第63話 メインヒロインとイチャイチャしまくるというアレ
伝説の記者会見は動画配信サイトで生中継されていたこともあり、全世界の視聴者が西園寺の静かな怒りを目にすることになった。
テレビでも取り上げられ、世間は大注目。
今回の会見で1番注目されたのはメインの俺ではなく、途中で名前が流出した楓香でもなく、我らが社長の西園寺だ。
《最強の社長がブチ切れた瞬間》
《一瞬で場を凍り付かせる社員想いの社長》
《無礼な質問を投げかける記者に制裁を下す男》
などなど、ネット記事及び、切り抜き動画で一躍時の人だ。
【ウルフパック】の社員で、Sランク冒険者の1人でもある雷電舞姫が西園寺について言及したことも話題になった。
『社長マジウケるんだけど~。あの記者マジ勇者だったよね~』
どんなことを言ったのか気になって、雷電の配信を初めて見てみる。
彼女には申し訳ないが、本当に語彙力がないなと思った。
雷電の場合、人気が出ているのはその可愛い見た目と頭が悪そうなしゃべり方で、実はSランク冒険者だというギャップがあるからだろう。
それ以外は特に面白くない配信だった。
もちろん、こんなことを本人に言ったら殺されるな。
まあ、その時は素直に殺されず全力で戦うつもりだが。
「才斗くんもそういう動画観るんですね。意外です」
ソファに腰掛けて動画を眺める俺に、すぐ後ろから声がかかった。
記者会見の翌日の木曜日。
学校ではまた椎名さんに逆ナンされたりといろいろあったものの、なんとか乗りきって夜を迎える。
一応訓練所には顔を出した。
一ノ瀬とは戦いたくなかったので、地下10階で楓香と剣の訓練をしただけだ。
そして今は家に帰り、風呂にも入ってリラックスしている。
テレビはないので情報源は基本スマホからだ。
「ただ気になったから観てみただけだ。雷電は俺のことを嫌ってるからな。俺も雷電のことはそんなに好きじゃない」
「へぇ、舞姫さん可愛いじゃないですか」
「可愛いと好きは関係ないだろ」
「舞姫さんが可愛いのは認めるんですね。嫉妬しちゃいます」
「普通に楓香の方が可愛いと思うぞ」
「ふぇ?……急にデレられても困りますぅ……才斗くんったら、ツンデレですね」
事実を言っただけだ。
楓香はナチュラルな美少女。
むしろ化粧をしない方が可愛く見えるまである。
「せっかくデレてくれたので、この調子でえっちしましょう」
「……」
「理性と欲望の間で葛藤してるんですね! もっとセクシーなパジャマにすれば良かったかなぁ」
「いや……そういえば、付き合ってから恋人っぽいことをあまりしてないと思ってな」
「ですよね。だから今すぐえっちしましょう」
楓香の目は完全に理性を失っていた。
肌から蒸気が出るんじゃないかというほどに熱くなっている。
「キス、するか?」
「……ひゃい」
自然に唇を近付ける。
俺はソファに座っていて、その後ろに前屈みになった楓香がいるという状況だ。
首を後ろに傾け、両手で楓香の肩を引き寄せる。
楓香の鼻息が荒くなっているのに気が付いた。
これは興奮している証拠だ。
桃の香りを纏う楓香の唇に、優しくキスする。時間はたったの3秒。それ以上すると歯止めが利かなくなりそうだったから。
「凄く、いいです」
「そうか。ちゃんとしたキスは初めてだったか?」
コクコクと頷く楓香。
淫らな発言ばかりする割には、反応が純粋で可愛らしい。
これはファーストキスじゃない。
俺のファーストキスは、ダンジョンにて、もう1人の楓香とのディープキスだ。
あの時は困惑がほとんどだったし、自分が恋愛するなんて考えてもいなかったから、特にキスを味わうことはなかった。
だが、今回のキスは特別だ。
脳が溶けるような、甘いキスだった。
「もう1回しましょう、キス」
再び唇が重なる。
濃厚な時間が過ぎていく。
その後も、繰り返しキスをした。お互いの温もりを感じ合いながら。
***
「今日は素晴らしい天気だね。明日も東京は同じくらい晴れるだろうから、体育祭も盛り上がるだろうなぁ」
平日が終わり、ついに本格的な休暇が始まった。
夏休みが終わってから休暇が始まるという謎スタイルだが、夏休みの最中も冒険者としてダンジョンに潜っていたので、これはちゃんとした休暇になる。
朝になって家を出ると、大きなキャンピングカーに乗った剣騎が運転席の窓から顔を出した。
サングラスをかけていて、いつも以上にクールな感じだ。
すっかり休暇に適応している。
「さあ乗って。中にはトイレもキッチンもソファもある。ホテルみたいなものさ。というわけで、僕もかなりテンションが上がってるんだ」
「それは凄いな」
まず、車体が大きい。
思っていたのと全然違った。
バスくらいの長さに、大人が立って余裕で歩き回れるだけの高さ。
「最高ですね、才斗くん。これで中でもイチャイチャし放題ですよ」
「姉さんもいるんだが」
ドアを開ける。
どんな光景が待っているんだろうという期待。
だが、充実した内装への驚きよりも先に、車内のソファに座っている人物の存在に唖然とした。
「社長……どうしてここに……?」
ソファに座って小さな欠伸をしていたのは、世界でも大注目の社長、西園寺龍河。
西園寺は闇派閥の件で忙しいんじゃないのか……?
すぐにフォーマルな表情を纏って口を開く西園寺。
「せっかくの才君と旅行できるチャンス。天音ちゃんもいる。私が同行しないわけにはいかない。違うか?」
「……」
俺は渋い顔で剣騎を見る。
すると剣騎は大袈裟に肩をすくめ、静かに頷いた。




