第31話 休日に職場の上司と遭遇するというアレ
休日をこうやってテーマパークで過ごすことなんて初めてだ。
だからって浮かれているわけじゃない。
「才斗くんってここ来たことあるんですか?」
「一度だけな」
「え、1人で?」
テーマパークに1人で来るという心理。
純粋にそのテーマパークを好き勝手楽しみたい、そんなところか。
「両親と来た。小学生の頃の話だ」
俺が両親の話題を出すと、楓香はキュッと口を結ぶ。もう両親のことは気にしてないからいいんだが、そういう気遣いはしてくれるんだよな。
大輔は気合いの入った楓香の服装を見て、滲み出そうなにやけを必死に我慢している。
楓香は胸元を強調した桃色のワンピースを着ていた。
すれ違う男女がその美しさに心奪われていく。
「才斗って、ほんとに白桃さんと幼馴染なのか? やっぱり付き合ってるとか?」
「実はわたしたち、少し前から幼馴染卒業したんです」
幼馴染卒業ってなんだ。
「告白はわたしの方からしたんですけど、両想いだったってわかって……その日にディープキスしちゃいました」
「才斗君!?」
今度はトミーが声を上げる。
楓香の勝手な暴走は止まらない。
「ディープキスの後、わたし、体が火照ってきちゃって……その夜は才斗くんが激しくシテくれたんです」
誤解を招くとかいう次元の話じゃない。
完全に嘘だ。
とりあえず、楓香の頭の中が常にピンク色っていうことはよくわかった。
「そんな事実はない。楓香はちょっと……妄想が激しいところがあるんだ。鵜呑みにしないでくれ」
「えへへ、それは才斗くんがかっこいいからですよ~」
またも大輔とトミーはドン引き。
この女がヤバいことはよくわかっただろう。少なくとも、俺の言ったことは信じてくれたようだ。
***
冒険者ワールドは東京最大のテーマパークなので、全国各地から多くの観光客が訪問する。
入場料は1万円。
年間パスポートは3万円で買えるので、年に3回以上行く場合は年パスを買った方がずっとお得だ。
開園時間は朝9時だが、8時半の時点ですでに大行列ができていた。
入場待ちの間にごちゃごちゃした会話を終え、9時10分には4人全員が冒険者ワールドの園内に足を踏み入れる。入場して最初に見えるのは、冒険者ワールドのマスコットキャラ、ボウケン君の銅像だ。
大輔はボウケン君をパシャパシャと連写している。
「これが冒険者ワールド……凄い! 凄すぎる!」
ただ頭のでかいキャラの銅像があるだけだぞ、まだ。
「初めてだったのか?」
「当たり前だ! そんな金はない!って何度言われたか……」
「そうか……」
そういえば大輔の家は貧乏らしい。
兄弟が5人もいるため、生活は過酷なのだという。
両親共働きだが、父親は最近会社をリストラされ、母親は夜の仕事で精神を削りながら働いている、とか。
「今日はありがとう、友よ。才斗様がお金を全額出してくれたおかげで、おれは最高に幸せだっ」
「おう……」
大輔の分の入場料は俺が負担している。
今日はお金のことなど気にせず、存分に楽しんでもらいたい。
***
結論として、大輔はヘトヘトになるまで楽しんだ。
ギフトショップで売ってある5000円の安いスーツを最初に購入し(もちろん冒険者仕様ではない。そして俺の金で買った)、序盤から着替えてアトラクションに臨んでいた。
ダンジョンを再現したアトラクション。
実際に地下を深くまで掘るのは大変で危険なため、地上10階を1階層と捉え、12階層くらいまでは再現。
本物のダンジョンと広さも危険度も不気味さも比べものにならないが、一般人が体験できるアトラクションとしてはよくできていると思う。
プロジェクターを使って投影されたモンスターを専用の剣で倒していく。
大輔は絶望的にセンスがなかったので、1体もモンスターを倒せず、ゲームでなければ即死レベルだったが誰よりも楽しんでいた。
「このアトラクションで訓練できるかもね」
襲ってきたモンスターを一刀両断し、トミーが苦笑いしながら言った。
「剣の重さもなかなかしっかりしてるな」
「ですよね。こうして戦ってると、あの時のこと思い出しちゃいます。才斗くんがえっちを約束してくれて、一生懸命キングオーガと戦った時のこと」
大輔が自分の世界に入っていて良かった。
「発言には気を付けろ。誰がどこで聞いてるかもわからないからな」
「むぅー。ちゃんと約束守ってくれるならいいですけど~」
「あの、2人ってやっぱりどういう関係なの?」
「そりゃあもう、お互いを求め合うような――」
「西園寺と剣騎が押し付けてきた面倒な部下と、その上司だ」
「……なるほど?」
トミーはまだ、いろいろと大きな誤解をしているみたいだった。
***
俺たちはその後も、はしゃぐ大輔に引っ張られながら、様々なアトラクションを転々とした。
問題は、レストランで昼食を取り、ドーム型の冒険者記念館に入った時に突然発生する。
「まだ30年の歴史ですけど、冒険者っていっぱいいたんですね」
「殉職した人もいるし、復帰できないほどの怪我で引退した人もいるからね……今は活躍してない人がほとんどだよ」
「マーティさん、さすがお詳しい!」
3人はここまでの数時間で結構打ち解けていた。
俺を挟まなくても会話が成立している。そもそも、俺自体がコミュニケーションで頼れる存在じゃないしな。
「あ、あの、才斗くん……」
「どうした?」
並んで展示を見る俺たち。
隣の楓香が俺の袖をツンツンと引っ張ってくる。
「あれ、もしかして……」
「あ……」
楓香の視線の先には、【ウルフパック】の社長であり、現役のSランク冒険者である西園寺龍河がいた。
目立たないように黄金の瞳は茶色の瞳になっている。
いつもの絶大なオーラは鳴りを潜め、1人でポツンと展示を眺めていた。




