第51話 ついに正式な交際が始まるというイチャラブ
どうやら俺はSランクになったらしい。
厳密に言うと、まだなったわけじゃないが。
「浮かない顔だな」
クールな表情の西園寺が言う。
意外だったようだ。
「少し理解が追いついてなくて」
「それは私も同じだ。あんなに小さかった才君がもうSランク。私などすぐに抜かされるだろう」
「俺はまだまだです」
「謙遜するな。17歳でSランクは……君にとっては好ましいことではないかもしれないが、相当話題になる。記録更新だ」
「……そうですね」
「もうすぐ成人するわけだから、法律で保護されなくなることになる。黒瀬才斗が冒険者ブラックであると世間にバレる日はそう遠くない」
西園寺がこっちを振り向き、そのまま社長席に腰掛ける。
「さて、もう少し真剣な話をしよう」
この部屋の空気だけ、世界のどこよりも引き締まった。
偉大すぎる西園寺のオーラに、空気が委縮している。
「君が倒した女冒険者の身元がわかった。ジェシカ・バーンズ。アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれたハーフ。だが、24年前に行方不明になっている」
「……」
「誘拐だ。君の姉である天音ちゃんと同様に。ヴェルウェザーと名乗る男は子供を誘拐し、傭兵として鍛え上げていた」
「ヴェルウェザーの情報はありますか? ジェシカは口を割りました?」
「残念ながら、バーンズはもういない」
「え?」
「君が殺したわけではないんだ。あの後、治癒魔術でなんとか回復したが、その瞬間——頭が吹き飛んだ」
「……ヴェルウェザーに仕込まれていた、ということですか?」
「その可能性が高い」
断言はしなかったものの、ほぼ確信しているという感じだった。
納得はできる。
自分を裏切らないための脅しとして、頭に爆発するチップを埋め込む。マッドサイエンティストがやりそうなことランキングトップ3には入ることだな。
だが、ということは――。
「姉さんは!? 姉さんにもそのチップが――」
「安心してほしい。天音ちゃんの脳も調べたが、危険な物質や怪しい物質は何も見つからなかった」
「……」
西園寺の言葉は信用できる。
だが、わからなかった。
どうしてヴェルウェザーは、姉さんにチップを埋め込まなかったのか。ジェシカに埋め込んでいたのは気まぐれだったのか。
相手は科学者だ。
あらゆるシチュエーションを想定しているはず。
俺も実際、あいつにまんまと転がされていたわけだし、利用する人間の弱みは自分が握っておきたいと思うものだろう。
「ヴェルウェザーは姉さんが俺サイドについた時、驚くことも焦ることもなく、ただ面白がっている様子でした。少なくとも、声だけだと」
「天音ちゃんの戦力をさほど重要視していなかったか、それともまだ天音ちゃんはまだヴェルウェザー側の人間なのか」
「姉さんを疑うんですか?」
「悪く思わないでほしい。当然のことだ。私は幼い頃の天音ちゃんを知っているし、彼女がこれまでヴェルウェザーに洗脳されていたということも理解している」
「……はい」
これはどうしようもないこと。
仕事は感情だけでどうにかなるものではない。理性的に考えて、確かに姉さんは怪しい。
完全に味方になったという証拠はない。
ただ、俺たちが姉さんを信じるだけだ。
「天音ちゃんは私が保護する。拘束したりするわけではない。多少警戒して監視をするという目的もあるが、彼女を闇派閥から守るという目的もある」
「わかりました。今は会えないんですか?」
「すまない。明日にしてくれ」
西園寺の顔は本当に申し訳なさそうだった。
俺が怒るのを警戒しているみたいに感じてしまった。
「俺は怒りませんよ」
「ふわぁ、良かった~」
「ん?」
「こっちの話だ」
「あ、はい」
今のは気のせいだろう。
俺の中の西園寺龍河像とかけ離れすぎている。
「明日には天音ちゃんとの面会を設けるから、また放課後に来てくれ。あとは【選別の泉】のことなんだが、金曜日にSランク昇格のための入水を行う。心構えをしておいてほしい」
このセリフを最後に、今日の西園寺との会話は終わりを告げた。
***
「結局わかることだから、今のうちに言っておきたいことがある」
「え、夜のお誘いですか?」
翌朝。
楓香との通学。
ここ1週間で多くの経験をしたが、こうして楓香と通学を共にすると、それなりにちゃんとした学校生活を送れているような気がする。
美少女と歩くことはかなり目立つが。
「実は俺、Sランクになった」
「ほんとですか!? やったぁ! これで正式にカップルとしてえっちできますね!」
それは付き合ってないのにこれまでえっちしてきたという意味を含むセリフだ。誤解を招くからやめてほしい。
楓香は最初こそネタのような感じでさらっと話していたものの、その後はほんの少し赤くなり、昨日の告白の時のような熱っぽい表情をし始めた。
「わたしと……付き合って……くれますか?」
「……」
「……才斗くん?」
「俺は今まで恋愛をしたことがない。だから――」
「そんなのわたしも一緒ですって。言ったじゃないですか。わたし、才斗くんのために処女を守り抜いてきたんです。お互い恋愛ビギナー同士、頑張りましょうよ」
「……だな」
「てことは?」
「いいんじゃないか。その……付き合っても」
「やったぁ! ついに才斗くんとあーんなことやこーんなことができるんですね!」
「ビギナー同士ならもっと初歩的なところから始めるべきだろ……」
楓香が俺の手をぎゅっと握ってきた。
恋人繋ぎとは違う、普通の握り方だ。
これが心地よかった。大切なものをつかんでいるんだな、と。そう感じる自分がいた。




