲がり角を通ろうとしたせいだろうか。

 前方不注意であった。


「っわ!」

「ふぎゅっ……!」


 背丈が同じくらいの少女?にぶつかってしまった。


「すみません! 大丈夫ですか!?」

「す、すすみましぇん……! 大丈夫ですっ」


 少年の早足の威力で少女を強く押した。

 隣の人に支えられて転けてはいないが、怪我がないか目を走らせる。


 少年と赤毛の少女は互いにペコペコと謝り合った。

 そこにずいっと隣にいた金髪の……少女の姉だろうか。姉が2人の間に入ってくる。


「あらあら、前はちゃんと見て歩きなさいよ。夜に焦って行くもんじゃないわよ?」

「はい……申し訳ありません」


 素直に謝罪する少年に、悪気はないと理解したのだろう。金髪の姉はそれ以上彼に圧をかけてこなかった。


「……急いでたのに、邪魔しちゃいましたか……?」

「ええ!? おれが勝手に焦ってただけです、気にしないでください。おれが10:0で悪いので!」


 キッパリとした少年の態度に、申し訳なさそうな顔をしていた少女は安堵していた。


 それにしても、とぶつかってしまった女性2人をよく見ると、チグハグな組み合わせだなと思った。

 姉のような金髪の女性は紫の華やかなドレスと艷やかな髪と肌だが、妹のような赤毛の少女は小汚いわけではないが服装や肌と髪の質感が毎日丁寧に手入れされたものではないように見える。


 美容に気を遣う姉の妹がこんなにド平民の娘のような格好をしているだろうか。接した感じ、わんぱくな少女というわけではなさそうなのに。


 髪色の違いは出生の違いを証拠付けるものではない。

 最近かの守護者が発明した髪染めはまるで地毛かのように綺麗に染めるという。知り合いがそれをどう売り出すか悩んでいたのを思い出す。


「あなた1人?」

「そうです」

「夜にほっつき歩くもんじゃないわよ。家はどこ? 近いの?」

「ちょうど帰るところで……家は遠くはないですけど……」


 姉のような女性は、赤毛の少女と少年をジロジロと見て、頷いた。


「途中まで送るわ。うちのちびっ子とそんなに変わんない少年を放っておくほど非情じゃないの」

「あ、ありがとうございます……」


 少年はヒクヒクと口角を震わせた。

 気づいてしまったのだ。姉が少年と少女の背丈を見ていたことに。

 彼は周りと比べて背が低いのを気にしていた。男児は成長期がこれからといっても気にするものは気にする。


 だが、好意を無碍にするのも好かない。

 適当なところで同行を切り上げたらいいのだ。

 おそらく……この2人は悪い人間ではなさそうだし。


 少し警戒心を出して、再び身なりを確認した。

 犯罪者が堂々と紫のドレスを身にまとうわけないか……



 ふと、少年は頭に引っかかった。

 紫のドレス。

 金髪ツインテール。


「アリサさん、結構優しい人ですよね……」

「私が人に優しくない時なんて無かったわ」


 アリサ?


「……アリサ・ルゥホート!?様!?」


 叔母が居ないことを聞いた時くらいの声が出た。

 ああ! 右耳に守護者の証もある!

 少年の背中に冷や汗がどっと流れた。


 *


 曲がり角のところでぶつかった少年がアリサのフルネームを叫んだ。


 ルチアと同年くらいのメガネを掛けた樺色の髪の利発そうな少年だ。


「そうよ。アリサ・ルゥホート。雷の守護者をしているわ」

「ルーク・フルールです。貴方と会えるなんて大変光栄です」

「こっちは私が勝手に引っ付けてるルチア」

「こ、こんばんは……」

「こんばんは。ご姉妹かと思いました」


 姉妹ですって、と嬉しそうにルチアの肩を叩いた。

 隙あらば姉になろうとしてくる……。苦く笑った。


「本当に……本当に貴方と会えて光栄です……」


 ルークと名乗った少年はしみじみと噛み締めるように、泣き始めた。


「泣くほど!? そんなに私のファンなのね……握手してあげましょうか?」

「良いのですか……!?」


 アリサの差し出した片手を恐る恐る両手で包み、深く頭を下げた。


「アリサ・ルゥホートの開発した魔法具は生活をちょっとラクにしてくれる、とても素敵なもので……知り合いのおじさんが貴方の商品を扱っていることを自慢してくるたび嫉妬でどうにかなってしまいそうで……! おれもトンでもない魔法具を売って経済がどうなっちゃうのか見たい〜〜っ!」


 お、おぉ……なんか想像してたのと違った。

 ルチアは少し後ずさりした。

 ファン? ファンなのだろうか……


「ルゥホート様から経済パワーを頂けてぼくもう少し頑張れそうです」


 アリサは一通りルークの話を聞くと、ぺしっと握られた手を払って言った。


「今のあなたの気持ちを正直に言ってみてくれない?」



 沈黙。



「お、お金の音ぉ〜っ!」


 さらに後ずさった。


「ルーク・フルール。あの方の甥っ子として名前は聞いたことがあったけれど、こんな子だったのね。ただの商売人じゃない。ガキのくせに」


 嫌悪感はみられない。呆れたような仕方ないとため息をつくような顔だ。


「お、お知り合いだったんですか?」

「この坊やの……叔母様とね、いつもお世話になってるのよ。あの方からもいくつか話は聞いていたけど、“可愛い甥っ子”としか情報がなかったわ」


 あの方?によると可愛い甥っ子(変な事を言うまで素直で可愛い子だった)ルークは、膝から崩れた体勢を整えると真面目くさった顔で言う。


「取り乱してしまい、申し訳ありません。いつも叔母がお世話になっております。もう夜も更けて参ります。レディだけでは大変な道になるでしょう。守護者邸でこの後お過ごしならぼくの帰り道と同じルートですし、途中までご一緒させてください」


「……話を切り上げてきたわね。まあさっき私も言った通りおチビちゃんがこんなところ1人で歩くのは危ないでしょうから、私たちとの同行を許すわ。精々守ってくださいまし、ルーク・フルール様?」


 煽っている。

 ルークに金づるのような言われ方をしたのに腹を据えかねているのだろう。

 彼が差し出したエスコートの手をアリサは払い除け、ルチアと手を繋いで先を進んだ。


 *


「おや、雨が降ってきましたね。それではぼくはここで失礼します。良い夜を……雷のご加護がありますように」

「おやすみ〜」

「、おやすみなさいっ」


 彼が“守護者邸”と呼んだ、アリサたちが過ごす家に着くと、アッサリ別れの挨拶をして向かいのこぢんまりとした家に入っていった。


 アリサに押され、雨に打たれないようこちらも屋内に入る。


 守護者邸は一般的な家が2個並んだくらいの大きな建物とそれを軽く覆えるくらいの庭があり、お金持ちの家のようだった。


「すごい、豪邸ですね!」

「お金があるって良いわよね」


 ほほほと笑って勝手知ったる我が家とばかりに慣れた足で2階に上がり、客室へルチアを通した。


「明日から結界魔法の特訓だから、しっかり寝て疲れを取りなさい」

「はい!」


豪邸にドキドキ


(今話、彼の叔母の名前を全力で隠していましたが、過去の話で普通に出してました情けない 探してみてね)

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