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ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高校生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~  作者: エース皇命
恋人と常にラブコメ編

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第58話 ついにお見えになる日本最強の存在に乾杯

 少年と黒瀬(くろせ)の戦いは、10分以上続く長期戦へと発展していた。


 徐々に変わっていくダンジョンの地形。

 最初はある程度開けた空間であったが、戦いの中で前進していく黒瀬に合わせて少しずつ階層の奥へと近付いていく。


 その戦況を見極めながら追う白桃(しらもも)


才斗(さいと)くん!」


 現在、戦況は黒瀬に傾いていた。

 新しく習得した超能(スキル)、その名もシャドウライド――自分の影だけでなく、ありとあらゆるものの影の中に忍び込むことができる。


 制限時間は3秒。

 インターバルは3分。


 決してチートではない。

 それは本人も自覚していることではあるが、使い方次第ではかなりのアドバンテージになる。


 黒瀬は僅か2回のシャドウライドで少年に不意打ちを与え、相手の100パーセントの動きを封じるという作戦に成功した。


 しかし、少年は――。


一ノ瀬(いちのせ)さんと戦った時より面白いっすけど、強くはないっすね」


「この状況でそれを言うか?」


「なんか勘違いしてません? ぼくちゃんまだ本気出してないっすよ」


 これは心を揺さぶる心理攻撃なのか。

 それを見極める余裕がないまま、黒瀬は戦闘を続けていく。


 白桃はその戦いを眺めることしかできない。唇を噛み締め、今の自分の実力に失望する。


 ――わたしがもっと強ければ……。


 そう自分を責めるが、どうすることもできない。失望しようが後悔しようが、この戦況を変えることはできない。


「ぼくちゃんと対等に戦いたいなら、一ノ瀬さんを超えるだけの実力を持っていてくれないと」


「まだSランクになったばかりなんでな」


「そうっすね。じゃあ、あと何ヶ月で一ノ瀬さん()れそうすか?」


「そのうちな」


 軽い調子で問いかける少年に、同じく軽い調子で答える黒瀬。

 その口調だけではお互いに余力を残していそうだ。


 しかし、黒瀬は常に全力だった。

 単純な速度では少年を超えることができない。だからこそ、超能(スキル)を上手く活用してアドバンテージを得るつもりだったが……インターバルの間にせっかくの有利な状況を覆されそうになる。


 ――それなりに傷を負わせたはずなんだがな……。


 少年のスタミナに関する理不尽。

 最初は適応に時間がかかったのか、黒瀬が優勢だった。それが今では逆だ。


 全ての攻撃に対応されている。


 剣術の(フォーム)は同じルーテン派。

 純粋な美しさで言えば黒瀬が上、ただ実践的な反応速度では圧倒的に少年が上。


 ――撤退だな。


 数週間前にヴァイオレットと対峙した時と同様、冷静に判断ができるうちに撤退を決める。

 屈辱的だが、今回の相手はかつてのヴァイオレットよりも遥かに実力が高い。


 視線で白桃に撤退の意志を伝える。


 白桃はすぐにその視線の意図を理解した。

 もう2人は恋人だ。視線だけで相手が何を言いたいか感じ取ることができる。


 斜めに入った少年の攻撃を、体を後ろに反ることによってギリギリでかわす。


「行くぞ!」


 普段叫ぶことがない黒瀬。

 この時だけは腹の奥から声を張り上げた。


「ぼくちゃんも前回一ノ瀬さんに逃げられてるんで、同じ失敗はしませんよー」


 少年がとっさに跳び上がる。

 進路妨害のための牽制だ。


 黒瀬は絶好の遊び相手。おもちゃを取り上げられるわけにはいかない。そういう意味では、少年も必死だ。


 逃げ道を塞がれた黒瀬と白桃。


「よほど俺が好きなんだな」


「同じ流派ですしねー。しかも剣術だけで言ったらぼくちゃんより上だと思うっすよ」


「誉め言葉として受け取っておこう」


 時間稼ぎができると考え、言葉を返す黒瀬。

 白桃も上手く話を繋ぐセリフを考える。


「戦い方はどこで学んだんですか?」


「時間稼ぎのつもりっすか? まあそんなのバレバレっすけど、答えてもいいっすよ」


「……」


 ――上手(うわて)だ。


 言葉に乗せられることなく、相手の目的を見抜いた上でその提案に乗る。それはつまり、少年には余裕と勝てる自信があるということ。

 それだけ強敵だということだ。


 ――どうすればこの状況を覆せる……?


 一方で、黒瀬の頭はまだ回転を続けていた。

 せっかく与えられた時間の猶予。ここで切り抜ける方法を思い付かなければ、2人とも殺されてしまうか、生け捕りにされて拘束されてしまうだろう。


 ――いや……むしろここは生け捕りにされることに()けて、ヴェルウェザーのところに案内してもらった方がいいのか……?


 思考が巡る。


 その時だった。


「――ッ」


 ――何かが……来る!


 最初に察したのは少年だった。余裕の表情から一瞬にして切羽詰まった緊迫の表情へと変わる。


 汗が頬を滴り落ちる。


 それから0,1秒のタイムラグで、黒瀬が強者の雰囲気を感じ取った。その強者が自分たちにとっての味方なのか敵なのか。

 その正体ははっきりしない。


 状況がさらにハードになったのか、はたまた有利になったのか。


「なんすかなんすか!?」


「お前の知り合いじゃないみたいだな」


「黒瀬さんの知り合いでもなさそうっすけどね」


「さあな」


 オーラの感じ方からして、黒瀬は自分が知る最強の冒険者である西園寺(さいおんじ)よりも強者であるのではと予測した。

 西園寺のオーラが威圧感を束ねて円状に引き伸ばすものだとすれば、今こちらに向かっている強者のそれは、膨大すぎるオーラを抑えようとしているも僅かに漏れ出ている異常者のものだ。


「まさか……」


 言葉を失う。

 その場にいた冒険者3名全員が、息を呑んだ。


「日本唯一のSSランク冒険者……神宮司(しんぐうじ)皇命(こうめい)……」

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