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ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高校生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~  作者: エース皇命
九州での抗争編

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第66話 細かいことに気付いているという強者ムーブ

「お願い……助けて……ヴェルウェザーに殺されるかもしれないの……」


 佐藤(さとう)の表情には余裕がなかった。


 それを見た西園寺(さいおんじ)が冷静な声で問う。


「闇派閥と繋がりがある、そう言いたいのか?」


「そんな悪い組織だって知らなかった……ただあたしに戦う力をくれるって約束してくれたから、その話に乗っただけで……」


「約束、か。それと引き換えに奴らは君に何を要求した?」


「命令に従うこと。ざっくり言うと、そういうこと」


 西園寺は俺たちよりかなり年上であり、立場も格も違う存在だが、佐藤は物怖じしていない。


「殺されるかもしれないって、どういうことですか?」


 今度は楓香(ふうか)が聞く。

 目の前の佐藤の余裕のない表情に同情しているのか、いつもより柔らかい口調だ。


「この際だから正直に言うわ。あたし、白桃(しらもも)さんを殺すように言われたの」


「……え?」


「だから、白桃さんを殺すように命令されたの。だからあんたを殺さないとあたしが死ぬかもしれない」




 ***




 キャンピングカーが沈黙に支配される。


 しばらくの間、誰もしゃべらなかった。

 楓香は俺の腕をぎゅっとつかみ、エイリアンでも見るような目で佐藤を見ている。わからなくもない。


 もしかしたら今この瞬間も、自分の隙を狙っているのかもしれないのだから。


 だが少なくとも、佐藤がこの場で仕掛けてくることはないだろう。


 ここには西園寺と剣騎(けんき)がいる。

 この空間は、最も楓香暗殺に適さない場所だ。


 楓香に隙はあるが、西園寺や剣騎、そして俺がその隙をカバーしている。この状態の楓香には誰にも手を出せないはずだ。


「それはあり得る」


 意外にも、最初に口を開いたのは、普段口数の少ない姉さんだった。


 表情は変わらない。

 表情豊かなタイプじゃないので仕方ないが、いつも無表情なのは少し困るな。


「ヴェルウェザーは簡単に人を殺す。その人に利用価値がなくなれば、殺しても不思議ではない」


「……」


 俺にもなんとなくわかった。

 前回交戦した冒険者には起爆装置が付いていて、ヴェルウェザーの都合で死んでしまったわけだし、理にかなった話だ。


 なら問題は、佐藤の頭にチップが埋め込まれているのかどうか。


「ヴェルウェザーに何か体を改造されたりしてないか?」


「ちょっと、あんたいきなり何言い出すわけ? あんな奴と寝るわけないでしょ!」


「そんなこと聞いてないんだが」


「じゃあなによ」


 佐藤は思ったよりむっつりらしい。


 ここには楓香がいるので特に珍しくはないものの、この状況で体の改造と聞いてエロいことを連想するのはなかなかではなかろうか。


「実際に体にチップを埋め込まれたり、どこか細工されたりはしてないのかと聞いたんだ」


「そ、そうね……体を触られたことはないから、それはないはずよ。あたしはただ……その……(かくま)ってほしいの。ヴェルウェザーに見つからないように」


「チップは埋め込まれてない、そう思っていいんだな?」


 コクリ。

 佐藤が可愛らしく頷いた。


 ここで思い出したが、佐藤は可愛い女子高生。

 異常に可愛い楓香と異常に美人な姉さんがすぐ近くにいるせいで忘れそうになるが、一応佐藤もまた、美少女なのだ。


「さて、社長はどんな判断を下すのかな?」


 珍しく話に入ってこない剣騎が、ニヤニヤしながら西園寺を見た。


 直接的に関係のある話ではないと思っているんだろうが、この空気でよくニヤニヤできるな。

 剣騎がそういう人間だということはずっと前からわかっているものの、呆れずにはいられない。


 西園寺に注目が集まった。


 この中で1番偉いのは西園寺だ。

 最終決定権を持っている。


 西園寺が佐藤を見捨てると言えば、残念だが俺たちはその言葉に従うしかない。


「佐藤といったな。もし君が我々【ウルフパック】に協力してくれるのであれば、匿っても構わない」


「協力……?」


「闇派閥の調査への協力だ。組織の拠点をあぶり出し、根本から叩き潰すための」


 その言葉を聞き、佐藤が深く頷く。


「あたしにできることなら、なんでもするから」


 お互いの危機をお互いで救う。


 一見すると、これはお互いの利益が一致した契約。


「感動的なシーンだね」


 爽やかな笑みを浮かべながら、運転席から立ち上がる剣騎。


 そのまま躊躇うことなく佐藤の座っているソファに近付いていく。


才斗(さいと)、トロイの木馬って知ってるかい?」


「ああ」


 突然の問いに戸惑いながらも、反射的に頷いた。


 トロイの木馬はギリシャ神話に出てくる有名な話だ。


 敵の軍に侵入するため、贈り物として木馬を相手軍に運ぶ。ただの贈り物だと思って敵軍の警戒が緩んでいる時、木馬の中に隠れていた戦士たちが一気に敵軍に襲いかかる。


 いつの間にか紛れ込んでいる毒。


 剣騎はスマートな動きで佐藤の首元まで手を持っていき、ほんの少しだけ襟をめくった。


「ちょっと! あんた変態なの!?」


 必死で抵抗しようとする佐藤だが、冒険者として格上の剣騎に敵うはずがない。


「これがもしトロイの木馬だとしたら、どうする?」


 剣騎が手を引き抜いた。

 その手に握られていたのは、小指の爪サイズの小型盗聴器。最先端のテクノロジーだ。


「佐藤君、説明してもらえるかな?」

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