第62話 社長の怒りが場を凍り付かせるという恐怖
カメラのフラッシュが俺と西園寺、剣騎に襲いかかる。
俺、西園寺、そして剣騎の3人に対し、報道陣は500人以上。
ダンジョン・ドームの近くにある会見会場に、溢れ返るほどの記者や報道関係者が集まった。
【ウルフパック】の会見史上、最大人数を収容する今回の『ブラックの正体は黒瀬才斗だよ』会見。
「大人気だね。羨ましいよ」
皮肉たっぷりに剣騎が言ってくる。
普通にウザいな。
俺たちの服装はもちろんスーツ。
冒険者にとっての正装でもあるのでまったく違和感はない。
白いテーブルクロスが引かれた長机に、カメラから見て左から順に西園寺、俺、剣騎という風に並んでいる。
俺からすれば右の西園寺は、例のふにゃふにゃな姿ではなく、凛々しく頼りになる最強の社長を演出していた。
そう、演出だ。
本来の彼は今にも泣き出したいのかもしれないが、感情を通さない威圧的なオーラを纏うことで、不動の構えを保っている。
「黒瀬、準備はいいか?」
「はい、社長」
昨日と一昨日はなかなかに最悪だった。
地獄とも言われるほど過酷な環境の訓練所で、殺気に満ちた一ノ瀬と戦っていたんだから。
一ノ瀬は容赦がなかった。
一応同じSランクではあるが、俺よりずっと前からSランクだった一ノ瀬は、遥かに実力が上である。
そんな一ノ瀬との本気の戦いは拷問だ。
ダンジョンから距離を取らせるために一ノ瀬の全力を許可しているらしい。だが、この地獄を味わうと、ダンジョンのモンスターが優しく思えてしまう。
「それでは、【ウルフパック】所属、先日Sランクに昇格した冒険者である、ブラックこと黒瀬才斗に関しての記者会見を行います」
司会者の男性が場を取り仕切る。
彼はフリーアナウンサーだ。
この会見のために雇われた。面識はない。
台本通り、着実に進めていく司会者。
まずは西園寺が正式に俺のSランク昇格を公言し、剣騎がそれを補足する。
最初、俺がやるべきことはじっと座って話す機会を待つことだ。大まかな説明は2人が無難に進めてくれる。
そして。
待ちに待った、質疑応答の時間がやってきた。
一斉に報道陣の手が挙がる。
最初は派手なピンクの服を着た女性が当てられた。目力が強く、印象に残る顔立ちをしている。整っているわけじゃない。
「黒瀬さん自身は、どうしてこのタイミングで自分が冒険者という事実を世間に公表しようと思われたんですか? 社長の意向ではなく、ご自身の考えをお聞かせ願えればと思います」
いきなり来たか。
俺へのダイレクトな質問。要するに、社長がどうこう言うより、本人の話が聞きたいってことだ。
「私がもうすぐ18歳になるということが大きいと思います。そこに関しては社長の言葉の通り、Sランクにもなり、1人の大人として、一人前の冒険者になっていくという覚悟の現れでもあります」
無難に言い切る。
正直、これは予測していた質問だし、西園寺の言っていたこととさほど変わらない。
質疑応答はまだまだ続く。
「黒瀬さんには彼女がいるという報道がありましたが、そこのところは実際どうなんですか?」
無遠慮な質問だ。
今回の質問を出したのは最前列の中年男。
偏見かもしれないが、ひねくれた顔をしている。声も少し苦手だ。
ちらっと剣騎が俺の方を見る。さあ、どう答える?と俺を試しているような気がした。
「その報道は事実です」
「その彼女もまた、【ウルフパック】の冒険者なんですか?」
「はい」
「名前は?」
「プライバシーの侵害になるので、これ以上は言えません」
「実は我々の方で名前も把握してるんですよ」
じゃあなんでそんな言い方をするんだ? ウザいからやめてくれ。
文句をグッとこらえ、冷静に言葉を紡ぐ。
「それはプライバシーの侵害です。他の質問はありませんか?」
「白桃楓香さんですよね?」
「答えられません」
「ってことは、合ってるってことですか?」
「……」
このウザい記者に、俺はどう対応すればいいのか。
まだ返答を見つけられず、沈黙を作る。
だが、俺がこれ以上この記者の対応をする必要はなかった。
「そこの記者を摘み出せ」
太く、冷たい声が会場にいる全員の耳に響いた。
――西園寺だ。
静かに燃える黄金の瞳。
明らかに怒っているのがわかった。
会場が揺れる。
西園寺の怒りが失礼な質問をした記者に向けられていた。
膨れ上がる魔力。さすがに攻撃することはないだろうが、今にも爆発せんとばかりに質力が上がっている。
ボディガードとして控えていた【ウルフパック】のAランク冒険者が、失礼な男を片手で抱えて外に出ていく。
抵抗はしていたが、そんなの冒険者に通用しない。
一瞬で会場に緊張感が走った。
西園寺の威圧感満載のオーラを体験し、震え上がっている記者がほとんどだ。同じ冒険者でさえもビビるくらいだからな。
殺伐とした態度で、西園寺が言葉を続ける。
「私は自分の社員を守るためにここにいる。次ふざけたことを吐くようなら、オレが直接摘み出してやる。覚悟しておけ」
あっという間に凍り付いてしまった空気に笑いをこらえる剣騎。彼はこんな時でも愉快な男だ。
こうして、記者会見はいろんな意味で終わりを告げた。




