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第8話 パジャマ姿の美少女に朝食を作ってあげるというシチュ

 俺の住む一軒家の屋根に腰掛けていたのは、同じ【ウルフパック】に所属する山口剣騎(けんき)だった。


 足をぶらぶらさせながら、1人楽しそうに笑っている。


 幹部の中でも1番距離が近い相手が剣騎だが、未だに彼のことは理解できない。

 理解しようとしても、理解させてくれない。そんな男だった。


才斗(さいと)も成長したなぁ。女の子を持ち帰るようになるなんて」


「こうさせたのはあんただろ」


「まあ、そう考えることもできるね」


 爽やかに笑って、俺の隣に降りてくる。


 それなりに高さはあるが、冒険者である俺たちにはどうってことない。


 剣騎は小柄だ。

 日本人男子の平均的な身長である俺よりも少し低い。


 だが、彼の場合それは大きなアドバンテージ。動きにキレがあり、低い位置から攻撃を繰り出す。体操選手なのかってほどにアクロバティックな動きもお手のもの。


 ――ランクはS。俺より強い。


「いつからいたんだ?」


「ずっといたって言いたいところだけど、来たのはついさっきだよ」


「気配を感じにくかった」


「Cランクの白桃(しらもも)君には気付かれないように、Aランクの才斗には気付かれるように。僕の粋な計らいさ」


 さらっと言ったが、簡単なことじゃない。


「それで、どうだい? 部下としての白桃君は」


「部下として評価するなら、まだまだ未熟だ。余計なおしゃべりが多い」


「別にいいと思うけどなぁ。才斗が話好きな性格(タイプ)じゃないだけさ。普通、あんな可愛い()が話しかけてきたら嬉しいと思うよ」


「俺は普通とは違う」


「だね。君は異端児だ。冒険者として謎に包まれた両親を失い、自身も冒険者として選ばれた。でも、普通でない背景は白桃君だって同じだよ。彼女も異端児だ。違うかい?」


 剣騎の瞳はあらゆることを見透かしている。


 別の角度から物事を考えることができる。


 彼の人を見抜く力は本物だ。

 10歳で【選別の泉】に不法侵入して冒険者になった俺に可能性を見出し、【ウルフパック】に入れるよう猛プッシュしてくれたのが剣騎だった。


楓香(ふうか)を組織に引き入れたのは剣騎か」


「ご名答。彼女は今、第2の黒瀬(くろせ)才斗としての素質を買われている」


「わからなくもない」


 俺は素直に頷いた。


 確かに彼女の強さは脅威だ。

 その脅威は俺にとってではなく、ダンジョンにとって。少なくとも、味方のうちはそうなる。


 だが――。


「あいつは第2の俺にはなれない。俺がそれを阻止する」


「その調子だよ。君は優しいね」


「……」


 この男……。


 俺が知るこの国の冒険者の中でも、トップクラスで厄介な奴だ。


「ところで、僕は様子を見るためだけに来たわけじゃないんだ。実は伝言を頼まれていてね」


「上からの?」


「その通り。西園寺(さいおんじ)さんからの伝言だよ」


 剣騎は軽く溜め息をつくと、俺の肩をぽんぽんと優しく叩いた。


 良くない知らせなのかもしれない。

 そう予感するも、すぐにその真意が見えてくる。


「明日の夜9時から、本社(ホーム)で幹部の会議があるそうだ。随分と久しぶりだね、幹部全員が揃うのは」


 それ以上の情報はない。

 剣騎はもう伝えることはないとでもいうように、闇夜に消えた。




 ***




「おはようございまーす! 才斗くんって朝早いんですね。意外です」


「1人で暮らしてると嫌でも自分で起きないといけないからな」


 翌朝。


 朝食の準備をしていると、くまさんパジャマを着た楓香が欠伸をしながら近付いてきた。着替えやパジャマはバッグに入れて持ち運んでいたらしく、俺の家で暮らす準備をしっかりしていたことがわかる。


 時刻は午前6時45分。

 学校があるのならもう少し早く起きるのが理想だ。


 昨日は濃密な1日だった。

 それに加え、大きな環境の変化が起こっている。同い年の美少女との同居生活。申し訳ないが、甘い雰囲気になったりすることはない。


「日本の朝ご飯じゃないですか! 憧れてたんですよ。わたしは遅起きだし、母は前日の残りを朝ご飯にする派なもので」


「その方が効率がいい」


「だからわざわざ朝から作るの凄いですね。やっぱり結婚します?」


「ご飯は昨日炊いたものだし、鮭も焼くだけだからそんなに大したことないぞ」


「前の時もそうですけど、結婚のくだりわざと無視してません?」


 意図的に無視しているというより、茶番だと思って自然と流している感じだろうか。


 朝食は朝ご飯、味噌汁、鮭の塩焼き。

 楓香の言った通り、オーソドックスな日本の朝食だな。


「俺は7時半に家を出る。楓香はもう少しゆっくりしてから来るといい。鍵は今渡しておく」


 癪ではあるが、【ウルフパック】の上層部が楓香との同居を課しているのであれば、従うしかない。


 ――今日の夜にある、幹部の会議までは(・・・)


「イヤです。すぐ準備するので一緒に登校したいです!」


「それは懸命じゃない」


「いいじゃないですか。クラスメイトにはわたしたちが特別な関係って思われてますし、開き直りましょう」


「昨日2年3組に入ったお前は軽く言えるかもしれないが、俺にとっては少なくとも半年は関わってきたクラスメイトなんだ。楓香のことは今日俺から説明する」


「どういう風に説明するんですか? 今カノ? 元カノ? それともセ――」


「かつて家族ぐるみで付き合いのあった幼馴染、という設定で通す」


 また良からぬ方向に走らないよう、抑制する。


 もしこの調子で学校でも接されたら、一般男子高校生としての黒瀬(くろせ)才斗は終わりだな。


「幼馴染設定、ですか。んー、ラブコメだと幼馴染キャラって、勝ちヒロインになる可能性低いですよね。安心してくださいね。わたしは規格外(イレギュラー)なヒロインになりますから!」


 何のことを言っているのかわからなかったが、これ以上話を広げないために頷いておいた。






《キャラクター紹介》

・名前:山口剣騎(けんき)

・年齢:22歳

・職業:ダンジョン冒険者

・身長:165cm


 【ウルフパック】の幹部ポジションにいるSランク冒険者で、ソードナイトという名で活動している。

 気さくな性格でコミュニケーション能力が高く、黒瀬は幹部の中で山口が1番関わりやすいと思っている。

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