プロローグ:原初方程式
『数学研究部は問題なんて朝飯前』をお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は、数学の優雅さと人の心の静かな深さを織り交ぜて描いたものです。数学好きの方はもちろん、まだその魅力を知らない方にも響けば嬉しいです。
小説執筆はこれが初めてで、まだまだ未熟ですが、この作品をお届けできることを光栄に思います。もともとカジュアルな数学エッセイを書いていましたが、文章を書くことが好きで、物語にも挑戦してみました。
数式に魅了される方にも、人とのつながりを求める方にも楽しんでいただけるようなシリーズを目指しています。数学の美しさと共に、謎やパズルも随所に散りばめていますので、ぜひお楽しみください。
この前書きはもともと英語で書きましたが、本作の精神を育んだ文化に敬意を表して、日本語でも心を込めて記しました。
登場する学生たちの葛藤や夢が、皆さまご自身の人生の謎解きの手助けになれば幸いです。数学は私たちの心に隠れたパターンを明らかにするものでもあるからです。
ご感想やご意見をお気軽にお寄せいただければ嬉しいです。それを励みに、よりよい作品づくりに努めていきます。どうぞよろしくお願いいたします。
【金曜日 / 04:30 / 雨】
Entry#49 - エラーコード:心の破損
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こないな時間まで起きてるなんて、信じられへんなぁ。
雨音がぽつぽつ、ぽつんぽつんとメトロノームみたいに響いて、おつむの中は止まらへんのや。ぐるぐると回り続けとったんや。痛みもあって……
大会会場は静かなざわめきに包まれていた。生徒も教師も前のめりに座り、蛍光灯の冷たい光に顔を青ざめさせている。磨き上げられた木の香りと、緊張で滲んだ汗の匂いが混じり合い、壊れそうな空気が漂う。壁に伸びた影は長く引き伸ばされ、まるでステージへと手を伸ばしているかのようだった。そこでは、国際高校数学大会がまもなく幕を開けようとしているのだ。
ざわめきの中にささやきが漂う― 幽玄学園、現チャンピオン。その名は畏敬と期待の入り混じった声で語られ、伝統という重みが静かに、しかし確かに波となって広がっていた。
壇上に硬直したように立つ審査長が、眼鏡に光を反射させながら喉を鳴らす。張り詰めた静寂は、まるで張り詰めた弦のように細く伸びていく。彼の声は静かだが鋭く、ざわめきを冷たく切り裂いた。
「競技問題の事前入手を示す証拠が見つかったため、」ゆっくりと、言葉を一つ一つ噛み締めるように、
「幽玄学園は国際高校数学大会から失格とする。」
ざわめきが波紋のように広がる。小さな息遣い、息を呑む音。最前列の如月あかりは息を詰まらせ、周囲の音が遠いざわめきに変わっていった。胸が締め付けられ、赤い瞳が一瞬だけ仲間たちへと揺れ動く。読み取れない感情の波。
隣に立つ桜井弘樹の顔は怒りに歪み、拳は白くなるほど強く握り締められていた。あかりのもう一方の隣、雪村由希子は微かに震え、朝から弄っていたペンの赤いインクが指に滲んでいる。蒼白い肌に鮮やかな染みが浮かんでいた。
ざわめきは大きくなり、衝撃と憶測の波が観衆を洗い流す。あかりの唇が震え、言葉が口元に浮かぶが、沈黙がそれを押し留めた。桜井の視線の隙間を探すが、そこにあったのはただの静寂だった。
その時、由希子が一歩前に出た。
あかりの手が反射的に伸び、由希子の手をぎゅっと握り締める。全ての視線の重みを背負いながら、由希子は小さな体を縮こませるようにしつつも、声は澄み切っていて、混乱を鋭く切り裂いた。
「責任は私にあります。」
その告白は静かだが揺るぎなく、降伏のような響きを帯びていた。
部屋は重い沈黙に包まれ、信じられないという空気が埃のように舞い落ちる。あかりの鼓動は痛いほどに響いた。心の中で言葉にならない懇願が湧き上がる。必死に声を紡ごうとするが、漏れたのはかすかな囁きだけ
「由希子ちゃん、やめて…お願い…」
苦い胆汁のようにパニックが渦巻くが、握りしめる手はさらに強くなる。まるで、見えない崖の淵から由希子を引き戻そうとするかのように。
二人の視線が一瞬交わる。由希子の瞳は恐怖と決意が渦巻き、謝罪の微笑みが一瞬交錯した後、彼女は審査長へと向き直る。
「問題は事前に入手していました。私のせいです。」
傍らで星野先生が顔を青ざめ、まるで殴られたかのように震えた。
「由希子、だめ……」
声はか細く、命綱のようにノートを握りしめる。彼女の大きな瞳は由希子と壇上を行き来し、信じられないという深い皺が刻まれていた。
ゆっくりと前に進み、手を宙に浮かせたまま、静かにしかし確かな力で由希子を導く。星野先生の足取りは揺らぎ、困惑と苦悩に満ちた視線が問いかける
「何が、どうして……」
あかりには聞き取れないほどの声で囁き、嵐の中のか弱い盾となった。
桜井が鋭く振り返り、険しい目を光らせる。
「雪村、何を――」
審査長の視線が由希子を捉え、動きを封じる。
「雪村さん、これは重大な告発です。本当に確信がありますか?」
由希子は小さく頷き、わずかに顎を上げた。
「はい、間違いありません。」
あかりの世界は揺らいだ。桜井の沈黙、長く続く視線、由希子の名前が出るたびに鋭くなる声――その亀裂に気づいていた。
その瞬間はすり抜け、由希子は当局に連れられ、星野先生が最後にあかりへと絶望の視線を投げる。桜井は突然身を翻し、影に飲まれるように姿を消した。
大会会場は囁きと椅子の軋みで騒然となり、幽玄学園を覆う恥辱の嵐が吹き荒れた。
あかりは動けずに立ち尽くし、伸ばした手には由希子の温もりが幽かに残る。由希子の笑い声、共に過ごした時間が頭をよぎる。耳の中で静寂が轟き、重く抜けない虚無感が胸を締めつけた。
雪村由希子の学園での立場は深く傷つき、将来の学術的進路にも暗い影を落とした――。
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正直、何したらええのか分からへんかった……
たった一つの間違うた入力で、全ての関数がクラッシュした。現実はバグだらけや――信頼のグリッチ、判断ミス、絡み合うた腐敗したコードの山。
時々、全部クソみたいに思えて、どないデバッグしても壊れたものは直らへん。
あの瞬間をなんべんも再生して、どこで間違えたのか探してる。罪悪感はウイルスのように消えへんで残る。
もしあのエラーを追跡できて、見逃した例外を見つけられたら……
愚かで、無知やった。何してもうたんやろう。胸のバッファ溢れて、スタックをクリアする方法もわからへん…
もう、好かん。耐えられへんで…
えらい好きな星野先生や先輩たちが元気でいてくれたらええなって
ほんまに、かんにんえ……
全部、うちのせいやわぁ…記憶リセットしてくれへんかな。
痛みも、消えてほしおすなぁ。
はあぁ…… あくぃえyくいぴあdsんj8&^%%**@
— ★Spectral ◇ Alula ☆
>コメント(17)
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