第94話 ダンジョンでもえっちなことを考えるむっつりピーチ
決勝トーナメントまでの1週間、一ノ瀬と剣騎への対策を主に考え、実戦練習を積んだ。
練習の相手は本人じゃない。
ダンジョンのモンスターだ。
「対人戦の練習なのに、モンスターと戦ったりしててもいいんですか?」
「大丈夫だ」
楓香を連れてダンジョンに潜る。
10階層より下層の攻略も考えつつ、モンスターとの戦闘において余力を残しながら動くことを意識した。
楓香は冒戦本番を前に、モンスターと睨み合っている俺を心配しているらしい。その心配はもっともだと思う。
だが、これで問題ない。
「体に蓄積される経験値は、人間と戦う時よりモンスターと戦う時の方が多い。1週間もあれば、それなりにレベルアップできるはずだ」
「なるほど! やっぱり才斗くんは天才ですね!」
「基本ステータスが上がれば、攻撃力も防御力も必然的に上がるだろ。対人戦での動きはほんの少し調整すればどうにかなる」
こうやってダンジョンに潜り、ひたすらにモンスターを狩っていると、1人でガムシャラに冒険者をしていたあの頃を思い出す。
ただ強さを求めていた。
復讐を見据えていた。
今もそれは変わらない。
俺は本当に、恋人ができたことで弱くなったんだろうか。
守る者の存在が、俺に影響を及ぼしていることは確かだ。とはいえ、楓香は今の俺にとってなくてはならない存在だと思っている。
強さのために楓香を手放す……。
そんなこと、できるはずがない。
「動きの調整は誰とするんですか? 山口さんとか?」
「剣騎も剣騎で忙しい。それに、もしかしたらトーナメントで当たるかもしれない相手だ。お互い勝負は本戦でつけたい」
「男の戦いってヤツですね。かっこいいです」
「4年もすれば、楓香も決勝トーナメントの舞台に立っているかもしれない」
「んー、4年で最低でもAランクにはなりたいですよね。かなりのハイペースですけど」
一生かけてもAランクにたどり着けない冒険者がほとんどだ。
それは努力が足りないのか。
覚悟が足りないのか。
嫌味に聞こえるかもしれないが、日本最年少記録を打ち立てた俺にはわからない。
だが、楓香にはできる。
根拠はないが、きっとできると思った。
才能があるから俺の直属の部下に任命されたというのは、揺るぎない事実である。
「楓香だったらSランクにでもなってるんじゃないか」
「えへへ、そうですか~? まあ、わたし格上キラーなので」
「そうだったな」
忘れてはならないのが、楓香が二度も格上冒険者を倒したこと。
並みの冒険者にできることではない。
絶対的なランクという指標を覆してしまう存在なのだから。
「対人戦の調整は楓香としようと思ってるんだが、いいか?」
「もちろんです。夜の対人戦の話ですよね?」
やっぱりコイツはただのむっつりスケベだ。
「……」
「もう、才斗くんったら、えっち。毎晩してるじゃないですか~」
「はぁ。引き受けてくれるのか?」
「はい! 才斗くんのためにできることがあるなら、なんでもします!」
相変わらず、可愛い彼女だ。
***
万全の準備を整え、決勝トーナメントの日がやってきた。
予選を勝ち抜いた精鋭たちが、自らの栄光のために全力で戦う。
会場に行く1時間ほど前の、早朝。
【ウルフパック】の幹部たちは、西園寺リバーサイドのエントランスに集合していた。
わざわざ会議室に行くのは面倒だし、さほど重要な会議でもない、という理由からだ。
楓香は佐藤と家の前で合流し、観戦のため、俺たちの応援のために会場に向かうらしい。
やっぱり仲がいいような気がする。
「意外にも、みんな集まるんだね」
全員が時間通りに来たのを確認し、剣騎が面白そうに言った。
前回の会議でもそうだったが、雷電が時間通りに来るなんて珍しい。何か性格を改めるきっかけでもあったんだろうか。
「え、舞ちゃんのこと言ってる?」
「それしかないだろ」
「黒瀬には聞いてないんだけど~。やまぐっちが答えてよ~」
俺と雷電は、お互い嫌い同士だ。
どうも性格が合わない。
「くだらない言い合いをするな。この場の品が下がる」
「やっぱ一ノ瀬っち厳し~」
「そこまでにしておけ」
一ノ瀬が嫌味っぽいことを言うも、それを止める西園寺。
なんだかいい気味だ。
だが、前回の会議での事件は、西園寺の威厳のグレードを落とすのに十分なものだったらしい。
「西園寺、今日は泣き叫ばなくてもいいのか? 決勝に行く前に俺が貴様を倒してやる」
愚かな一ノ瀬が西園寺をからかう。
これまで一ノ瀬は西園寺を恐れていたわけではないものの、決して馬鹿にしたりすることはなかった。
少なくとも、あそこまでウザくはなかったな。
西園寺がここでブチ切れて一ノ瀬を潰してくれれば文句はないんだが。
「……」
「どうした? 図星で何も言い返せないか」
「一ノ瀬、それがこの場の品を下げていることに気付かないのか?」
西園寺は静かだった。
冷静な表情のまま一ノ瀬に視線を向け、一言。
一ノ瀬は何も言い返せなかった。俺たちはみんな気分が良くなったと思う。




