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ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高校生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~  作者: エース皇命
休日と大阪出張編

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第45話 自分よりずっと強い敵を倒せという鬼畜

 人生初の瞬間移動は成功した。

 四肢が粉砕することもなく、姉さんとはぐれることもなかった。


『目的地に到着しました』


 アナウンサーのような丁寧なアナウンスが聞こえる。


「もう東京に着いたってことだよな?」


「そのはず」


 まだ装置の中だから外はわからない。


 実際、俺の感覚ではさっきの大阪と少しも変わってないわけだしな。見てみるまでは完全に信用できないということだ。


 扉が開き、外の世界が視界に入る。

 そこは見慣れた東京の景色——ではなく、ダンジョンの中だった。


「ダンジョン?」


「装置は東京のダンジョンの18階層に繋がっている。だからここは18階層のはず。私についてきて」


 姉さんが少しずつ話してくれるようになってきた。


 今では連続して3文以上のセリフもすんなりと言えている。


 大阪に空間転移装置があったのはダンジョン8階層の隠しスペース。

 きっと政府も把握していない場所だ。

 剣騎(けんき)の襲撃に行ったという別の幹部冒険者も、8階層から出てきたとのこと。


 つまり、大阪のダンジョンの8階層と、東京のダンジョンの18階層は繋がっているということだ。


 俺は冒険者として何年もやってきた。

 いつも潜っているダンジョンの構造くらい覚えている。ここは東京のダンジョンで間違いない。そう確信した。


「剣の音……」


 ここは多分階層の隅の方だろう。


 誰にも見つからないように視界が遮断され、特殊な加工がされているに違いない。


 だが、そんな階層に剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。


楓香(ふうか)なのか?」


「行こう。白桃(しらもも)楓香を襲っている幹部は、私が知る限りCランクの手に負える相手ではない」


「姉さんは戦ったことがあるのか?」


「何度も。勝ったことはない」


「なるほど。よくわかった」


 むしろ、剣と剣がぶつかり合う音を聞いて安心した。

 まだ彼女は戦いを諦めていない。剣を握れているということは、そこまで大きな負傷をしていないのかもしれない。


 希望はある。

 俺たちが1秒でも早く駆け付ければ――。




 ***




才斗(さいと)くん!」


 俺の名を呼ぶ楓香。


 随分と時がたったように感じるが、実は数時間ぶりの再会。


 それなのに、お互いに大きな出来事を経験している。


佐藤(さとう)さんが――」


 何か大事なことを言おうとしたが、力負けして飛ばされる。

 楓香はそのまま壁に激突。


 少し前にヴァイオレットにやられた時とまったく構図は同じだ。だが、敵の強さは以前よりも上がっていることを考えれば、よくぞここまで耐え抜いたという感じだろう。


 楓香は自分のトラウマを乗り越え、キングオーガを始末している。


 それだけの強さがあるということだ。

 まだCランクになって日が浅いようだが、Bランクに昇格する日もそう遠くないはず。


「あとは俺たちで片付ける」


「わたし……」


 楓香はそのまま気絶した。

 また前回と同じだ。


 楓香と対峙していたのは、ハーフっぽい顔立ちをした背の高い女性冒険者。青緑色の長髪だ。


 ハーフといっても、日本とアメリカとか、カナダとかオーストラリアとかそのあたりだと思う。


「ヴァイオレット、これはどういうつもり?」


「私はもうヴァイオレットではない。私は才斗の姉、黒瀬(くろせ)天音(あまね)


「ヴェルウェザー様を裏切る、そう言いたいの?」


「そう。ヴェルウェザー様は私たちを利用してるだけ。ジェシカも気付いた方がいい」


 どうやら女性冒険者の名はジェシカというらしい。


 日本語は普通に違和感がないので、日本育ちなんだろう。


「利用されてることに気付いてなかったのが間抜けでしょ。ウチは最初から気付いてた。だからウチは、ヴェルウェザー様を利用してる」


「どういうこと?」


「ウチは冒険者を殺すのが好きでね。ヴェルウェザー様は冒険者を殺すことで報酬をくれる。ヴェルウェザー様がいれば、ウチのやってることが仕事になる」


 理屈は通っているが、考え方がサイコパスだ。


「楓香を殺すつもりだったのか?」


 時間稼ぎも兼ねて、聞いてみる。

 今は戦術を練る時間が欲しい。


「あんな虫けら、殺す価値なんてない。どうせ殺すならもっと強くなってからだ。それに、今回は生け捕りを命じられてる」


「生け捕りか。ヴェルウェザーは何がしたいんだ?」


「それを話す義理はないね。それより、あんたもだよ、黒瀬才斗。あんたも殺すなと言われてるんだ。面白くない」


「残念だったな」


「そう、凄い残念だ。でも、もう1つ指示されてることがある。ヴァイオレットは全力で殺しにかかれ、だとさ」


 その言葉が口から出た瞬間、ジェシカが姉さんに襲いかかった。


 一瞬で詰められる間合い。

 この戦い方を見て、剣騎の完璧な間合い管理を思い出す。


 この女はそれに匹敵するほどの速度と、間合いの把握能力を備えていた。


「姉さん!」


 声を上げる。


 だが、姉さんは俺の予想よりずっと優秀だった。


 ジェシカという女の戦い方を知っているからか、しっかりと漆黒の剣で対応している。

 最初の一撃はスピード重視だったためか軽いものだったが、態勢を整えてからのジェシカの剣はパワー系だった。


「パワー系……ボルドー派か」


「どうした? お前の姉はもうすぐ死ぬぞ」


 ジェシカは余裕だ。


 何度も姉さんと戦い、勝利しているところからくる自信だろう。確かに、根拠ある自信だ。


「確かにお前は姉さんより強いのかもしれないが、そこに俺が加われば、確実にお前は負ける」


 断言できる。

 俺はこんな奴には絶対に負けない。

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