第38話 仲間を誰よりも残酷だと思う今日この頃
俺は大阪の街を1人で歩いていた。
特に目的地があるわけでもない。ただ、ふらふらと歩いているだけだ。
――本当にこれで上手くいくのか?
呆れた表情で歩道を歩きながら、ついさっき剣騎から聞かされたある仮説について考える。
***
「敵の次の狙いは君だ、才斗」
「俺?」
剣騎は全国チェーンのカフェに俺を連れてきたかと思うと、真剣な表情でそう言ってきた。
「敵の正体はまだはっきりしない。大阪に拠点を置いている高ランク冒険者なのかもしれないし、別のところからわざわざ大阪まで来た殺し屋なのかもしれない」
「普段は頼りなさそうとはいえ、真一はSランク冒険者だ。確かに上級冒険者じゃないと仕留められないだろうな」
「ああ、その通り。それじゃあ、別の観点から考えてみる。どうして真一君なのか、だ」
「Sランク冒険者の中では1番弱そうだから、とかじゃないのか?」
俺は別に真一の実力を低く評価しているわけじゃない。
ただ、たまに会う時には西園寺や一ノ瀬に対して怯えた表情しか見えていないので、さほど強い印象がない、ということは大きいのかもしれない。
それに加え、実際に真一の戦闘を見たことがある冒険者としても、驚くほどの力はないように感じていた。
とはいえやはり実力者なのには変わらないし、西園寺や剣騎といったとんでもない冒険者を近くで見てきたからこそ、実力の高さに驚くハードルが高くなっていることも1つあるだろう。
「そうだね。もし敵が【ウルフパック】の壊滅を狙う闇派閥だったとしよう。彼らに僕たちとやり合えるだけの戦力が整ったのなら、ターゲットを絞って1人ひとり潰していこうと考えるのが普通だ」
「【ウルフパック】の幹部ポジションにいる人間を討てば、組織に混乱が起きる。それを狙って幹部にターゲットを絞った、というわけか」
抹茶ラテをストローで吸いながら、こくこくと頷く剣騎。
「その際、狙いやすいのは幹部の中でも唯一のAランクである才斗か、どこか隙がありそうな真一君だよね」
「……それでこの前、俺と楓香をダンジョンで襲った、ということか」
「もし今回の件と君の奇襲事件が繋がっているのなら、っていう大きな仮定の中での話ではあるけどね」
「そう考えた方が納得できる」
ここで敵の正体を勝手に決め付け、対策することは簡単だ。
だが、確かに闇派閥が黒幕である可能性が高いものの、大企業【ウルフパック】は様々な方角からの恨みを買いやすい。
他の可能性も十分に残されていることがネックだった。
「まあ、今回は正体がはっきりしない以上、可能性の大きい仮説に従って動くのが最善だと思うね」
「そうだとしたら、どうして次のターゲットが俺になるんだ? すでに狙われていて、その狙いを真一に変えた、ということだろ?」
「その真一君はもう始末した……と相手は思ってる。だったら次は才斗へのリベンジ、違うかい?」
「……」
悔しいが、そうかもしれない。
他にも幹部はいるが、全員俺よりランクが上。現状は彼らの方が俺よりずっと仕留めにくい。そう考えると、真一が不遇だな。
「仮説はわかった。俺はどうすればいい?」
「簡単だよ。才斗が僕から離れて人目につかないような路地を歩き回ればいい」
「罠だってバレバレな気がするが」
「いいんだよそれくらいで。人間瞬間移動はできないんだから、大阪に滞在している、敵にとって危険度の高い僕が遠くでふらふらしてたら、少しは油断するだろう?」
「素直に殺されるつもりはないが、もし俺の力が及ばなかったらどうする?」
「その時は悔しいけど、君は自分の実力不足を嘆き、そのまま消えることになる。だから僕が駆けつけるまでは踏ん張ってね」
抹茶ラテを飲み終わり、ニヤッと笑う。
きっと本気だと思った。
山口剣騎は時に、残酷だ。




