第95話 強敵と戦うことでしか味わえない実力不足
トーナメント戦において最も重要なことは、何回戦で誰と当たることになるのか。
少しでも上位を目指したい、とはいえ優勝できるほどの実力を持っていない。
そういう者は特に、対戦相手の当たり外れには慎重である。
俺の場合も、残念ながらそうだった。
本心から優勝できるなんて思ってない。
圧倒的な実力の差、ランクの差、経験の差。
差の種類を挙げるのであればまだいくらでも言えるだろうが、とにかく、西園寺と神宮司にだけは勝てる気がしない。
どうあがいても無理だ。
ダンジョンの未到達領域。
その難易度を遥かに超えてくるのが、この2人の冒険者の攻略である。
「トーナメント表が発表されたようだ」
俺たちはもう会場に着き、控え室で1時間後に始まる本戦に備えていた。精神統一のために一言もしゃべらず、瞑想し続けている冒険者だっている。
西園寺の静かな一言で、【ウルフパック】の冒険者が表に視線を送る。
一般のスーツを着て入ってきた冒戦の役員が、大きなボードを両手を広げて持ち、はっきりと印刷されたトーナメント表を提示している。
「俺は……」
目を細め、表の中にある自分の名前を探す。
黒瀬才斗だ。
――せめて1回戦くらいは勝たせてくれ。
「おっ、才斗の相手は空心君みたいだね」
「鬼龍院空心……【バトルホークス】のSランク冒険者か……」
「そうか。才斗と空心君に面識はなかったね」
「顔と名前くらいは知ってるが、他の情報はまったくだ」
「メディアに出ることもないし、当然と言えば当然だね。この前も言ったけど、僕は空心君とは長い付き合いだ。少しだけど、彼の戦い方の癖を教えてあげるよ」
「いいのか?」
「必勝法なんてないさ。僕はただ、知ってる情報を分けるだけ。どう生かすかは才斗次第ということだよ」
1回戦を勝ち上がることができれば、ベスト8。
結論から言うと、4回勝つことができればチャンピオンだ。
たったの4回。
簡単に聞こえるが、ここはSランク冒険者の集まり。日本トップクラスの冒険者たちが、本気でぶつかり合う場だ。
相手はSランク冒険者であることが普通。戦闘能力の基準が驚くほど高い戦場に、俺たちは置かれている。
チラッと。
鬼龍院を横目で確認してみた。
銀色の髪はオールバックにしていて、目つきがとんでもなく悪い。強面といった感じだ。少しでも肩をぶつければ怒って殴りかかってきそうな危険な雰囲気。
だが、剣騎と長い付き合い。
剣騎は確かにコミュニケーション能力が高く、あらゆるタイプの人間と上手くやっていくことができるが、少なくとも、それなりに長い間親しくするには、ある程度の人間性と尊敬し合える人間関係が必要だ。
つまり、鬼龍院は剣騎に認められているということ。
Sランクにまで実力を伸ばしていることからもわかるが、怖く見えるのは外見だけなのかもしれないな。
なんといっても、俺たちには西園寺龍河という最強のギャップ例がある。
「才君、どうかしたか?」
「なんでもないです」
しまった。
つい西園寺に視線を送ってしまった。
そんな西園寺の1回戦の対戦相手は、ガクガクブルブルの真一。
――少しだけ同情するぞ、真一。
***
鬼龍院との1回戦が始まった。
お互いに剣を構え、これまで磨いてきた剣技を披露していく。
鬼龍院の剣術の型はパワーに偏ったボルドー派だ。
そうだよなという感じの戦い方だが、ここで剣騎に教えてもらった、鬼龍院のある癖を思い起こす。
――踏み込む左足の向き……こういうことか!
力を重視するボルドー派は、しっかりと足を踏み込んで攻撃に移るのがポイントだ。
しかし、もしその足の踏み込みに癖があれば……攻撃を汲み取ることは容易なこと。
鬼龍院の場合、左足の向きがそのまま攻撃の向きなので、わかりやすい。
一度、そして二度。
攻撃を読み取って正確に剣で弾く。
「てめぇ、俺の攻撃を読みやがったな」
「……」
「剣騎か」
自分の攻撃が読み取られているというのに、余裕の表情を見せる鬼龍院。
最初から気付いていたのか、それとも……。
「剣騎の野郎、くだらねぇこと吹き込みやがって」
「癖は直さないんですか?」
「ふざけんな。癖は残すことで力を発揮できるんだろうが!」
鬼龍院が力強く怒鳴ると、その反動で俺の体にまでダメージが及ぶ。
もしかしてこれは――。
「雄叫びだ」
「――ッ」
「ああああぁぁぁあああ!」
慌てて耳を押さえる。
それは観客も同様だ。
東京全体が震えた。
その雄叫びが気付かぬうちに、俺たちの根幹にある恐怖心に紐付いていく。
「超能……」
「確かに万能な超能だけどよぉ、俺にも結構なダメージが来てんだ。だからなるべく使わせねぇでくれい!」
またもや強烈な一撃が俺に降り注ぐ。
左足の踏み込み。
今度は左斜め上から攻撃が来る。だとすれば――。
「――ッ!」
「予測はさせねぇ」
攻撃の軌道は予測通りだった。
予想外だったのは、足を踏み込んでから攻撃に入るまでのスピードだ。一瞬だった。というか、まったく同じタイミングな気がした。
Sランクのパワー系冒険者のアタックをもろに食らった俺。
回避などできず、気を失いながら飛ばされ、戦場の壁に激しく打ち付けられた。そう……俺は1回戦で負けたのだ……。




