アリス
私は多分誰からも誉めそやされる美少女です。
そして、コンプレックスの豊満な胸も他の人からすれば美点と思われてます。
頑張って勉強して学園の優秀クラスに入っても、
「先生を誘惑したのね」
と言われて皆から納得され非難されてしまいます。
話したことも無い、令息の婚約者から
「男爵令嬢のくせに誘惑だけは一人前ね」
と嫌がらせを受けることも度々あります。
友人が一人もいません。
それが私です。
プラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの大きな瞳、そして、鮮やかな色合いの瞳を覆う、髪と同色の長いプラチナブロンドのまつ毛、ピンクの形の良い唇、整った鼻。
小さい頃から多くの令息に言い寄られ、令嬢からは妬まれてます。
その為にいつも独りぼっちの私。
王立学院に入学して1年経っても、話し相手がいないそれが私です。
アリス・バーナンド 16歳。
両親と歳の離れた弟が一人います。
お父様は王宮で特許の部門で働いてます
とても真面目で、融通が利かないところがあると噂されてるようです。
お母様は朗らかで優しいです。
話し相手がいなくて一人でいれば乙に澄ましてると言われ陰口を叩かれてしまいます。
それが私の日常です。
何でも話せる友人が欲しいです!
諦めてますが、、、
そんな私が初めて恋をしたのは15歳で王立学院に入学して間もない頃でした。
伯爵令息に言い寄られ困っていた所を、ヴィンセント様に助けられました。
「無礼だぞ 平民あがりの男爵家のくせに パルモ伯爵家を愚弄するのか!」
「申し訳ありません 眼鏡を落として前がよく見えなかったから」
「気をつけろ!」
そう言ってヴィンセント様はロイ様に殴られてしまいました。
それでも殴り返すことなく蹲っていました。
ロイ様はそのまま来た道を帰って行かれました。
「大丈夫ですか? 助けてくださってありがとうございます ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「気にしないで 在学中は平等って言ってもなかなか、理想通りにはいかないから
それより、君は大丈夫? えっと、、、」
「ア アリス・バーナンドです」
「僕はヴィンセント・ナバウ」
それが、ヴィンセント様との初めての出会いでした。
透明なライトグレーの瞳、そして黒縁の眼鏡。
無造作で短髪の赤毛。
私よりも少しだけ大きくて、少しやせてる。
そして、とても優しいヴィンセント様。
伯爵令息の理不尽にも、内心は腹立たしいはずなのに、何事も無かったように振る舞う優しさ
それが、ヴィンセント様です。
ヴィンセント様は優秀クラスに席をおかれてるので、一所懸命頑張って、翌年私も優秀クラスに入ることが出来ました。
初めて会ったその時から、いつもヴィンセント様を目で追いかけてました。
もちろん、気づかれてはいません。
幸運なことに席が隣同士になりました。
クラスメイトになってから、ヴィンセント様の事を少しずつ知りました。
ヴィンセント様のお父様は小麦の新種や品種改良の功績で15年ほど前に男爵に叙爵されたこと。
普段は無口ですが、果物の話になると饒舌になって、とても詳しい事。
特にマ二についてはとても詳しいです。
マ二は、橙色で数年前からとても甘くて美味しくなった果物です。
以前は種が大きくて食べる所が少ない、少し勿体ない果物でしたけど、今は種もありません。
剣の腕前は普通、ううん少し苦手であること。
これは剣の授業を見ての私の感想です。
卒業までの2年間で、もう少しだけ近づけたらと、、、
私の評判では期待はできません。
それでも、挨拶を交わせるようになって、ひそかに胸を高鳴らせてます。
結局、隣の席なのに殆ど話すことは無く夏の長期休暇になってしまうと思ったのですが、、、
私はお昼休みは殆ど図書室にいます。
お友達のいない私が一人でいても違和感が無いのは図書室です。
ヴィンセント様も長期休暇前の試験の前には、図書館で勉強をしてました。
「アリスもここで勉強してるんだ 明日も来るの?」
「はい」
「じゃあ 明日からは一緒に来よう」
「宜しいのですか? ナバウ様」
「僕はアリスって呼んでるんだから、アリスもヴィンスって呼んでよ」
「ヴィンス様 そうお呼びしたら周りの方がナバウ様の事を悪くおっしゃるかも 私はいろいろと言われてるから」
「何言ってるの 友達だよね 周りを気にすることなんか何もないよ それに、アリスは、、、 」
「えっ ありがとう」
思わず涙が零れそうでした。
初めてお友達が出来ました。
その日は舞い上がって殆ど勉強に身が入りませんでした。
それから1週間はヴィンスに勉強を教わりながら嬉しくて、楽しくてあっと言う間でした。
ヴィンス様からはヴィンスと呼んで欲しいと言われたので、恥ずかしかったのですが、そう呼ぶことにしました。
ヴィンスは堅苦しい事が苦手のようです。
テストも無事に終えて長いお休みになったのは悲しかったです。
それでも、休み明けにまた、会えるのは嬉しいです。
私は休暇に入って直ぐに、勉強を教えてくれたヴィンスにお礼の手紙と、ヴィンスのイニシャルとマ二を刺繍をしたハンカチを贈りました。
贈り物をする相手がいる それだけで嬉しくてドキドキしましたが、贈った後は嫌がられたらと悩みました。
それから、間もなくヴィンスから返事があり、しまらない顔をしながら、ドキドキして開封しました。
手紙には、前から取り組んでる果物の新種作りに没頭すると書いてありました。
内容の殆どは果物のことだけでしたが、ヴィンスらしくて、少し笑いました。
それに、手紙の最後に新学期に会えるのを楽しみにしてる。
と書いてあって手紙の結びの定型句なのに、飛び跳ねる程に嬉しかったです。
侍女のエマに「何か楽しいことが書いてあるのですね よろしかったですね」とニコニコされてしまいました。
何も言ってないのに私の優秀な侍女は分かったのでしょうか。
エスパーかもしれない。
それから、また直ぐに手紙を書きましたが返事はありませんでした。
あまりにも頻繁なので煩わしいと思われてるのかもかもしれない。
そう思って1か月後にまた、書きましたが、やはり返事はありませんでした。
これが最後と思いまた、1か月後に書きましたが、返事はありませんでした。
しつこくして嫌われたのでしょうか。
優秀クラスに残るために勉強は疎かにできません。
それと、ひそかに果物の本を読みましたが、なかなか奥が深く、あまり理解できませんでした。
明日から新学期が始まるのに、学院で会う事を考えると暗くなりました。
それと同時に会えるのは嬉しくもありましたが、直ぐに自分の愚かしさに悲しくもなります。
ところが、新学期が始まって1週間たってもヴィンスは登校しませんでした。
病気や怪我になったのではないかと、心配になりましたが、誰にも聞くことは出来なくて悪い想像ばかりしました。
それから、5日程経ってヴィンスは登校しました。
「おはようございます」
「あっ おはよう アリス」
ヴィンスは少しよそよそしい態度でした。
それが一層嫌われてるのかと思って落ち込みました。
お昼休みになり、図書室へ向かう途中に、後ろからヴィンスに声をかけられました。
「アリス 手紙ありがとう」
「何度も送って申し訳ありませんでした」
「僕こそ、何度も何度も送って迷惑だったよね?」
「えっ! ヴィンスからは1度しかお返事なかった」
「えー そんな事無いよ 10通は送ったよ」
「本当に? 私お返事が無かったから、あの、嫌われてるのかと思って」
「アリスの事嫌いなわけ無い! でも、それじゃあ僕がマリベル王国へ行ってたのも知らないよね?」
「えっ 本当に?」
「急遽、父上と一緒に視察に行くことになって、アリスから最初の手紙を貰って直ぐにマリベル王国へ出発したんだ」
「マリべルからのはきっと、遅れてるのかもしれないね」
「良かった」
「え?」
「何でもありません」
私は嫌われて無いことと、ヴィンスも手紙を送ってくれたのを知って、嬉しさを隠しきれなかったと思います。
「あ、あのねアリス これ アリスに似合うと思って 僕はルイス教授のところへ行くから また後でね」
そう言ってきれいなリボンが掛けてある小箱を渡されました。
淡い水色に銀糸と白とピンクで百合の刺繍がしてある素敵なヘアリボンです。
嬉しくて嬉しくて締まらない顔をしてるのは分かってますが、どうする事も出来ません。
その日の午後、ヴィンスは教室には戻りませんでした。
がっかりしましたが、恥ずかしかったので安心もしました。
家に帰るとヴィンスからの手紙がまとめて届いてました。
内容は殆ど植物のことでした。
そして、手紙の最後は必ず、新学期を楽しみにしてると書いてありました。
その日は何度も何度も手紙を読み返して、翌朝は少し寝不足になりました。
「おはよう 昨日はあの後、ルイス教授の研究室で話をしてたら遅くなっちゃったんだ
あっ! リボン付けてくれてるんだ 嬉しい」
「あの、ありがとう とっても気に入ってます 本当に嬉しい」
「良かった 僕、家族以外でプレゼントしたの初めてだから、何が良いか分からなくて 本当はマ二の刺繍がしてあるのが良かったんだけど、そんなの全く無かったよ」
「ふふ うふふ うふふふふ」
「えー そんなに笑わないで ハンカチとお揃いになると思ったんだけど」
「えっ あっ 嬉しい ありがとう」
それからは、お昼休みに、ヴィンスはルイス教授の研究室、私は図書室へと向かう途中まで、一緒に行き帰りを共にして、少しずつ距離が近くなったと一人で舞い上がってました。
ルイス教授の研究室はアカデミアにあり、学院と敷地は同じですが、校舎が離れてるので、私と別れた後、ルイスはいつも走ってました。
そして、あっと言う間に私たちは最終学年の最後の学期になりました。
「あんな平民あがりの男爵令息とはお似合いよね」
そんな声も聞こえました。
私と一緒にいるとヴィンスまで冷笑の的になるのが許せませんでしたが、ヴィンスはまるで気にしてない素振りでした。
それでも、その頃になると段々と私へ向ける悪意が少なくなった気がしました。
多分、卒業後の進路で慌ただしくなってるからでしょう。
家を継ぐ者、騎士となる者、官吏となる者、領地へ帰る者、様々な将来へ向けて進んで行きます。
殆どの令嬢は卒業後すぐに結婚か、行儀見習い、稀に王宮へ出仕します。
私と言えば、何も決まってません。
それどころか、何をして良いのかも分かりません。
邸には釣書も多少届いてるようですが、お父様からは何も言われてません。
多分、納得出来ない方達ばかりなのでしょう。
ヴィンスをお慕いしてる私にとっては幸いですが、さすがに将来には不安ばかりです。
何しろ、ヴィンスと私はクラスメイト以上になってませんから。
「アリスは卒業後は決まってるの?」
「まだ、、 ヴィンスはもう決まってるの?」
「僕はアカデミアへ進学してルイス教授の元で研究するつもりだよ
あのね、アリスに話があるんだ
良かったら今度のお休みに植物園へ行かない?
あっダメだったら遠慮なく言ってね」
「是非! 是非行きたい!」
「良かった それじゃ迎えに行くね」
その後の私はもうドキドキして、ドレスやヘアスタイル等、頭がいっぱいになりました。
その日は、淡いラベンダーのドレスを選びました。
全体に銀糸とピンクで花の刺繍がしてあり、シフォンのパフスリーブ、ウエストからはたっぷりのフレアがあるミディ丈のドレスです。
髪はサイドは編み込みにしてもらい後ろは緩いウェーブでまとめました。
もちろん、髪にはヴィンスからプレゼントされたリボンを飾りました。
私が部屋に入ると、もうお父様とお母様がヴィンスと話をしてました。
ヴィンスはお父様とお母様に挨拶をして、夕方前には送り届けると約束しました。
お母様はニコニコしてましたが、お父様は殆ど話をしませんでした。
私は侍女のエマを連れてヴィンスと一緒に馬車に乗りました。
「今日のドレスとても似合ってる か、かわいいね」
「、、、 」
もう顔を上げることができませんでした。
エマは空気に徹してるようでした。
植物園を一緒に見て回りながら、その植物のことをいろいろ教えてもらいました。
ヴィンスはとても植物に詳しいのですが、特に果物に関しては話し出したら止まりません。
「あっ 僕ばかり話してごめんね 」
「そんな事ありません! 知らないことばかりだから、とても楽しいし、為になります」
「あー良かった」
あのね、アリス あっ喉乾いたよね 待って今ジュースを、、、」
「いいえ、あの、お話って何?」
私は気になって仕方なかった事を口にしました。
こんなに楽しいのに、後になればなるほど、どうしたら良いのか分からなくなるから。
良くない事なら早く終わって欲しいと。
「あ、あのね、アリス この間話した将来の事なんだけど、アカデミアでルイス教授の研究室で学ぶのは本当なんだけど、その前に1年程留学するんだ」
「えっ」
あーやっぱり 私なんて私なんてただのクラスメイトで、それ以上ではないんだ。
泣きそうになりましたが、さすがにここで泣くことは出来ずに、俯いてぐっとこらえました。
「いつ出発するの?」
「うん 卒業を待って行くつもり」
「そう お気を付けて」
「うーん、、、 あの、あの ア、アリス僕とけっ結婚してください!」
「えっ!」
「あっ もちろん直ぐにでは無いけれど、こっ婚約を結んでくれたら だっだめかな? ダメだよね
突然過ぎてびっくりしちゃうよね でも、考えてくれると嬉しい
離れてる間にアリスに忘れられたら困る!」
あまりに突然で驚きました。
まさかヴィンスが私との将来を考えてるなんて!
私の夢物語かと思ってたのに!
「おっお受けします」
「えっっえ えっ本当に? 僕で良いの? ありがとう 夢みたいだ」
即答してしまいましたが、お父様の許可も取らず心配もしましたが、それ以上に嬉しくて仕方なかったです
帰りの馬車の中で私たちは、ただ顔を見つめあって笑ったり、俯いたりしてました。
邸に帰るとお父様とお母様が待ってました。
お父様まで待ってらっしゃるなんて驚きました。
お母様は私を見てお出かけ前と同じようにニコニコしてました。
お父様は寂しそうな、悲しそうな、そして、少し嬉しそうでした。
後で分かったのですが、ナバウ男爵家から釣書が届けられていて、ヴィンスが求婚をすることは知っていたそうです。
私が受け入れたら、婚約を認めて欲しいと、あったそうです。
それで、お母様はニコニコしてらしたんだわ。
それから、私達は婚約をしました。
これも後で知ったのですが、ナバウ家はヴィンスのお父様が、ヴィンスが生まれる頃、叙爵されたのですが、小麦関連のロイヤリティでとても潤っているそうです。
それに、ヴィンス自身もマ二の品種改良と新種登録でロイヤリティを持っていて生活には困らないそうです。
今は新種の果物と肥料について研究してると話してくれました
お父様は、ナバウ男爵の人柄やナバウ男爵の特許、ヴィンス自身の特許についても最初から知ってたので、私にとって良い縁談だと思ってたそうですが、嫁ぐとなると寂しさを隠せなかったようです。
私達はその後婚約しました。
1年後にヴィンスが帰国して、2年後にアカデミアを卒業するのを待って結婚しました。