第34話 ワンチャンを期待するという身の破滅
大輔はすっかり富秋と打ち解け、今では師匠と呼んでいる。
午後6時。
俺の奢りで夕食のコース料理を食べ終わった大輔は、満足した様子で冒険者ワールドを出ていった。
土曜日は確かに男友達を2人呼んだわけだが、明日まで冒険者ワールドにいるのは俺と楓香だけ。
「それじゃあ、僕もこれで。明日も楽しんでね」
トミーも冒険者ワールドからの退場手続きを済ませる。
俺はそんなトミーを呼び止めた。
「実は俺も最近いろいろ状況が変わって、冒険者パーティを組むことになった」
「才斗君が冒険者パーティ? まあでも、Aランクにもなればそうなるよね」
「才斗くん? そんな話聞いてませんけど? わたしと2人きりじゃなかったらイチャイチャできないじゃないですか!」
楓香の乱入は無視して、話を続ける。
「パーティメンバーの条件として、中堅以上の冒険者ときた。俺は……よく知らない冒険者と契約を結ぶのは正直得意じゃない。だからトミーにお願いしたいと思っているんだが……」
「もちろんだよ! それで才斗君の役に立てるのなら、僕は喜んでパーティを組ませてもらうよ!」
「いいのか?」
意外だったかもしれない。
トミーは自ら好んでフリーランスの冒険者をやっている。
長期的な契約を結ばない、自由なスタンスでの仕事にこだわりがあると思っていたので、この提案はかなりダメ元だった。
それなのに、まさかこうも簡単に承諾してくれるとは。
「ちょっと待ってください! わたしが納得するかも大切ですよね。わたしはもう必然的に才斗くんのパーティメンバーなわけですし――」
「楓香も文句はないそうだ。詳細はまた今度話そう」
「あはは、楓香さんはあんまり納得してないみたいだけどね……」
トミーが苦笑い。
だが、俺としては絶対にパーティに欲しい存在だ。
楓香の勝手な意見でこの話をなかったことにはしない。
「とりあえず、月曜にまた連絡する。とりあえずダンジョンに潜ってみるか」
「そうだね。この3人でのパーティは初めてだし、いろいろと確かめてみないと」
楓香はぷんぷんしているが、やっぱり無視だ。
あとでゆっくり説得すればいい。
わがままに見えても、常識はあるし、礼儀正しいところは評価している。それに、彼女にとってトミーは恩人でもある。
今日彼の優しい人柄はわかっただろうし、受け入れるのも時間の問題だろうな。
「この契約は【ウルフパック】とのものじゃなく、俺との直接契約だから安心してほしい。これまでみたいに一時的な契約を他の冒険者と結ぶのも大丈夫だ」
「それは助かるよ。まだ契約が続いてる人もいるから」
最後に右手と右手の対等な握手を交わすと、トミーは爽やかな笑顔を見せてワールドの外へ出ていった。
「むぅー、あの人ならまだいいですけど、勝手にメンバー増やしたりはしないくださいね」
「俺もそこは慎重にするつもりだ。といっても、俺が信頼を置く冒険者はそこまで多くない。メンバーが4人に増えるのはまだ先のことだろうな」
「増やすつもりではあるんですね」
「俺以外に4人の冒険者とパーティを組むよう言われたんだ。楓香とトミーが加わって、残り2人。正直なところ、どうせパーティを組むのなら5人が最適だと思っている」
「わかりました。確かに、30階層以降は5人のパーティが必須とも聞きますしね。そこまで到達するのに何十年かかるかわからないですけど」
ここで楓香がパッと瞳を輝かせる。
「てことは、30階層に到達する頃にはわたしたちって夫婦ですね。子供は最低でも5人欲しいので……もう1組のパーティも一緒に行ってるパターンですか?」
楓香の頭の中では、将来俺と結婚しているらしい。
未来に何が起こるかは誰にもわからない。
だが、俺が誰かと結婚するなんて、そんなことがあり得るんだろうか。
楓香の綺麗な横顔を見ながら、あるかもわからない将来について考えを巡らせていた。
***
大阪のダンジョンの近く。
西園寺との電話を終えた山口は、一旦別れた青木をさがしていた。
電話をかけ直すと言い、少し位置を変えたのが10分ほど前。
近くで待っているだろうと思っていたのに、青木はどこにも見当たらない。
――確かに人は多いけど……真一君が僕を置いて遠くに行くなんてこともなさそうだしな……。
目立たないよう、黒髪にブラウンの目。
ソードナイトは大阪でも人気があるので、街中で気付かれたら大騒ぎだ。
連絡を取るために、例の万能腕時計で青木にメッセージを送ってみる。この腕時計は髪色や目の色の変化、服装の変更だけでなく、通信機能も備えていた。
もちろん、ダンジョン内での通信はできないが。
「気付いてくれよ……」
しかし、この日、青木が山口のメッセージを既読にすることはなかった。
***
「スミレさんやないか。ちょうど今剣騎と――」
「真一さん、今から私の家に来ませんか?」
「え、いいん……?」
山口が電話をするということで離れてから2分後。
今日会う予定のなかったスミレが、いきなり青木の前に現れた。
突然の家への誘い。
これはもしかしてワンチャンある?という期待を胸に抱きながら、青木は山口のことなど忘れてスミレの家に直行するのだった。




