第85話 すぐ調子に乗っちゃう系女子のピチピチピーチちゃん
剣騎の強さは圧倒的だった。
その名に恥じぬよう、剣を巧みに操作して相手を負かす。
戦った相手は2人。
2人ともAランク冒険者と、それなりに強い冒険者が当てられたわけだが、そんなことは剣騎には関係ない。
純粋な剣術で確実に勝利をつかんだ。これでトーナメントの直接予選の参戦も決めている。
「余裕だったね」
涼しげな表情で観客席に帰ってくる絶対的強者。
この会場にはSランクが俺と剣騎の2人しかいない以上、余力を残した戦いになるのは仕方ない。
解説の西園寺は剣騎の戦いを芸術性のある剣術だったと評し、会場は大盛り上がり。
もちろん彼も彼で自分の予選があるため、途中で実況席を抜けたりしていたが、ほとんどあそこに座ってた気がする。
これでさらに西園寺龍河の人気が上がっただろう。
「才斗も余裕だったみたいだし、今日は準備運動ってところかな。問題は決勝トーナメント。明日のトーナメント予選も軽く突破できるだろうしね」
「油断してたら負けるぞ」
「油断はしないさ。僕たちはただ、自信があるだけ、違うかい?」
仮に油断していたとしても、剣騎が負ける想像はできない。
だが、俺は安心できない。
まだSランクの中でも新人だし、経験の差で負ける可能性だってある。楓香のような強者キラーも侮れない。
「決勝トーナメントにはAランクとSランクしか残れないような気はするね。まあ、数少ない日本のSランクの中でも、出場してない冒険者だっている。だとしても、基本的には【ウルフパック】の幹部は全員出てるし、【バトルホークス】のSランクも全員出てると聞いた」
「SSランク冒険者の神宮司は頭ひとつ抜けている、ということか?」
「そうだね。彼が1位になることはほぼ間違いない。当たり前すぎて忘れてたくらいだよ」
楓香は今、ちょうど今日最後の冒険者と戦うために控え室に下りている。
ここで勝つことができれば、晴れて予選の第1関門を突破。
決勝トーナメントに向けた直接予選に出場できる。
正直なところ、その出場権を手に入れたら上出来の中の上出来だ。それ以上はさすがにCランクでは通用しないだろうな。
「神宮司君に対抗できる存在がいるとすれば……西園寺さんくらいだと思う」
「社長か……」
「才斗はまだ、西園寺さんの本気を見たことがないだろう?」
どこかマウントを取るような剣騎の問いに、素直に頷く。
放たれているオーラだけで彼の異常さは伝わっていたが、実際にガチの戦闘をするところを見たことはない。
ダンジョン遠征でも温存して着実に進んでいくタイプの冒険者だ。
実はふにゃふにゃしているものの、根の性格は真面目で堅実なんだと思う。
そうでなければ、ここまで大きな企業の社長を務めることはできない。
俺が西園寺を尊敬する理由の1つに、社長としての実績がある。
【ウルフパック】を立ち上げたのは西園寺であり、この大きな企業に育て上げたのも西園寺だ。
一方で、日本2トップの一角、【バトルホークス】はというと、経営はその道のプロが担当し、冒険者は雇われて冒険者業だけをやっている、というスタンスだ。
そこが【ウルフパック】と【バトルホークス】の大きな違いだろう。
「社長の本気を見たことがあるのか?」
「僕が? まさか、あるわけない」
清々しいほど爽やかに笑う剣騎。
さっきのマウント取ってる風の聞き方はなんだったんだ……。
「ダンジョン攻略では安全性を重視している西園寺さんだし、やっぱり神宮司君を相手にする時が本気を見られるチャンスだと思うんだ」
「そうかもな」
今は自分の予選のために実況席にいない西園寺。
あの西園寺が本気を出したら……想像できない。早く決勝が見てみたいなと思った。
***
白桃にとって、今日の予選最後の試合がやってきた。
なんとか2回も勝利を収めた白桃。
しかもその相手は格上だ。
――今日帰ったら才斗くんとえっちできる……えっち……えっち……。
白桃の活躍に期待が集まるフィールドで、当の本人はエロいことしか考えていなかった。
これではただの変態である。
しかし、白桃に恥じらいはない。
彼女は黒瀬才斗に夢中なのだ。彼に見てもらってさえいれば、それでいい。
『さて、大躍進を続ける白桃楓香の前に、次の舞台を懸けた最後の刺客が現れました! 運が悪いかな、なんとAランク! 森田流星の登場だぁぁぁあああ!』
白桃の前に立つ圧倒的格上。
今まではBランクが相手だったため、基本スペックにさほど差はなかった。
しかし、今回はAランク。
Cランクの白桃が勝てるような相手ではない。とはいえ、ここまで白桃は格上相手に粘り強い勝利を見せている。
もしかしたらイケるのでは……。
そんな期待が観客の中で高まった。
「シューティングスターさん、わたし今日調子いいので、このままの勢いで勝っちゃいますね」
「……」
白桃の調子に乗った発言に、一切言葉を返さないのは対戦相手のシューティングスターだ。
30歳の冒険者で、オークキラーと呼ばれるほどにオーク狩りが得意。
冒険者名をオークキラーに変えろ、などと世間では言われていた。
「怖気づいちゃったんですね。わかります。今、ピチピチピーチちゃん絶好調ですもん」
剣を構え、これまでの試合結果を根拠に自信を見せる白桃だが、果たして――。




