2話
身体が光に包み込まれていくのを眺めていたら、気が付いたら街中に立っていた。
「サバイバルならまず火と水と家だよな」
今声に出して思ったが、そもそも言語は伝わるのか?そして、宿に泊まるにしたってお金が必要だよな…
「住み込みバイト、って感じか」
ただ、この世界に降り立った今、目標を明確にするためにも冒険者とやらを見てみたい。冒険者ギルドに行ってみよう。
「すみません、冒険者ギルドってどこにありますか?」
「この大通りをまっすぐに行ったらあるよ、依頼するのかい?」
いかにも優しそうなおばちゃんだ。日本語として伝わっているのか、勝手に翻訳されているのかは分からないが、とりあえず言語が通じてよかった。第一関門突破だな。
「あはは、こんな年ですけど、冒険者になってみたくて」
俺は少しはにかみながら言った。やっぱりこんな筋肉のない体型、年だとそう思われるよな。
「ここなら迷宮もあるからね、最初にはいいんじゃないかい?」
おばさんは何でもないことのように言った。
「そうですよね、ありがとうございました」
迷宮なんてあるのか。ここ以外には迷宮はないらしいけど、この街からスタートできたのは運が良かったな。
そうして言われた通りに馬車が4台は並走できそうな大通りを歩いていくと、木造のひと際大きい建物を目に入った。武装した人たちが入って行っているから確定かな。
3メートルほどの大きめな扉を開けて入ると、受付、依頼を貼っているであろうボード、情報交換や待合場所にも使われそうな酒場、と作品なんかではよく見かける内装であった。
太陽を見た感じもう正午を過ぎた頃であったためあまり冒険者はいなかったが、朝方や夜は人が多く入っているのだろうと感じさせられた。まず向かうべきは受付かな。
「冒険者になりたくて来ました」
「いらっしゃいませ、冒険者登録ですね」
「この年から冒険者になろうとする人って意外といるんですか?」
てっきり驚かれると思った俺はつい聞いてしまう。
「そうですね、この国には迷宮があるため、副業として冒険者になる人も少なくないんですよ」
ガッツリ専業でやろうと思ってますとはとてもじゃないが言いにくいな。ただとてつもなく敷居の高い職業ではなさそうで安心だ。
「な、なるほど。登録おねがいします」
「はい。では登録料、銀貨1枚になります」
ああ、金か。そうだよな、ポイントカードじゃあるまいし、登録には必要だよな。どうしよう。
「あ、登録料…、すみません、今手持ちが一つもなくて」
「なるほど、失礼ですがご年齢のほうはいくつでしょうか」
「ちょうど20です」
「20…、ギリギリ行ける?いやでも…」
年を聞いてから、受付の人は悩み始める。なんだろう、なんかお金がなくても若かったら救済される措置とかあるのかな。
「おう、そんな悩んでどうした。トラブルでもあったか?」
受付のうしろの事務所のようなところからどうみても現役冒険者のような体格のおじさんが現れる。俺シメられるのか、カスハラとかあるもんな。
「手持ちがないようで、ユース制度を活用しようかなと思っているのですが、年齢が20のようで…」
「なるほどな、おいあんちゃん。冒険者になるってのは、専業でやるつもりか?」
「そうですね、できれば冒険者として稼いでいきたいです」
「あー、聞き方が悪かったな。本気で冒険者になる気概はあるのか?」
そう言い放つと同時におじさんからの圧が襲い掛かってくる。
「は、はい。本気でやるつもり、いや、やります」
受付台の下で震え始めた足をどうにかしながら答える。
「そうか、今この受付が言ったユース制度ってのはな、簡単に言えば若い初心者をある程度まで鍛えて死亡率を下げようってもんなんだが、この制度は金銭に余裕がない場合はある程度稼げるようになるまで無償でやっているんだ」
「なるほど、それで俺の手持ちがないからってことですよね」
「ああ。ただな、この制度に年齢制限自体は設けてねえんだが、本気で冒険者を目指す初心者ってなるとどうしても若くなってな。登録できるようになる15歳から17歳くらいまでしかこの制度を使ってねえんだ」
「おれ、できます。その制度、受けさせてもらえませんか?」
「いいのか?年齢の差、そして才能の差、いろんなもんがきついと思うぞ」
「俺には冒険者しかないんです。やらせてください」
この時、どこかファンタジーな世界を楽しんでいた俺は消え、この世界で生きていく覚悟を決めた、はずだ。