第55話 授業中に欲情し始めるという最強の変態
体育の授業はなかなかハードだ。
今週の日曜に体育祭があることも関係している。
「今日は競技の練習するんで、好きな相手とペア組んでストレッチしてくださーい」
体育祭を週末に控えての、新しい試み。
好きな相手とのストレッチ。
ちなみに、今のセリフを放ったのは先生ではなく体育委員の男子だ。
体育祭は先生よりも生徒の自主性が重要視される。自分たちでやることを考え、自分たちで練習するわけだ。
体育に振り分けられる授業の数も決まっているため、そう簡単に変更したりはできないが、どうしてもとお願いすれば、今後の授業との差し替えで体育が増えることがある。
残念なことに、今年の体育委員は少々やる気がありすぎた。悪いことじゃない。ただ、面倒だ。
俺は当然楓香とペアを組む。
周囲の生徒から冷やかしや嫉妬の視線を食らったが、モンスターや闇派閥の冒険者から一撃を食らうよりはマシだと思った。
「あんっ。えっち」
「言いたいだけだろ」
「才斗くんがあんなとこやこんなとこを触るからですよ~。もっと積極的に来てくれてもいいんですよ」
「授業中だぞ」
「授業中じゃなかったらいいんですね? じゃあ今夜どうですか?」
ふと考えてみる。
俺たちは正式なカップルだ。
キスくらいはしてもいいのかもしれない。
「今、わたしとの熱いえっちを想像しました?」
「少しな」
「……」
俺の返しが予想外だったのか、一気に顔を赤く染める楓香。
体育の授業で発情するのはやめてほしい。
「体が火照ってきました。あとで体育倉庫で性行為しましょう」
「ダイレクトに言いすぎだ」
ドン引きしたのは言うまでもない。
いちいち反応するのも面倒になってきたので、小さく溜め息をついて楓香の背中を押す。
開脚姿勢の楓香。
体操服の短パンから覗く健康的な美脚。
――って、考えるな考えるな。
「そういえば、体育祭はどうします? ほら、少し前に話した時は実力を隠してほどほどにやる、みたいなこと言ってたじゃないですかー」
「冒険者であることが知られている今、本気を出してもいいってことか」
「そういうことです。ちなみにわたしは本気で走りますし、本気で跳びますよ」
「障害物競走にでも出るのか?」
「その通りです。跳び箱を体操部の生徒より上手く跳んじゃいます」
「体操部の子が可哀そうだ」
楓香は体が柔らかい。
開脚した状態で前に倒れると、胸もお腹もペタッと地面に着く。
冒険者には必ずしも柔軟性がいるというわけじゃないが、あるに越したことはない。
体育祭の件でもわかることだが、もし冒険者の資格を持っている者がスポーツの試合に出た場合、それは違法だ。
だからスポーツは一般人の祭典。
その代わり、冒険者には日頃のダンジョン探索と、最強冒険者決定戦がある。
最強冒険者決定戦は、その名の通り、最強の冒険者を決めるためのトーナメント制の大会だ。略して冒戦。
地域予選を勝ち抜いた冒険者たちが、東京の本戦でぶつかり合うことになる。
ちなみに冒戦は4年に1回。
始まったのが2002年なので、今年、2030年は記念すべき冒戦イヤーになる。
だが残念ながら、二大企業の【バトルホークス】と【ウルフパック】はある大事件の処理のせいで、ここ2大会に出場することができていない。
――今年も大変だからな……。
俺は少し前から巻き込まれている、闇派閥とのピリピリした戦いを思い出していた。
***
もう週刊誌に撮られているので、街中を楓香と歩いても問題ない。
放課後デートはダンジョンだ。
ダンジョンでは絶対にイチャイチャしないことをお互いに約束しているため、いかにもカップルっぽい会話はない。
楓香もそこはわきまえているようだ。
無論、ここ数日、何度かダンジョンで死にかけているからだろう。
「この前18階層まで落ちちゃたので、ちゃんと13階層から真面目に攻略してると少し気が抜けてきますね」
「わかってるとは思うが、あの時楓香が助かったのはジェシカに殺す気がなかったからだ。殺害を許可されていれば即死だった」
「ですね。結局、戦いの途中で殺す気になったみたいですけど」
「俺たちが来た後で良かった」
「あ、才斗くんのお姉さんにお礼を言うの忘れてました」
「一度殺されかけてるし、そこまでしなくていいだろ」
「それとこれとは別です! それと、お姉さんって呼ばせてもらえるかも聞かないと」
天音姉さんの義理の妹になる、ということか。
それは俺と結婚したらの話だ。
――結婚……?
俺に結婚する日が来るんだろうか。母さんや父さんのように、自分の子供を持つ日が来るんだろうか。
13階層はモンスターの出現が多い。
モンスターの強さ自体は12階層とさほど変わらないが、数に圧倒されるのが特徴だ。
こういう時はパーティを組んだ方がいいなと思ってしまう。
一応、パーティ仲間を集める話も忘れているわけじゃない。楓香と富秋以外のメンバーが必要だ。
「才斗くん、あれ、もしかして――」
「ああ」
目を細め、遠くに目を凝らす楓香。
俺のスーツの袖を引っ張り、嫌な予感を知らせてきた。
楓香と俺の視線の先には。
「佐藤だ。間違いない」
ここ最近学校を休んでいる佐藤が、こちらに向かってきていた。




