第49話 駆け付けたら全てが終わっているというアレ
真一と姉さんがジェシカと死闘を繰り広げている。
だが、今の俺には、そんなことなんてどうでもよかった。
ヴェルウェザーの言葉のせいで、2人の奮闘も単なる雑音でしかない。
「……お前が、俺の両親を殺した……そういうことか?」
『その通りだ。厳密に言えば、ボクたち――キミの両親は当然ボク1人の手に負えるような相手ではない。だからそこにいるジェシカにも手伝ってもらったんだ』
「……姉さんもなのか?」
『嘘はつけない。キミの姉は残念ながら不参加だ。あの時はまだ戦士として使うには実力不足だった』
ヴェルウェザーの本体がどこにいるのかわからない以上、俺の殺意はこの階層にいるジェシカ1人に注がれる。
――あいつを殺したい。
今まで敵討ちを目標にしていた。
29階層に行って【漆黒のデュラハン】を殺す。それが両親を殺されたことの復讐であると、そう思っていた。
それなのに、俺が本来殺意を向けるべき相手は【漆黒のデュラハン】なんかじゃなかった。
結局は人間だった。
人間の最大の敵は人間だと、この時改めて感じた。
――両親の仇が、目の前にいる。
実力は俺の方が下だ。
ジェシカの実力はSランク冒険者にも届くだろう。
それに加え、俺はかなりの深手を負っている。腹を貫かれ、本来の力を発揮することができない。
剣を握ることも難しいような状態だ。
「本当なのか?」
今度はジェシカに問う。
2人と戦いながらでも、ジェシカには質問に答える余裕があった。
「本当だと言ったら、どうする?」
その瞳は挑戦的だ。
殺意を向けられることを喜んでいるのかもしれない。
「お前を殺す」
「面白いね。ウチはあんたを殺せない。でもあんたはウチを殺せる。実力は明らかにウチが上。今のあんたは満身創痍」
「そうだな」
ジェシカの集中が俺にそれたことがきっかけで、真一の攻撃が当たるようになる。剣を斜めに回転させながら放った一撃は、ダイレクトにジェシカの腕を斬った。
だが、斬り落とすまでには至っていないし、斬られたジェシカもさほど痛そうではない。
感情がマヒしているだけなのか、本当になんともないのか。
今度はそれをきっかけに姉さんが飛ばされた。
邪魔だと判断されたんだろう。
ジェシカが剣で空気を斬っただけで、Aランク冒険者並みの実力を誇る姉さんでも戦闘不能に陥る。そんな相手を、俺は殺そうとしている。
「だが俺は今、過去最高に調子がいい」
「……?」
殺意、復讐心。
この2つの醜い感情は、人の体調やコンディションに大きな錯覚を起こす。
肉体は悲鳴を上げているはずなのに、みなぎるアドレナリンのおかげで俺の体はいつも以上に軽かった。
目の前の女を殺せば、復讐の1つが成立する。
あとは主犯であるヴェルウェザーを始末すればいいだけの話だ。
体から魔力が溢れ出る。
冒険者は本来、魔力を体内に秘めているものだ。派手に炎を放ったり、氷の刃を飛ばしたりできる冒険者はごく稀だ。
魔力はその冒険者が持つ剣を巡り、そのまま体内へと戻っていく。
その循環の速度が高ければ高いほど、体の反応速度は上がっていく。
可視化できるほどのオーラが、俺の体を包み込んだ。真っ赤な、怒りのオーラ。俺の瞳の色によく似ている、瞋恚の炎。
「これは……」
「才斗くん……」
ジェシカでさえも言葉を失う。
すぐ後ろで見ている楓香が弱々しく呟くのが聞こえた。
「真一、姉さん、危ないから離れていてほしい」
「「……」」
「俺がこいつを片付ける」
***
「才くぅーん!」
涙目でダンジョンに潜る西園寺。
当然、ダンジョン・ドームで政府の役員と顔を合わせる時には威厳を保っていた。
「ええい邪魔だゴブリン! オレは才君のところに行くんだよぅ」
1階層。
2階層。
3階層。
彼ほどの実力者になれば、ダンジョン上層から中層にかけては散歩のようなものだ。
ちなみに、もう1人の青木は西園寺のそばにいない。
青木の能力は分身ではなく、復活。
社長室で西園寺と話していた青木は、本体として場所を制限された青木だった。その本体が生きている限り、彼は死んでも再生し続ける。
今のところ、全国トップクラスの実力を誇る西園寺が本体を守っているため、青木の命は安泰だ。
――18階層か……中島君にはダンジョン・ドームで待機してもらってるし、まずは才君を連れ出さないと……。
***
「……え?」
西園寺がダンジョンに潜って5分。
恐ろしいほどの速さで18階層に着いていた。
しかし……そこには、血まみれで倒れたハーフの女冒険者と、黒瀬天音、青木、白桃。
そして呆然と立ち尽くす黒瀬才斗がいた。
――もう終わってる。
不思議なことに、才斗の体に傷は見当たらない。
血も流れていないし、斬られた痕もないようだ。
敵の女冒険者は息をしていた。
血まみれで、気を失っていて今にも死にそうな感じがしたが、息はしていた。
4人の視線が西園寺に集まる。
西園寺はすぐにいつもの社長モードに切り替えた。
「……何があった?」
「社長……才斗が……」
青木が緊張しながらも口を開く。才斗のことに関しては責任も感じているのだろう。
「才斗が……この冒険者を倒しました……」




